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第1話 / 全10話
──tus: SUCCESS
target_count: 1
soul_signature mismatch
consent_check bypassed
execute emergency_patch ... OK
床石の冷たさが、意識をゆっくりと引き上げる。
(……ここは?)
司は重い瞼を開いた。
高い天井。
見たこともない紋様が幾重にも刻まれ、淡い光を脈打たせている。
その光は、壁や床を這うようにゆっくりと広がっていた。
「……ぅ」
かすかな呻き声。
司は弾かれたように振り向いた。
隣に倒れていた娘――知結を、無意識に抱き寄せる。
細い肩に触れる。呼吸はある。
司は小さく息を吐き、彼女を庇うように身を起こした。
周囲を見渡す。
紺色のフードを纏った者たちが、杖を握ったまま何人も倒れ伏していた。
その外側を囲むように、白い神官服の集団が立っている。
誰もがこちらを見ていた。
(何か話してる……が、言葉が——)
「——の召喚は成功した。だが、隣の男は何だ?」
「鑑定結果が……出ません」
「壊れたのか?」
「いえ、何度試しても——」
突然、音の輪郭が意味を結び始めた。
まるで壊れたラジオに、急に周波数が合ったように。
同時に、視界がぐらりと歪む。
天井を流れていた淡い光が、見慣れた文字列へと組み変わっていった。
system summon_legacy_final_v13_fix2 {
// temporary patch
bypass consent_check
open_gate()
}
「……は?」
司の喉から、乾いた声が漏れた。
system summon_legacy_final_v13_fix2
《旧式召喚 最終版13 fix2》
なんだ、このクソみたいなコードは。
「……パパ?」
腕の中で、知結がゆっくりと目を開ける。
不安げに周囲を見回し、小さく司の服を掴んだ。
「大丈夫だ」
反射的にそう答えながらも、司の視線は天井から離れない。
「おお、聖女! 目覚められたか!」
硬質な靴音を響かせ、一人の青年が近づいてくる。
長い金髪を後ろで結い上げた、美しい男だった。
豪奢な衣装は王族か貴族を思わせる。
磨き上げられた笑顔。
だが司には、その表情が妙に空虚に見えた。
「……聖女?」
知結が眉を寄せる。
青年はその困惑すら意に介さず、優雅な動作で片膝をついた。
「私はレグナード。この国の王です。」
そして彼女へ向け、恭しく右手を差し出す。
「聖女。あなたが神に喚ばれ、この地に降臨されるのを待ち侘びていました」
穏やかで、よく通る声。
だがその響きは、どこか作り物めいていた。
「どうかその力で、我々をお救いくださいませんか?」
「えっ……私? ええっ!?」
知結の戸惑った声が神殿に響く。
その背後で、司は再び天井を見上げていた。
壁や床を流れる光。
脈打つ文字列。
食い入るように、それを追う。
「……なぁ、知結」
「え?」
「あの光、何に見える?」
知結はレグナードを警戒しながら、恐る恐る天井を見上げた。
「何って……魔法陣みたいな模様?」
「文字には見えないか」
「文字?……見えないかな。」
どうやら知結には、ただの魔法陣にしか見えていないらしい。
だが司には違った。
if mana < 1000 {
siphon surrounding_life()
}
周囲の生命力を吸収——
その文言に、司の背筋が冷たくなる。
さらに、その下。
// temporary patch
bypass consent_check
同意確認をスキップ。
術式の裏側に、汚れたログが見える。
継ぎ足しだらけの構造。
場当たり的な修正。
何度も延命を繰り返したシステム特有の腐臭。
司には、それが痛いほど分かった。
職業柄、嫌というほど見てきたからだ。
「聖女よ。どうか我々を救ってください」
レグナードは穏やかな笑みを崩さないまま続ける。
「それこそが、あなたがこの世界へ喚ばれた理由なのですから」
知結が不安そうに司を見上げる。
司は娘を庇うように、一歩前へ出た。
そして、レグナードを真っ直ぐ見据える。
「喚んだんじゃない」
低い声だった。
だが、その一言で神殿の空気が凍りつく。
「攫ったんだろう——お前らは」
司の目が、冷たく細められた。
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