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輪転する欲望-Revolving Desire / 第24話
不承不承といった様子でコーディリアは目を閉じると精神を集中して魔法を唱えはじめる。
オレが使えるライトや着火の魔法と違い、その呪文はかなり長い。
しばらくするとコーディリアは目を開くと、言った。
「このブーツは『アッシュメイカー』ですね。履いた状態で歩くと、足跡が炎上するアイテムです」
「なんだ、その放火犯御用達の魔導具は」
「常時発動じゃなくて、魔力を通した時だけ燃えるみたいですね。魔力量が少なければ燃えさしが燻るぐらいですが」
アッシュメイカーと言う名から周囲を灰燼に帰すような業火でも巻き起こすのかと思ったが、名前負けにもほどがあるだろう。
だが、初級ダンジョンで手に入るマジックアイテムだとこの程度のものか。
「値段はいくらだ?」
「それは目利きできないとわかりませんよ。ですがこれ、たぶんそう高い品じゃないと思います」
「まぁ、それもそうだな。なにせ冒険者が捨てていこうとしたゴミだからな」
「ゴミを鑑定させられている私の立場……」
「よし、次だ」
非難がましい目でこちらを見てくるコーディリアを無視し、オレは次に派手な服を鑑定させた。
結果は「ウインドダンサー」と言う名前のアイテムだそうだが……。
「これも魔力を通した時だけ発動するアイテムですね。体重が1/2になります」
「コイツも名前負けだな。風の踊り手が聞いて呆れる」
「しかもこれ、サイズ小さいですよ。ボスには着れないと思います」
「オレがこんな趣味の悪い服を着る訳がないだろう。次だ」
コーディリアは箱のようなものを手に取ると三度魔法を唱える。
「これは……『カシナート』ですね。武器の一種です」
「武器?これがか?」
「はい。ここを押して……そう、展開すると中に刃が」
「また魔力を通すのか?」
「ええ。そうすると刃が回転して敵を粉砕します」
コーディリアはそう言うが、箱の間口は20cm四方程度しか無く、こんな所に押し込める敵なら素手でも倒せそうに思える。
試しに魔力を通して見ると、確かに箱の中で金属製の刃が回転している。
「……フードプロセッサーじゃないか」
「なんですか、それ」
「いや、こっちの話だ。しかし見事にゴミばかりだな」
「……私はゴミじゃ無いですからね?」
業務をこなしたコーディリアの事をゴミとは思っていないが、オレはご大層な名前のブーツと衣服を再びずだ袋へ放り込んだ。
この分だとおそらくポーションも毒かなにかで使い物にならないだろうと考え、纏めて放り込んだものを事務所の片隅へと放り投げる。
「捨てるんですか?」
「まさか。何かの時に使えるかもしれんだろう」
「そう言ってると部屋が散らかりますよ」
「一日でメイドの手助けが必要になるお前に言われたくはない」
「……私は子爵家令嬢なので」
「元令嬢だろうが」
オレは脇にどけていたフードプロセッサーを手に、コーディリアに応じる。
オレがフードプロセッサーを持っていることに気付いたコーディリアは不思議そうな顔で訪ねてきた。
「それは捨てないんですか?」
「ああ。葉巻はオレの好みじゃないんでね。丁度フードプロセッサーが手に入ったんだ。これで刻んで紙巻きタバコを自作する」
「金貨15枚のモノを刻むんですか?」
「どうせ燃えて煙になるんだ。刻んでようが、形が残ってようが同じだ」
「そういうものですか。それで、私の杖は……」
珍しく目を輝かせているコーディリアに、杖が「魔力の杖」と言う名で魔法の矢を放つ攻撃用の魔導具だと伝えると微妙な顔をされた。
「女性に武器を贈るとか、どういうセンスなんですか」
「贈ったと言うより、お前が欲しがったんだろうが」
「そうですけど……。確かにこの魔石、握り心地が良くて長さもぴったりですけど……」
なら、そいつは今日からただの歩行用の杖だ。
魔導具の価値はピンキリで、使えるモノも使えないモノもある。
そしてその使い道にしても一つとは限らない。
これまでゴミとして捨てられていたモノの中に、実は商機に繋がるものがあるかもしれないと思うと、ダンジョン資源への興味と、それを使ったビジネススキームの創出に心躍るものを感じた。
「……よし、明日はマードック商会と冒険者ギルドだな」
「ボス、たまには事務所でも仕事してください」
コーディリアが何か言っているが、無視だ。
オレの仕事はルーチンワークじゃないからな。
翌朝、オレはマードック商会へ向かい、会頭に面会を求めた。
先日オレが訪問したことは番頭から連絡が行っていたらしく、会頭はまるで待ち構えていたようにオレを出迎えた。
「これはヤクザ殿、よくおいで下さいました。何やら人間鑑定の魔導具に興味をお持ちとの事でしたが、面白い商いでも思いつかれましたかな?」
「ええ。実のところ今日はそのことで会頭に事業提携のお話をさせて戴こうかと思いましてね」
「ほほう……事業提携ですか。それはそれは……」
会頭の好々爺然とした笑顔が一瞬で商人の表情へと変わる。相変わらず喰えない男だ。
「ヤクザ殿はウスラー商会を継承され、金融業を営まれていると伺いましたが……」
「小さな街金、小商いですがね。ですが今回考えている事業は商いの規模が大きい。そしてその商いは対象を冒険者、特にダンジョンアタックを行う連中に限定しようと思いまして」
「ほう……それで?」
「従来の与信の仕組みに少々手を入れようと考えているんですよ」
「……与信…ですと?聞き慣れぬ言葉ですが、それはさしずめ人間鑑定の魔導具に関連のあることですかな?」
相変わらず勘の良い事だ。オレは会頭の言葉に頷き、今考えている新しい与信の仕組みについて説明した。
「……与信、そして三つのCですか。信用見なら我々も行いますが、それとは異なる、初めて聞く言葉も含まれておりますな」
三つのCとは与信、すなわちカネを貸す際に相手がどの程度信用できるかを判断する目安の評価項目で、
「Capacity/収益力」
「Character/信頼性」
「Capital/自己資産」
の頭文字を取ったものだ。
オレはコーディリアからこの世界の与信が主に「Capital/自己資産」を中心に行われていると聞いていた。
担保となる換金可能な財産と保証人の有無によって行われる融資の判断は、街金レベルの金融取引しか行われていないこの世界では十分なのかもしれない。
だがオレが考えているスキームではより大きな金が動く以上、もっと正確な与信基準が必要になる。
しかしこの世界には現代日本の様にネットワークもデータベースも、信用保証会社も存在しない。
おまけにオレが与信の対象とする冒険者達は日雇い労働者に近く、収入も安定しない。
そんな連中を相手に与信を行うには、この世界に合わせて調整を施した仕組みが必要になる訳だが……。
「収益力というのが、人間鑑定によるステータス評価ですかな?」
「ええ、基本はそうです。ですがオレは現在のステータスよりも、潜在能力を評価しようと思っています」
「……理由を伺っても?」
「オレの考えるビジネスは冒険者に『先』を目指して貰う必要があるからですよ。素質ある者は先行投資を行う価値がある。一方で今どれだけ強くとも、現状で足踏みをするしかない、頭打ちの状態の人間には大金を貸す価値が無い」
「なるほど、人間を投資対象と考えるわけですな。ですが伸びしろがあっても弱い冒険者に貸し付けを行うと、回収できなくなるのでは?何せ彼らは命懸けの稼業ですからなぁ」
会頭が言うのももっともだ。
貸倒れリスクを考えるのであれば既に強い冒険者にカネを貸すほうが正しいし、コーディリアが人間鑑定を行っていたのも現有能力……すなわち返済能力を見極めるためだ。
だが、実のところ、オレの狙いは与信によってカネを貸すことそのものではない。
「そこで自己資産です」
「……はて、お話が見えませんが」
「本来自己資産とは担保となる換金可能な財を指しますが、オレは冒険者と共にダンジョンへ足を運び、彼等の持つ強みと弱みを知りました。例えば――」
ダンジョン踏破力を基準に考えられた「合理的」なパーティ編成。
補助職や回復職が不在である理由とその弊害。
俺の話す冒険者の状況は、もちろん冒険者相手の商売をしている会頭には周知のことだっただろう。
ひとしきり話した後、おれは不審げな表情を浮かべる会頭に言った。
「つまり、彼等の効率とは短期的な利益に目がくらんだ非効率でしかありません。盗賊や回復役を同行させれば、長期的には彼等のダンジョン踏破力は向上ますから……」
「生還して、貸し付けたカネを返すようにもなる、ということですな?」
「ええ。ですから冒険者の与信には、合理的なパーティ構成か否かを含めるべきであるとオレは考えています。仲間こそが彼らにとっての『資産』ですからね」
もちろんオレは本心から仲間ごっこのような甘いことを考えているわけではない。
だが、連中を死なせるとカネは返ってこないし、怪我をして療養ばかりしていると回転効率が悪くなる。
連中の生還率をデフォルト回避率だと解釈すれば、踏破力はキャッシュフロー創出力に他ならない。
つまり、これらはオレが上げる利益に直結するKPIになりうるということだ。
「なるほど、実に興味深い。ですが……今のお話ですと、儂の出番は件の魔導具を提供させていただくだけのように思えますな?」
「いえ、今お話したのはあくまでも冒険者向け与信の説明でしかありませんよ。ここからが本題なんですが――」
オレが告げた「本題」に会頭は大きく目を見開いた。
説明が進むにつれ、会頭の視線が宙を見つめ、話を聞きながらも頭の中でせわしなく損得勘定を行っていることが見て取れた。
そして一通り説明が終わった後、長考したあと会頭は言った。
「実に……ユニークで、面白いお話ですが、大きな問題もあるように思えますな」
「ええ。冒険者がどれだけ信用に足るかですね?」
「まさにその通りです。そこはどうお考えですかな?」
「そこで、最後のCです」
「ほう……。たしか信頼性、でしたか?」
さすが大店の会頭だけあって、商売に絡む話は一度聞けばしっかりと記憶しているらしい。
「これはこの後、冒険者ギルドにも提携を持ちかける必要があるのですが……。冒険者ギルドでは各冒険者の依頼達成率や、依頼主からの評価を記録しているんですよ」
「ほほう。読めてきましたぞ」
「例え若く未熟でも依頼に真摯に取り組み、依頼主から高評価を受ける者。例えベテランでも仕事を雑に扱い、依頼主が眉をひそめるような者。オレのスキームが対象としているのは……」
「言うまでもなく前者、ですな。なるほど、依頼の難易度ではなく達成評価をもって信頼性を測るということですか」
「ええ。この指標は加点式ではなく減点式で評価を行う予定です。オレの考えるビジネスは100%の信頼を求めるものですから」
「実にヤクザ殿らしいですな。ですが、お話は判りました。詳しい契約内容はまた日を改めて調整させていただきますが、マードック商会も是非その仕組みに加えていただければ」
そう言うと会頭は手を差し出し、オレたちはいつぞやのように固く握手を交わした。
とりあえず、マードック商会向けのプレゼンは成功したようだ。
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