読み込み中...
読み込み中...
倉庫脱出編 / 第8話
「ふぅ~、ごちそうさまァ~」
最後のひと口を飲み込み、葉月は満足そうに手を合わせた。
グラスの水を飲み干すと、空になった土鍋に蓋をして、盆を両手に席を立つ。
「あ!そうだ、サクラっち~」
葉月は目の前に座るカイに目配せし、天井を見上げた。
「この上ってさァ、休憩所って案内板あったけど~?」
「あ!ありますよ、個室になってます」
自分はバイト終わりにシャワーだけ使ったことがあるが、運送ドライバーのおじさん達がよく仮眠や一泊していたのを思い出した。
「了解ィ。じゃぁ~2階みてくるわ、徳さんここ、まかせていい?」
テーブルの向かい側、カイの隣に座っていた徳川がさりげなく右手を挙げ、応えた。
お盆をカウンターに戻し、女将さんにちょっかいをかけながらお礼を言った後、葉月は2階へ続く階段へ消えていった。
「女将さんがいてくれるお陰で、だいぶ助かってるね」
食事の盆を片付けながら、徳川が呟いた。
「そうですね、どちらの方なんですか」
Tシャツにジーンズ姿の上田が尋ねた。
「おばちゃんはね~、自衛隊防府基地のアイドルなんや」
もうひとつのテーブルに座っていた楓が振り向き、自慢げに応えた。
「正確には、隊員食堂の女将さんなんですよ」
楓の隣の仙川が、苦笑いしながら訂正した。
「あ~それで、皆さん顔なじみなんですね」
上田は、納得したように頷いた。
「そういえば上田さんて、何してる人?」
振り向いたついでのように、楓が何気なく質問した。
「僕は、本業は学生ですけど、動画配信やってます。徳川さんの紹介で基地に取材に来てました」
ウェーブのかかった長めの前髪をいじりながら、Tシャツにジーパンの青年、上田 健二は胸に手をあてて一礼した。
「でも皆さんのおかげで・・・命拾いしました」
「へぇ~、フォロワーなん万人?」
楓が感心しながら上田に尋ねた。
「いやいや、まだ1000人すらいってないです・・・」
上田は恥ずかしそうに謙遜していた。
「おにーさんは、ここの人やったんね?」
楓はカイの方を見た。
カイは背中越しに座っていたが、立ち上がって楓たちに向き直し、一礼した。
「はい、バイトです。佐倉 櫂です」
その様子に楓はいたずらっぽい笑みを浮かべ、座ったままポーズをとった。
「ウチが96式の美少女パイロット、岡崎 楓(おかざき かえで)いいます~。」
目元でピースサインしながらウインクし、とびきりの笑顔を見せた。
隣の仙川は「えぇ??」といわんばかりに口を半開きにして、冷ややかな視線を隣の自称美少女パイロット(26)に向けていた。
しかしカイは怯むことなく、キラキラした目で楓を見つめている。
カイの興味は、別ベクトルの次元を向いて暴走し始めた。
「あの、96MEのアクチュエーターの動きって繊細ですか?肩から上腕関節までは油圧式で肘から手首までは電動式でマニュピレーターはピエゾ式で指先で折り紙が折れるくらい超繊細な動きが可能って聞いてるんですが操作系ってどうなってるんですかやっぱりバイペダルローダーのコントロールスティックとは全然違うんですよね、どうなってるんだろ?いいなぁ~僕も乗りたいなぁ~よかったらこの後コクピット見せて貰えませんか?やっぱ軍事機密なので無理ですか?ちょっとだけでいいので触らせ・・・」
「ちょちょちょ、待ちぃ~」
楓がカイのマシンガンのような口撃を、両手で静止した。
「なんやこのコ、キモ!なにゆうとんのか全然わからへんわ、キモ!」
楓は上半身を反らせて露骨に引いてみせた。
さらに、冷ややかな表情で続けた。
「うちの”みーちゃん(96ME)”のコアは女の園や!男子禁制や!!!」
「・・・葉月さんが整備してんだけどねぇ」
仙川がぼやいていた。
「んぁ?俺が何ィ?」
動かない自動扉の暗闇から、ゆらゆらとゆらめくキャンドルを片手に葉月が現れた。
「2階、すげぇよ、ビジホみてぇだ。アロマキャンドルまであった」
「窓が割れてて使えない部屋もあったけど、充ぅぅ分イケる」
手土産のアロマキャンドルを、女性たちが座るテーブルに置いた。
「はい、コーヒー上がったよ」
女将さんが徳川と一緒に人数分のカップ&ソーサーと、淹れたてのコーヒーで満たしたコーヒーサーバーを持って来た。
「悪いことばかり続いたけど、なんだかええ方向に向いてきたねぇ」
女将さんはほっとしたような、安心したような声でコーヒーを注ぎ始めた。
徳川がコーヒーが注がれたカップとソーサーを配りながら続けた。
「飲んで一息ついたら、2階で休みましょう。葉月さん、隊長さんにも報告を」
葉月は頷いて、肩の無線機のスイッチを入れた。
——1時間後。
食事を終えた陸上自衛隊第31特務小隊の隊長、八代 創は、誰も居なくなった食堂で、徳川とカイの3人でテーブルを囲んでいた。
食事中に訊いた徳川とカイの話をまとめるために、八代は迷彩色のカバーのついた手帳を広げ、用件を箇条書きで書き出した。
・自衛隊へ卸している”在庫”は『弾薬庫』で厳重に保管されている
・『弾薬庫』は、専用の『カードキー』が必要
・『カードキー』は事務所ビル棟で支店長が厳重に管理していた
・『カードキー』を作動させるには、『電力の回復』が必要
・電力の回復には『非常用発電機』を稼働が必要
「下から順番に解決していく必要があるか」
八代は箇条書きの一部をペンでトントンと叩いた。
「どうだろう佐倉くん、見覚えはないかい?」
「・・・メモ帳、貸してもらっていいですか?」
カイは八代と手帳とペンを受け取ると、ざっくりとした見取り図を書きはじめた。
南北に走る国道。
国道に沿って建つ事務所棟と外来用駐車場。
事務所棟の西側に大きな物流倉庫と倉庫に隣接した食堂(現在位置)。
その北側に『弾薬庫』。
『弾薬庫』の東側壁にフェンスで囲まれた「発電機?」と「タンク?」
『弾薬庫』から北の敷地外に、スーパーマーケットがあり、そのすぐ裏を国道2号線が東西に走っている。
手帳のノートの片面をいっぱいに使って見取り図を描き、八代に返した。
八代は手帳を受け取って見返し、現在位置、事務所棟、弾薬庫、発電機の位置をチェックし、弾薬庫と発電機を大きく囲うようにマルを書き加えた。
「第一に電力の回復。これは併設のタンク次第だな。第二にカードキーの捜索と確保。支店長の姿がない以上、これが現状一番難しいか」
八代はメモの『カードキー』にアンダーラインを走らせる。
徳川がカイの見取り図の『事務所棟』を指差した。
「ここは私が調べましょう。少々心当たりがあるもので」
「では、私は発電機とタンクを担当します」
八代は見取り図をペン先でトントンと叩いた。
「僕は・・・」
カイが口を開いたが、徳川がそれを制して口元を緩ませた。
「君は一旦休みなさい。万事うまくいった後、頑張ってもらう必要がある」
「フォークリフトに、バイペダルローダー、荷物の積み込みには必要な人材だな」
八代も同意見のようだ。
「うまくいったら、96MEのコクピット、見せてやんよ」
八代が笑いながら右手を差し出した。
「よろしくおねがいします!」
二人はがっちりと握手を交わした。
「懸念事項がひとつ」
八代は手元のコーヒーカップを、広げた手帳の見取り図の下に置き直した。
「距離があるので大丈夫とは思うが・・・この位置にヤツがいる。行動は慎重に」
この話はいかがでしたか?
この作品を評価する