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倉庫脱出編 / 第6話
厨房の中で、女将さんと仙川がてきぱきと動いている。
停電している中、ガスコンロがライターで着火できたのが幸いだった。
ただ、換気扇が回らないため、厨房の中は相当な暑さだった。
それでも、女将さんは額に汗を滲ませながらも嬉しそうにしていた。
仙川はいつのまにか肩にかけていたライフルや防弾ベストなどの装備を脱ぎ捨て、女将さんの指示で右に左に動き回っていた。
「りんちゃん、鍋敷きないかしら?」
「はい」
「りんちゃん、ピッチャーに氷入れて、そうそう、製氷機から溶けちょらんの見繕って」
「はい」
「氷いれた?じゃ、そこのバットのライムを入れて、水を入れて軽くかきまぜちょって~」
「はーい・・・HmmHmm♪・・・Hummm・・・♪」
仙川も鼻歌まじりで楽しそうである。
女将さんがカウンター越しに顔を出した。
「楓ちゃん、お疲れのところ悪いんじゃけど・・・おむすびこさえるけぇ、てごうしてくれんかね」
「えぇ~!?、うち料理まったく出来へんよ?」
楓が無理無理!と手を振った。
「あ、じゃわたし、手伝います」
その様子を見ていた紗綾が手を挙げた。
「あぁ、サヤちゃん悪いわね、おねがい~てごうして~」
「楓ちゃん?そんなんじゃお嫁にいけんよ?ほら、きんさい!」
女将さんは苦笑いしながら厨房の奥に消えていった。
メディカルウェアの女性、九堂 紗綾が、少年に「ちょっと手伝ってくるね」と囁くように声を掛け立ち上がった。
楓もしぶしぶと両手のグローブをテーブルの上に脱ぎ捨てると、二人は厨房へ入っていった。
——しばらくすると、食堂の中でいい匂いが広がった。
醤油と出汁の香ばしい匂い。
カウンターに一人用の定食盆が人数分並び、食事の準備が進められていく。
続いて、梅干しが乗った小皿と、1人前の小さな土鍋がぐつぐつという音を立てながら載せられた。
そして、カウンターにライム入りの冷水で満たされたピッチャーも、どん、と置かれた。
「はい、あがったよ~。ところで、隊長さんは?呼んでこれんの?」
女将さんが楓に声をかけた。
「隊長は見張り番、後であたしと交代します」
ニコニコしながら楓が駆け寄ってきた。
「ほ~かね、じゃあ隊長さんのは置いちょこうね。あ、楓ちゃんのはこっちのお盆ね、たなかうどん~」
「おばちゃん、ねぎは~?」
「もう入れちょるよ、お店と違うんじゃけ、これで我慢して、あんたのこっちね」
と、土鍋の蓋を開けた。
土鍋の蓋にくっつくほど、大量の刻みネギが盛られていた。
「自分で入れるのが楽しいのに~」
楓は文句を言いながら土鍋の中を覗き込んだが、少し嬉しそうだった。
「我慢しぃ!さめんうちにはよぉ食べ!隊長さんがたべられんじゃろ?」
女将さんは再び蓋を閉じると、楓をしっしっと促した。
「ほな!ってあれ?さっきのおむすびは?」
「あれは明日の朝のぶん。ご飯痛みそうじゃったけ、焼きおむすびにして置いちょくそいね」
「ふ~ん、楽しみやん、いただきまーす!」
楓は定食盆を嬉しそうに抱えて少年が座っているテーブルに座り、さっそく土鍋の蓋を開けてふーふー云いながら食べ始めた。
「楓ちゃん、梅干しも食べるんよ?疲労回復!」
「ほら、ほかのみなさんも、熱いうちにもってって、食べて」
女将さんがカウンターの中から、皆に声をかけた。
紗綾が率先して料理盆を抱え、少年のところへ運んだ。
少年は座ったまま、眼の前に運ばれてくる食事をじっと見つめていた。
「さ、ご飯、あったかいうちに食べて」
「あ、ありがとう、ございます」
かすれるような小さな声で、少年が頭を下げた。
「やっとしゃべった~」
少年の向かい側に座っていた、楓が笑った。
「ご飯食べて元気ださなな?おねーちゃんな、岡崎 楓ゆうねん。よろしくな」
「おおたに・・・あきらです」
少年・大谷 映は、楓をじっと見つめ、消え入りそうな小さな声で呟いた。
「あきらくんかー、よろしくな~」
楓はニィっと大きく微笑んだ。
「ほら、蓋あけて、一緒に食べよ?」
あついから気ぃつけてな、と楓が少し身を乗り出し、アキラのお膳の土鍋の蓋を開けた。
ふわっと湯気があがり、昆布、鰹節、醤油で整えた優しくも香ばしいお出汁の香りが広がった。
ふつふつと音を立てるお出汁。
しっかり味が染み込んでふっくら艶やかな白いご飯の粒。
白いご飯の中に浮かぶ、黄色のコーン、緑のグリーンピース、赤いにんじんの彩りのアクセント。
まあるくかけられた、とろとろ黄金色の溶き卵。
仕上げにぱらぱらと振りかけられた細かく刻んだきざみ海苔。
「特製ミックスベジタブル雑炊よ。お口に合うとええけど。付け合せの梅干しもどうぞ!」
女将がカウンター越しに微笑んだ。
「中にウインナーも入れちょったよ」
「うまそうや~ん」
楓の目の色が変わっている。
「あんたのぶんはあるじゃろ!あきらくん、遠慮せんでええからようけ食べてね」
女将さんは楓を嗜めると、皆に早く取りに来るよう両手で手招きした。
「皆さんのも同じ雑炊じゃけど、小皿の梅干を少しずつ入れて食べてみてーね。さっぱりしますよ」
カイたちは順番に「特製ミックスベジタブル雑炊」を受け取った。
各々がテーブルに付き、食べ始めた。
カイは徳川、葉月、上田と一緒の席につき、蓋をあけた。
小皿の梅干しを箸で割り、少しだけ雑炊の上にちょこんと乗せてれんげで掬うと、ふぅふぅと少し息をふきかけ、口へ運んだ。
酸っぱいかな、と思っていたが、梅干のさわやかな酸味が広がったその後、まろやかな出汁の旨味と甘みが口の中に広がる。
梅干しの酸っぱさが、そのあとに広がる旨味と甘味を際立たせている。
蒸し暑ささえ感じる夜に、あつあつの雑炊。
なのに、不思議と食が進み、ほっこりする。
男性陣は、みな「おお!?」と驚き、ほぼ無言で食べ続けた。
「口にあったみたいじゃね。よかったわぁ」
カウンターの女将さんがしてやったり!と微笑んだ。
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