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束縛未来のカタストローフェ 合宿訓練編 / 第10話
一週間が経過した。
会長の言った通り、合宿の話は翌朝には担任の小沼から知らされた。
その翌週にあたる今日、校舎裏口に設けられた軍用車両等出入り口前スペースに止まる大型バス二台の前に俺たち六組と五組の生徒は並ばされている。
「みなさ~ん! 順番に! 順番にですよぉ~」
小沼は相変わらずの様子であり、まったくもって頼りないが、六組用に割り当てられたバスに乗り込む生徒たちをどうにか誘導しようと奮闘している。
そんな様子を横目に最後尾でため息をついていた俺に、前にいる沢渡が話しかけてきた。
「大丈夫かな? 私、訓練についていけるかな……」
不安そうな面持ちの沢渡に、俺は鼻で笑って返してから横を見る。そこには……。
「大丈夫だよ! 毎日、放課後欠かさず訓練したもん!」
なぜか春花がいた。
春花は乗れないからな?
「真輝ー! ちゃんと、愛里ちゃんのこと、気にかけてあげるんだよ?」
なんで俺が。
「わたくしも、お願いしたいですね」
背後からの声に振り返ると、会長がいた。生徒会、と腕章をつけた生徒を九名引き連れて。
なんであんたがここにいる。
「わたくしに、そう不機嫌そうな顔を向けないでほしいのだけれど?」
だったら、近寄ってくるな。
「真輝、無視しない」
「はぁ……。会長も、同じバスなのか?」
「ええ。そうよ」
面倒くさいな、本当に。
俺がため息をついて返事をしたつもりになっていると、会長の横にいた男が一歩前に出てきた。男性の生徒ながら華奢な体つきに、ベリーショートをさらに短くしたような髪型は、女装すれば女だと言い張れなくもないだろうな。
で、いったいなんなんだ?
「貴様、新入生が会長に向かってなんて態度だ。訂正したまえ」
すげえ睨んでくるな。
はぁ……。またため息出ちゃったよ。
「わたくしは気にしていませんから、下がりなさい」
会長は横目で男に鋭い一瞥をくれるも、男はまるで下がる様子はない。
「ですが、会長のお立場で、このような……」
「大切なのは立場ではなく実力でしょう」
「お言葉ですが、軍隊の運用上、立場の上下はハッキリさせておくべきかと」
男の言葉に、会長の目の色が暗く変わるのが見て取れた。
どうやら、怒らせたようだぞ。
「一般的な兵科とは違い、使い手は一個人の戦闘能力が問われるのですよ? その点で言えば、高柳さんよりも桐原さんのほうが強いと思いますが?」
「っ! そんなはずっ……」
信じられないとでも言いたげに、高柳と呼ばれた男は目を見開くと、俺のほうへ侮蔑の色のこもった視線を向けてきたが……。
「わたくしにこれ以上恥をかかせないでもらいたいものですね。いい加減、みっともない真似はやめなさい」
間髪入れず会長から発せられた鋭い声に、高柳は悔しそうに歯噛みしながらも、最後にキッと俺を睨みつけてから下がった。
もう、絡んでくるなよ。面倒くさい。
「沢渡さーん、桐原くーん。最後ですよー」
気づけば俺たち以外全員乗り終えていたらしく、小沼が困ったようにしつつ、口をとがらせている。
「桐原君、行こう?」
「ああ」
「うー、真輝!」
春花がいきなり抱きついてきた。
寂しいのだろう。
柔らかな体を痛いほど強く押し付けて、二の腕にくっついてきている。
「私、一週間一人で毎日シて我慢してるからね! 帰ってきたら、いっぱいエッチしようね!」
「昨日もいっぱいしただろうが」
春花に付き合ってると、俺の身も持たないときがあるレベルなんだ。
「うーっ! 足りないの!」
上目遣いに涙目で今生の別れのようにされてしまうと罪悪感がわくな。
周りの目が気になるが、ここは仕方ない。
俺は軽く抱き寄せた。
「いってくる」
春花は、非難の目を俺に向けて口を開きかけたが、それを閉じてからにっこり笑った。
「うん! 行ってらっしゃい、頑張って!」
沢渡は、なんだか乾いた笑みを浮かべながらバスに乗り込んでいくし、小沼はなぜか頬を赤らめて、目を白黒させている。
どうでもいいので沢渡に続き、バスに乗り込んだ。
空いているのはどうやら一番後ろの席だけらしい。
左手窓際の席に沢渡が座ったので、俺はその隣に腰かける。
いや、隣じゃなくて逆サイドの窓際が良かったか。
つい、詰めた方がいいかと思ってしまったが、俺が最後尾なのだからその必要はなかったな。
思い直し、俺が席を移ろうとした、そのタイミングだった。
「お隣、失礼しますね」
なんで会長が隣に座るんだ。
優雅な所作で隣に来やがった会長を見やると、なぜか笑みを向けられた。
「嫌なの?」
「ああ」
前のほうを見てみると、学徒隊のメンバーは先生と同じく前列側にいるじゃないか。
なんでここに来るんだ。
「わたくしが、あなたとお話ししたいからですよ」
会長はそのまま、視線を俺の横へと向けると、沢渡ににこりと笑いかけた。
なるほどな。
沢渡のこと、気にしているって言ってたし、本命はそっちか。
俺は一人納得し、致し方なく今の席で妥協することにすると、腕を組んで深く座りなおした。
ちょうどそんなタイミングだった。
「みなさーん。全員そろってますかー?」
前方で席から立ち上がり後ろを見渡していた小沼がきょろきょろと不安げに人数を確認してから、満足げにうなずく。
「大丈夫ですね~。じゃあ、お願いしまーす」
小沼が運転手に声をかけると、バスが発進した。
ふわふわとしながらも気持ちの悪くならない、よくできた車だな。
「桐原さん」
後は、横にこいつさえいなければな。
「桐原さん、聞いてますか?」
知るか。
俺は会長に後頭部を見せてやった。だが、そうすると、目の前には沢渡がいるわけで。
「桐原君? 会長が呼んでる、けど……」
申し訳なさそうな顔するなら、何も言ってくるなよ。
てか、なんで退路がないんだ。
俺は足を組み、正面を向いて目を閉じた。
昨日も二時くらいまで春花としてたんだ。
とにかく疲れてんだから、話したいなら二人でやっててくれ。
とりあえず、両側から(主に会長からだが)飛んでくる声を無視して、力を抜いた。
思いのほか、良い座り心地のシートに身をゆだねると、車の不規則な揺れと相まって、俺の睡眠欲が十分に引き出される。
学徒隊の護衛もついていることだ。
今はこの欲に身をゆだねてもいいだろう。
気が緩むと同時、俺は自然とまどろみの中に落ちていった。
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