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束縛未来のカタストローフェ 合宿訓練編 / 第5話
すぐに靴に履き替えた俺と、それに少し遅れてきた沢渡が外で待っていると、一人だけ違う下駄箱である春花が一番最後にやってきた。
春花にしてはずいぶん行動が遅い気がするが……。
「ごめん、お待たせ!」
「少し遅かったな」
「クラスの子にお昼誘われちゃってさ。でも、真輝と行くから断ってきたの」
「そうか」
主席だしな。お近づきになりたい生徒は多いんだろうな。
「男か?」
「え? 女の子だけど」
「そうか」
身の程知らずは今のところいないらしい。
「愛里ちゃん、行こっ!」
「えっと、私おじゃまでは?」
「え? なんで? そんなわけないじゃん!」
「でも……」
沢渡はなんで俺にお伺いをたてるような目を向けてくるんだ。春花が誘ってんだから、一緒に来ればいいだろうに。まあ、別に俺は本当にどっちでもいいけどな。
「愛里ちゃん! 私ね、行ってみたいカフェがあってね!」
「そう、なの?」
「うん! だから行こっ」
春花は沢渡の腕を掴むと正門に向けて歩き出したので、俺もその後ろをついていく。春花はずいぶんと沢渡のことが気に入ったらしいな。まあ、友達ができるのはいいことだ。
下駄箱から正門へ向かう道は一つで、学校敷地内中央にあるメイン通りを歩いていくだけだ。もちろんのことながら、初日を終えた新入生たちがそれなりの数いる。
正門から出て行く生徒たちを迎えるようにわらわらといるのは、おそらく新入生の親だろう。
テロ組織対策のため、厳格な警備が敷かれている特務科高校の入学式に親は参列できないが、終了後に祝うものも多いのだろうな。
そんなことを考えつつ見ていた俺だったが、さすが春花は気が利くらしい。
「あ、愛里ちゃん。もしかして親御さんと、この後約束あったりする?」
「ううん。ないよ」
「そっか、じゃあ大丈夫だね」
両親の髪色をらしいと言った時点でいない可能性が高いとは思っていたが、やはりか。
まあ、俺の両親は特殊害生物の襲撃に巻き込まれて俺が小学生の時には他界しているし、春花の両親は海外勤務だから、今日はいないからな。
入学式に顔を出せるような家族ばかりではないご時世ってだけの話かもしれないが……。
そう思いつつ歩みを進めていると。
「ごめん、ちょっといいかな?」
男の声に俺が振り返ると、見覚えのない男が五人立っていた。
話しかけてきたのはおそらく真ん中に立っている奴だな。校章の数からいって三年生のようだが、随分ガタイが良いな。少し筋肉つけすぎじゃないか?
「何の用だ?」
「先輩への態度には気を付けた方がいいんじゃないかい? 特に、暴力は良くないよ」
男が笑顔のまま視線を送った先には……ああ、今朝の沢渡に絡んでた奴らがいるな。
先輩引き連れて、五人でやってくるとは。関係ない三人もわざわざ出張ってきて、よほど暇なんだろうな。
「で? これだけ目がある中で、恫喝か? 随分と良い先輩なんだな?」
「いや、実力主義の側面が強いのが特務科だからね。新入生にやられたままってわけにはいかないじゃない?」
笑顔は崩さないが、目が笑ってないな。
「実力主義? 笑わせるなよ。あんたが言ってんのは、年功序列主義だろ? 無能でも年を取れば、上に立てるなんて便利だもんな?」
「っ……」
笑顔が一瞬崩れたな。理性を失って殴りかかってきてくれれば、正当防衛が成立するんだが、そこまでバカではないように見える。
使い手としての能力がある以上、退学はないから、案外簡単に暴力に訴えて来るかと思ったんだが、そう簡単にはいかないようだ。
「桐原君っ!」
右側に目をやると、焦ったような表情で、沢渡がこちらを見ていた。
「桐原君、もういいよ!」
「何が」
「私、大丈夫だから……」
何言ってんだこいつ。
「黙れよ」
俺は沢渡を無意識ににらんでいた。結果、沢渡はおびえたように一歩、後退ってしまう。
「真輝、ダメだよ、今のは」
「……」
春花にそう言われたら仕方ない。
けどな。沢渡がどう思おうが、そんなことはどうだっていいんだ。そんなことよりも、年下の女だったら手籠めにできると思ってる神経の下種と、それを体面のためだけに擁護するバカが気に入らない。それだけだ。
だが、冷静さを欠いていたのも事実か。
俺は努めて深呼吸をしてから口を開いた。
「先輩さんよ。あんた、どうしたいんだ?」
俺はまっすぐに男の目を見据える。
「そうだね。模擬戦という形ではどうだろうか?」
「模擬戦?」
「ああ。交流戦と言う体であれば、教官も立ち会ってくれるだろうからね。ちゃんとした場で、正々堂々と戦えば、少しは現実が理解できると思うよ」
こいつ、勝てると思ってやがるな。随分な自信だな。
まあ、いいか。と、承諾しようとした、そんなタイミングだった。
「随分と、面白そうな話をしているわね」
男たちのさらに後方から、よく通る凛とした声が響いた。
俺は勿論、男たちも一斉に声の主へ顔を向ける。
そこにいたのは、上級生の女だった。
バックルにある校章の数からも三年生であることは間違いないのだが、体型は小学校高学年かと思うほどに幼いし、頭の水色カチューシャが、細いデザインとはいえ、さらに幼さを感じさせてくる。
ただ、堂々とした態度があまりにも様になっているのだ。
まあ、理由は説明するまでもないだろうな。
「わたくし、特務科高校生徒会長、クライス怜奈が仲裁に入りましょう」
そうなのだ。二の腕に輝く赤い腕章に刺繍された会長の文字通り、この女は特務科高校の現生徒会長なのだ。
会長は、体に不釣り合いなほど強い眼力を放つヘーゼル色の瞳で俺たちを見据え、腰まで伸びた長い金髪を邪魔そうにはらいつつ近寄ってきた。
「……ん?」
今気づいたが、会長の後ろに一人、気持ち悪いほどに出来すぎた笑顔を携えた、気色の悪い美少年がいやがる。
「やあ! わが友よ!」
ウィンクするな気持ち悪い。
俺は、残念ながら見覚えのあるそいつ(確か、山下とか言ったか?)を睨みつけていると、会長が面白そうに笑った。
「彼がわたくしに知らせてくれたのですよ? お友達だったのですね」
「冗談じゃない」
こんな気色悪い友人、お断りだ。
俺にとって心底不快な笑みを携えた山下から視線を外してため息をついたあたりで、会長が話を元に戻すためか、男たちに視線を移す。
「双方の事情は知らないのだけれど、正式に模擬戦という形をとって、そのうえでお互い納得できるのでしたら、それが一番だと思うわ」
会長がここまで言ったのだ。男たちも断る理由はないだろう。
いや、断る選択肢自体がなくなったと言うべきか?
なにせ、特務科高校で生徒会長を務めているということは、在籍している生徒の中で一番の実力者であるということの証なのだから。
それに逆らうのが得策でないことくらい、わかるというものだ。
沈黙ではあれど、自身に視線が集まっていることが回答だと受け取ったらしく、会長は小さく頷いた。
「全員、異議なしということでいいかしらね?」
これで決まりだな。
そう思った矢先、口をはさんできたのは意外な人物だった。
「あのっ……」
沢渡だ。
その場にいる全員の注目を集め、一瞬縮こまってしまった沢渡だったが、それでも意を決したように再度口を開く。
「元はといえば、私が発端といいますか……」
はぁ……。またかこいつは。
「少し黙ってろ」
俺は、沢渡を睨みつける。すると、沢渡は小動物のように肩をびくりとはねさせてから、うつむいてしまった。
「もう、真輝。ダメだって。愛里ちゃんは愛里ちゃんなりに気を使ってくれてるんじゃないの?」
そうなのかもしれないが、的外れなんだよ。
「なあ、会長さん」
「何かしら?」
「さっさとしよう。春花の昼食がまだなんだ」
俺の言葉に同意するか迷ったのだろう。
会長は一度、沢渡へ視線を送ってから、反応がないのを確認し、再度俺たちの顔を確認するように見て、頷いた。
「いいわ。じゃあ、移動しましょうか」
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