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束縛未来のカタストローフェ 合宿訓練編 / 第6話
現在、俺たちがいるのは模擬訓練用修練館だ。
体育館などの大型施設のある並びに建てられた訓練用施設であり、バレーコート弱ほどのサイズである四十坪の個別訓練室が三百四部屋用意されている。
基本的には一対一の指導や、個人訓練に貸し出しされるが、教師や生徒会執行部役員の立会いの下であれば、条件付きの模擬戦も許されるのだ。
その一階、七八号室が空いているとのことで、俺たちはやってきていた。
模擬戦は一対一。さっきのリーダー格と思しき三年の男と俺である。
勝ったところで、さらにいちゃもんをつけられたらたまったもんではないが、先ほどここに移動しながら事の経緯をさっくり話したところ、それを聞いた会長が、「まさか、新入生の女の子をナンパしていたなんてね。ねえ?」とバカ二人にすごんでいたし、それに両名ともが焦ったように必死に謝罪を繰り返していたので、これ以上のトラブルは避けられるはずだ。
てか、謝るくらいなら戦わなきゃいいと思うのだが、それとこれとは話が別なんだろう。
新入生に負けたままでは終われないってことか。
ま、なんにしろ、さっさと終わらせて飯を食いに行きたいもんだ。
と、思っていたのだが。
「はいはーい!」
七八号室に入るなり、春花が元気に挙手しやがった。
「お昼前の運動がてら、私もやる!」
「おいおい」
何言いだしてんだ。
「ねえ真輝、良いでしょ? 友達を怖い目にあわせたんだもん。私、許せないよ」
頬をぷっくりと膨らませた可愛い表情でそんなことを言っている。だがなぁ……。
「僕も立候補させていただこうかな」
なぜかついてきていた山下がキモイ笑顔で寝ぼけたことをいいながら俺の隣にやってきた。
「足手まといはいらん」
相手は曲がりなりにも上級生なんだ。常識的に考えて、入学式を終えたばかりの生徒が勝つなど普通は無理筋だ。
「友よ。そう照れることはないさ」
こいつ、マジで話通じねぇな。だいたいなぁ。
「相手方が了承しなきゃ、俺がどうこう言える話じゃない」
俺が男のほうへ視線を向けると、にこりと笑顔が帰ってきた。
「かまわないよ? こちらも三人丁度いるしね」
どうやら、男含む三人で相手をするつもりらしい。発端になった二人組のバカは、戦力に数えられていないらしいな。
何にしても、話はまとまったようだ。それを会長も理解したらしく、頷いた。
「良いでしょう。では、両者一定間隔をとって、中央へ」
無機質な白い部屋の中心部で相手方と向かい合う形で立った俺たちの手には、部屋の片隅に用意されている木製の剣と槍があった。
自身が顕現できる武器種に合わせて俺と山下は剣。春花は槍だ。相手方は例の男が剣で、残る二人が槍だ。
槍の間合いに入らない程度の絶妙な位置取りで並ぶ俺たちに向け、沢渡が不安げな表情をしているのが視界に入る。
まあ、心配するだけ損だろうけどな。なんなら、山下の心配だけをしてやるといい。
俺がそんなことを考えていると、会長が再び口を開いた。
「一年生は、一組の岸春花さんに、三組の山下文廣さん。そして、六組の桐原真輝さんね」
まさか、新入生含め全生徒の名前を憶えているのか?
少し感心していると、春花の対面に立つ男が俺のほうを見て何やら、笑っていた。
「まじかよ。六組って」
こいつ、小物だな。
俺が、心の中でため息をついているうちに、男たちの紹介がつつがなく行われていった。
名前なんか、どうだっていいんだが、どうやら全員一組らしい。
ってことは、会長のクラスメイトじゃないのか? しつけはしっかりしといてくれよ。
「はぁ……」
俺のため息を合図にするように、会長が右腕を真上に上げる。
「両者構え!」
一瞬訪れる静けさ。俺以外の者が全員、模擬戦用の武器を構えて戦闘姿勢をとっていた。
誰一人笑顔を漏らすことなどなく緊張感が漂う。
それは……。
「はじめっ!」
会長の一言で破られた。
目の前の男が最小限の動作で俺に切りかかってきて、それを受け止めたのと丁度同じくらいのタイミング。
「くはっ!」
左側にいた男が、乾いた声を漏らしていた。
次々と俺へ迫りくる剣戟をさばきながら左のほうへ目をやると、春花の槍の石突が相手の腹部に見事に入っていた。
もちろん、刺してはいない。
相手の持っていた槍は宙を舞って行ってるし、思った以上にあっさりやられたな。さすが小物。
そいつは石突につかれた勢いのまま吹っ飛んでいき、壁に背を打ち付けて気絶した。
春花はと言うと、すっきりしたような表情で俺にブイサインを送ってきている。
無邪気な笑顔に見とれつつ俺は、目の前の男の攻撃をさばき続けた。
男が今まで浮かべていた笑顔はすでになく、加えて春花が既に一人つぶしたことで、表情に焦りが見え始めたな。三対二になるとでも思っているのだろう。
けど、それはない。
「真輝ー、あとは頑張れー」
とまあ、春花が援護に入ってきたりはしないさ。木製の槍を首の後ろに引っ掛けるようにして持ちながら高みの見物を始めたようだ。
さて、山下は……。
思ったよりも善戦していた。軍人家系と言ってたからな、それなりに訓練を受けてから入学したのだろう。相手とほぼ互角と言っていいくらいだ。
一年三組の生徒が、三年一組の生徒と互角という時点で、もう勝ったようなものだろう。
「おい!」
「ん?」
目の前の男がいきなり怒鳴りつけてきた。平静を装う余裕すらなくなったみたいだな。
俺が片手間で戦っているのが気に食わなかったんだろうが、それは仕方ないだろう。
実力が違いすぎる。
対人戦と、対特殊害生物戦では勝手が違う。
能力値の差は主に特殊害生物戦での戦力差には直結してくるが、顕現武器も使用しない対人戦に関して言えば、その差など僅かまで縮まるんだ。
ただまあ、決してこの男が弱いというわけではない。
視野は広いし、見た目通りフィジカルもある。剣技も、フェイントをうまく織り交ぜていて、高校生としては相当なものだ。
けどな……。
「経験が浅いな」
俺は受け止めた剣をそのまま捻って弾き飛ばした。
男が体勢を一瞬崩したので、返す刀で切りつける。だがさすがというべきか、男はそれを紙一重でかわし……そのまま、後方にすっころんだ。
「……え?」
天井を見上げ、何が起こったのかわからないといった表情の男の首元へ剣を突きつける。
「降参するよな?」
剣に気をとられすぎだ。だから、足払いに気づけなかったんだよ。
こんなフェイントも読めないようでは、国防大で苦労するだろうが……俺には関係ない話だ。
「くっ……降参する」
心底悔しそうに男が両手を上げたので、俺は剣を引いた。丁度そのタイミングで。
「ま、まいった。降参だ」
右側からも、そんな声が。
見ると、山下が相手の喉元に剣を突きつけている。
「そこまでっ!」
会長の声とともに、模擬戦は終了となった。
山下に関しても、一応視界の隅で成り行きは見ていたよ。まあ、及第点だな。
男が倒されたことに気をとられた相手の隙をしっかり見落とさず、決めきった。その判断能力は評価に値する。
だが、ほめる気は微塵もない。
なぜなら、山下はどや顔でこちらに歩み寄ってくると、前髪をかきあげて。
「僕にかかれば……はぁ……このくらい、はぁ……どうということは、ないさ……ふう……」
肩で息してるくせに、なんでこんなに自慢げなんだよ。どうしたら、こんなに自分を過大評価できるんだ。
俺があきれつつ、視線を明後日に向けると、ちょうど会長がこちらに歩み寄ってきていた。
「お疲れさま。想像以上だったわ」
「? どういう意味だ」
「あなた、桐原の弟なのでしょう?」
「……」
そうか。こいつも、英雄の弟という色眼鏡で見てきて、あまつさえもめ事を利用して実力の確認までしてきたのか。
気に食わないな。
「あんた、仮にも会長だろ? こんな試すような真似するのかよ」
俺が睨みつけても、別段どうということもなさそうに、会長は薄く笑みを浮かべた。
「気に障ったなら謝るわ。けどね、言ったでしょう、想像以上だって」
「それが?」
「あなたは優秀な人間よ。兄に比べて能力値が低いことにコンプレックスがあるのかもしれないけど、それを補って余りある戦闘センスだわ」
「俺をほめても、兄に伝えたりはしないぞ?」
そもそも、今どこで何をやっているのかさえ知らないんだ。
「そんなんじゃないわ。お兄さんと彼女さんと彼女さんのお姉さん。周りが天才ばかりで、劣等感を抱いてるんじゃないかと心配になったのよ」
ずいぶんと俺の周りのことを嗅ぎ回ってんだな。そんなに英雄とお近づきになりたいのかよ。
「随分熱心なんだな。けど残念だったな。俺は兄の連絡先さえ知らないんだ」
「そんなんじゃないって、そう言ったと思うのだけれど?」
ああそうかい。
会長は困ったように笑っているが、才のあるやつに俺の気持ちがわかるわけはない。
「あとはわたくしが処理しておくわ。お昼に行くのでしょう?」
「ああ」
「楽しんで」
会長はそう言うと俺の横を通り、男たちのところへ向かった。
それと入れ替わるように、駆け寄ってきたのは沢渡だった。
「桐原君っ! あの……」
沢渡は俺の前までやってくると、視線をさまよわせた後、意を決したように口を開いた。
「ありがとう」
勢いよく頭を下げる姿に俺はため息を一つつき。
「お昼、行くんだろ?」
それだけ言って、沢渡の横を通り抜け出口へ。そして、後ろからは。
「あ、真輝! まってよー」
かわいらしい声が一つ。
「ふっ……僕もご一緒するとしよう」
芝居がかったキモイ声も一つ。
そして。
「あ、私も行くよっ」
沢渡がその後ろから駆け寄ってくるのが足音でわかった。
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