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第1話 / 全4話
「小娘が。人間ふぜいが、神に逆らうか」
「逆らう? 違います」
「貴方が、違反をしてるんです。盟約と、法律に。それと――」
「わたしたち、神域課に!」
わたしは剣を構え、切っ先を、神様へまっすぐ向けた。
「神様」
「それは――コンプライアンス違反です!」
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「それでは、本日の業務を始めます。神域課行動指針。」
全員が立ち上がる。わたしも、壁に貼られたポスターを見た。
「一、お客様は、神様です。」
「二、神様も、市民です。」
「三、敬意をもって接し、法に基づいて職務を果たします。」
課長の朝の挨拶。それから業務引継ぎがはじまった。いつもの風景だ。
わたしは上の空で聞きながら、自分の番を待つ。春日さんと田中くんの番が終わり、次はわたしだ。
「じゃあ次、清見さん。受益者負担の徴収状況はどう?」
課長の横の女性が、わたしに話を振る。この人は、係長の「御削 葵」さん。数年前まで神社本庁に所属、結婚後に松山市役所に転籍した。二年前に育休が明けてからすぐに昇進した、シゴデキのエリートだ。
「はい! 概ね順調です。ただ一か所、先週から連絡が取れていない神社があります。石手川ダムの先の重松地区です。本日この後、春日さんと現地に伺う予定です」
「わかりました。気を付けてね」
「ありがとうございます。行ってまいります!」
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「すみませ~ん。松山市神域課の職員ですけど~」
神域課。
わたしたちの世界には、太古の昔から"神格"と呼ばれる知的存在が棲息している。つまり神様だ。
けれど、神様は別に、人間を支配してるわけじゃない。
人々と神格は盟約を結んでいて、基本的神権と神格法に基づいて、それぞれ共存している。
今日の業務も、そのうちの一つ。神域課の行政サービスを受ける受益者負担として、賽銭収入の10%を市に収めていただく。宗教法人の宗教活動から得られる収入は非課税だけど、これは受益者負担だから関係ない。税金とは違う類のものだ。
正直言うと――役所の理屈もいろいろあるんやね、とは思うけど、これも仕事だから仕方ない。
「すみませ~ん。どなたかいらっしゃいますか~?」
もう一度声をかけた。社務所から返事がない。呼び鈴を押しても無反応。
「留守なんかな」
わたしの後ろでそう言ったのは、2年先輩の春日さん。ちょっと頼りない感じもあるけど、優しい人だ。いろいろ教えてくれる。
「うーん。どうなんでしょうね。訪問通知は配達済になってたんですけど……げ」
社務所の郵便受け。市役所からの通知が無造作に突っ込まれているのが見えた。
「これじゃあ、配達されただけやね。相当郵便物がたまっとる」
先輩が、郵便受けをのぞきこんで言った。
「何か、あったんでしょうか」
「どうなんやろね。ここ、滞納なんて今まで一回もなかったんやけどねぇ」
「ちょっと確認してみますね」
わたしは、公務用のスマホと、小さいアンテナを取り出した。神力測定器だ。
スマホのカメラに職員証のQRコードを読み込ませる。アプリを起動して、周囲の神力のスキャンを始めた。
「あれ。反応がない」
おかしい。有効範囲内に神格反応なし。
「ほんまやね。おや、本殿にも反応ないやん。これどうなっとるの」
え。本殿にも?!
「ちょっと見てきます!」
わたしは、先輩の返事も待たずに走り出して、奥の本殿に向かった。
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本殿は、ひどい有様だった。
扉は無造作に開け放たれ、内部は荒らされていた。
中で何かが争ったような跡がある。床板に引っ掻かれたような跡。そんなに古くない。
少なくとも、ここ数日中についたもののように見える。
「清見さん! なんしよん――ありゃー。こりゃ大変だわ! すぐ連絡入れるから、そのへん写真に撮っておいて。勝手に触ったらあかんよ」
追いかけてきた春日さんも、すぐに事態に気づいたようだった。
「あーもしもし。春日です。はい。受益者負担徴収の件です。そうです。重松の。――ええ、それがちょっと状況が変わってしまって。応援を――」
春日さんの話声を背中で聞きながら、言われたとおりに本殿内の様子を写真に撮っていく。
外から本殿内に差し込んだ光が、内部の埃に当たって、きらきらと光っている。少しだけ焦げたにおい。
写真を撮りながら、床板の傷を指でなぞってみる。ざらざらと、ささくれた感触。
「やっぱり、新しいんだ」
ひとりつぶやいて、目を上げた。一番奥。ご神体が収まっているはずの場所。
「嘘やろ。これって――」
そこには――何も、なかった。
「神様。おらんくなっとるね。こりゃ本当にいなげなことになった」
後ろから光がさした。電話を終えた春日さんが、スマホのライトで奥を照らしながら言った。
「それはそれとして、清見さん。勝手に触っちゃあかん言うたでしょ。今回は見なかったことにしとくけん、次気いつけてな」
「あ! ご、ごめんなさい……」
かぁっと顔が熱くなる。
「清見さん。顔、赤いよ」
「言わんといてください!」
ああもう、最悪や~。わたし、また”みかん顔”になっとるけん!
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