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第5話 / 全5話
「ふっ……うぅ、」
私はトイレの個室に籠り、溢れる涙を拭っていた。
好きな人がいる、か。
出会って2日目の私である可能性は限りなく低い。というか、ありえない。
こんなにも好きになれたことなんて今までに無かったのに。なんて早い失恋なんだろう。
好きな人さえいなければ、私にもチャンスがあるかもしれなかったのに。
「つらいな」
ポロッと口からこぼれた言葉に、また涙が溢れてしまう。
でも、すぐに戻らなくては。トイレに長いしていると、本当に体調が悪いと思われてしまう。心配をかけたくはない私にとって、それはとても良くない。
できるだけ目が赤くならないよう、涙を拭き、よし、と気合を入れ直す。
あぁ、お腹痛い気がする。
なんだか気分が悪い気がする。
……戻りたくないな
「雪ー?」
個室から出れないでいると、ドアの向こうから沙月の声が聞こえた。
なんで入ってる個室がわかったんだろうとか思ったけど、沙月だから分かるよなーと納得する。
「沙月……」
震える声で答えると、やっぱりかー、と声が聞こえる。
「早く戻ってきなよ。他にもいい人いるって」
いつも聞いている沙月の声に、安心感からまた涙が。
なんて涙脆いんだろう、自分の体が嫌になる。
「美雨ちゃんは、今までとは違ったの」
そう、美雨ちゃんは今までに好きになった人よりも、何百倍も惚れていた。まだ2日目なのに、1番好きだった人と言い切れるほどに。
「……一緒だよ。雪にはもっと合う人がいるから」
「そんなの、分かんないじゃん」
駄々をこねる子供のように、私は沙月の言葉全てに否定を返す。
「分かるよ。私は雪のことならなんでも分かる」
嘘をついていない、真っ直ぐな言葉。
確かに、沙月なら本当に分かってしまうかもしれない。それでも、今はまだ心の整理がつかないでいる。
でも、これ以上ここに引きこもっている訳には行かない。
「ごめん沙月、戻ろう」
個室の扉を開き、目の前に立っている沙月と共に教室へと戻った。
「雪さん! 大丈夫でしたか?」
「昨日食べた牡蠣が当たったんだってさ」
「ちょっと沙月!」
茶化してくる沙月の頭をスパンと叩き、嘘だからね、と訂正を挟みながら席に着く。
まだ4分の1も食べれていないお弁当に橋を伸ばし、少なくなった昼休憩に間に合わせるように口へと運ぶ。
「2人だけの秘密ってことね」
「……まあね」
もぐもぐと咀嚼しながら、適当に言葉を返す。
美雨ちゃんのことを真っ直ぐ見ることができず、会話をするのもしんどい。
とにかく私は、今目の前にあるお弁当を平らげることだけを考えなくては行けない。
食事に集中していると、二人が会話を始めた。
「沙月さんは、恋人とか居るんですか?」
「居ないね」
確かに、沙月に恋人が居たという記憶はない。
好きな人がいるというのも聞いたことがないような。
「へぇー、今までに付き合ったこともないんですか?」
「無いね」
淡白な返事に、美雨ちゃんが不快に思ったらどうするんだ! と叱りつけてやりたいが、そんなことをしている余裕は無い。時間的にも、心的にも。
「えぇー! 沙月さんすごく綺麗なのに? いや、綺麗だからこそなのか?」
「美雨は褒めてくれるから気分がいいね」
いつの間に美雨呼びになったんだ?
羨ましい。羨ましい!
いや、でも今の私にそう呼ぶ権利はない。
「えへへ、そう言ってもらえて私も嬉しいです!」
えへへ?? ハア。可愛いって罪だよ。
こんなの、クラス全員が美雨ちゃんのことを好きになっちゃう。困った人間だよほんと。
「ふふ、ちなみに、好きな人はいるよ」
「え?!」
口から溢れ出た声に、自分がいちばんビックリしてしまった。
沙月に、好きな人がいる??
「あれ、雪さんも知らなかったんですか?」
「全く。居るなら言ってくれればよかったのに」
沙月はくすくすと笑っている。
「まあー、言おうとは思ってたけど言いにくくて」
私に気を使ってたのか。
前を向いて好きな子ができたと伝えたから、今こうやって教えてくれたのかな。
気を使わせちゃってたんだ。
「え、その好きな人ってどんな人なんですか??」
興味津々という風に沙月に質問をする美雨ちゃん。
目を輝かやかせる姿も愛おしい。
「そうだね、やる気に満ち溢れてるのに空回りするところが見てて面白いよ」
「へぇー! それは可愛い人ですね!」
沙月の周りにそんな人居たっけ?
うーん、誰のことだろう。
「誰なのかは教えてくれないの?」
「うーん、今はまだ嫌かも」
私に対しても、嫌なの?
そういえば、私って沙月のことよく知らないな。
親友だと思ってたけど、沙月にとっては好きな人も言えないような相手ってこと?
「まあ、恥ずかしいですよね! 私も、人に伝えるのは恥ずかしくて無理ですし……」
好きな人なんて聞きたくないから、言わないでくれて助かった。
いつの間にか敬語に戻っている様子を見ながら、急いで残りのお弁当を頬張る。
「だよねー、誰かに相談できたら楽なのかもしれないけど」
「そうだね。恥ずかしがらずに相談してくれたらいいのに」
沙月の1番の親友でありたい。
だからこそ、私が相談するように、沙月にもして欲しいのだ。
「勇気が出たら、しようかな」
「私も、勇気が出たら相談します!」
2人はお互いを見つめ、笑顔で会話している。
私は?
私に相談をするっていう話じゃないの!?
置いてけぼりの空気の中、あと少しになった白米を箸でもち上げ、口元へと運ぶ。
「でもまあ、私には一生無理かもな」
沙月の言葉が、とても寂しそうに聞こえた。
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