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第4話 / 全5話
「はぁー……」
家へ帰り、制服のままベッドへと倒れ込んだ。
ふかふかの枕に顔を埋めると、シャンプーの香りが鼻をくすぐる。
目を閉じ、今日1日の出来事を思い返して見ることにした。
美雨ちゃんとぶつかったこと。同じクラスだったこと。隣の席だったこと。手を繋いだこと。指を褒められたこと。髪を耳にかけてもらったこと。
「うぅ……」
思い出すだけで恥ずかしい。
枕へ顔を押し付け、足をばたばたと動かした。
「なんであんなに近いの……」
初対面なのに距離が近い。
でも、不思議と嫌じゃなかった。
それどころか。
「また話したいな……」
自然とそんな言葉が漏れてしまう。
美雨ちゃんの笑顔を思い浮かべる。
ころころ変わる表情。大きなリアクション。嬉しいことも恥ずかしいことも全部顔に出てしまうところ。
「可愛い……」
ぽつりと呟いた瞬間、自分で自分の顔が熱くなった。
「私、重症かも」
まだ出会って一日。
それなのに、頭の中は美雨ちゃんでいっぱいだった。
◇◇◇
「今日こそは聞けそう?」
翌朝、沙月と一緒に登校しながら会話していた。
「聞けそうとか聞けなそうとかじゃない。聞くんだよ」
ガッツポーズをしながらそう応える私。
ぷっ、と吹き出しながら沙月が笑う。
「やる気に満ち溢れてるのは良いことじゃない?」
そんな会話をしていると、いつの間にか学校についてしまっていた。
教室へと向かうと、私たちが1番だったらしく、誰もいない空間が目の前に広がっている。
「ラッキーだね、沙月」
「二人だけの教室って、なんか良いね」
それぞれの席に荷物を置き、二人並んで窓の外を眺める。
窓から見える景色は、まばらに登校してくる生徒達と、朝練をしている先輩達。
「これが、エモいってやつだね」
「そうだね」
沙月は私の言葉にうんと頷き、ただ黙って外を眺めていた。
少しすると、クラスメイト達もゆっくりと教室に入ってきた。
「あ!」
元気な聞き覚えのある声が耳に入ってくる。
「美雨ちゃん。おはよう」
「雪さん! おはようございます!」
その声の持ち主は、やはり思ってた通りの人だった。
満面の笑みを向けてくる可愛い少女。
隣に立っていた沙月も一緒に美雨ちゃんの方へと近付いていった。
「おはよう。美雨ちゃんだよね? 私の名前は旗ノ沙月。よろしく」
「雪さんのお友達さんですよね! よろしくお願いします、沙月さん!」
お前は惚れるなよという圧を沙月に掛けながら、二人は握手を交わしていた。
「やっぱり、雪さんの周りには美人さんが集まるんですか?」
「あー、確かに。そうかもね」
「沙月、調子に乗らないで」
美雨ちゃんの質問に対し、沙月は顎に手を当て、美人ですアピールをしてきた。
正直ムカつく。そんなことをして、美雨ちゃんが惚れてしまったらどうするの! やめてよ!
その様子を見ながら、美雨ちゃんはくすくすと笑っているようだった。
まあ、美雨ちゃんが笑顔なら別にいいか。
いや、良くない!
「ほら、そろそろ先生来るから席に戻りなよ」
「はいはい」
沙月の背中を押し、無理やり席へと返す。
今だけ、沙月の席が離れていることに感謝した。
「本当に仲良いんですね、二人」
「そうかな。でも、私は沙月を1番の親友だと思ってるから、そうなのかもね」
髪をクルクルと指に巻き付けながら、少し恥ずかしい事を口にした。
いや、少し所ではない。とても恥ずかしい。
「……ちょっと、嫉妬しちゃいますね」
え?
……ん?
「嫉妬?」
今にも叫び出しそうな気持ちを押さえ込みながら、ギリギリの状態で美雨ちゃんに確認する。
「はい、私も雪さんとも〜っと仲良くなりたいなって!」
えぇー!!!!!??
か、可愛すぎる。
可愛すぎて吐血してしまうかと思った。
私も仲良くなりたいよ凄く! なんて言いたいけど、流石にそんなことは言えない。クールビューティなお姉さんを目指して言葉を選ぶ。
「ありがとう。私も美雨ちゃんと仲良くなりたいと思ってるよ」
キラキラと目を輝かせ、美雨ちゃんはとても嬉しそうだった。
先生が教室に入ってきて、なんだか色々話している。
でも、全て話が入ってこなくて、ただ美雨ちゃんの事ばかりで頭がいっぱいになってしまった。
私と仲良くなりたい? そう思ってくれているなんて、嬉しいにも程がある。
昨日は傷付けてしまったと思っていたけど、それでも仲良くなりたいと言ってくれる美雨ちゃん。
隣の席になったからそう言ってくれているだけかも知れないけど、それでも嬉しい。
1限目が始まり、初回ということもあり、すぐに難しい授業を始めるわけではないようだった。
授業の説明、先生の自己紹介などをしていると、あっという間に終わってしまった。
そんな授業が4回続き、何の苦も感じない素敵な1日を過ごしている。
「お昼、良かったら一緒に食べませんか?」
4限目が終わり、美雨ちゃんが素晴らしい提案をしてくれた。
「勿論。沙月も一緒でいいかな」
「是非! 沙月さんとも仲良くなりたいと思ってたんです!」
本当に子犬みたいで可愛い子だ。
沙月も近付いてきて、近くの机を合わせて3人で昼食を食べることになった。
「二人は、いつから仲良いんですか?」
「幼稚園からだよね? なんだかんだ、そこからずっと一緒なんだよ」
お弁当を頬張りながら、楽しく談笑している。
「腐れ縁ってやつだよ。一生そばに居るんだろうなって思ってる」
沙月は3段の弁当を広げ、美味しそうに咀嚼している。
「そういえば、美雨ちゃんもタメ口で話してよ。敬語だと距離を感じちゃって悲しいからさ」
「た、確かに! 頑張りま……頑張る!」
頑張る、なんだ。可愛い。
「ちなみに、美雨って彼氏いるの?」
「沙月!」
急に凄いことを聞き始める沙月の肩を叩く。
「彼氏は、居ない。でも……」
1呼吸置いた後、美雨ちゃんはまたゆっくりと口を開いた。
「好きな人は居るよ」
——終わった。
失恋しました、今、ここで。
「……そうなんだ。きっと素敵な人だろうね」
「はい! とっても素敵で可愛い人です!」
ヤバい、泣きそうかも。
ごめん、と断りを入れて、御手洗にと席を立つ。
タイミング的にすぐこの場を離れるのは印象が良くないかもしれないけど、どうしてもこの場に入れる気がしなかったから。
「大丈夫?」
美雨ちゃんが心配そうにこちらを見てくる。
可愛いな、綺麗だな。
でも、もうこの子は私の所には来ない。
「大丈夫。ごめんね、すぐ戻るから」
沙月の口元だけが、ニヤリと笑っているように見えた。
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