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第1部3章『罪無き者の贖罪』ペレジス-虚栄の惑星 / 第57話
>>Towa
アイリスが議事堂の大扉を開け放ち、私達はそろって室内へ足を踏み入れる。私達の乱入にその場の空気が凍りついたのがわかった。
目の前に広がるのは合議のための「評議室」ではなく、まるでホロムービーに出てくるような玉座を備えた「謁見の間」だ。最奥の高い場所には大げさな玉座が据えられていて、まるで王様みたいな様子で私達を見下ろす男が座っていた。
玉座の前には並んで立つ評議員たち。そちらはまるで臣下のように高座に向かい合って、皆立ったまま微動だにしていない。
玉座の男は痩せた体躯で五十代ぐらいかな?顔立ちは鋭く痩せこけているけど、白髪交じりの髪をきっちりと撫で付けた感じは……まるで「貴族らしさ」を強調しようとしているみたいだ。だけど遠目にもその顔に不満と不安の影が浮かんでいるのがわかる。
その男、ベルンハルトの服装もやけに貴族的だ。華美な金糸の刺繍が施された黒い外套に、光を反射する銀の勲章らしきもの。見るからに派手だけど、そのデザインがどこかちぐはぐで、威厳を感じるというよりも無理に作り上げた豪奢な虚勢に見えた。そう、まるでホロムービーに登場するような「伯爵の役を演じる」ためだけに選んだ衣装のように、私には見えたんだ。
私達の突然の乱入にベルンハルトが視線をこちらに向けた。抑えきれない苛立ちが刻まれた険しい顔つきのまま、じろりと私達を睨みつける。明らかに予想外の来訪者に対する怒りと、不快感――そしてわずかな不安の色。
評議員達の間にもざわめきが小さく広がっていくのがわかった。
「なんだ?何者だ?」
「ギルドの制服……?もしや監察官か?」
「まさかベルンハルト様に……」
そんな囁きが漏れ聞こえる。突然の事に全員が私達の姿に釘付けになっているのがわかる。特に、ギルドの制服を身に付けた一番年長に見えるウォルターさんに。
私達がベルンハルトに近づこうと前進すると評議員たちは次々に視線を逸らしたり、慌てて書類に目を落としたりと動揺を隠せないようだ。しかしその中で、ほんの少し好奇心の光を宿してこちらを見つめる者もいるように見えた。なるほど、一口に評議員といっても立場や思惑が違う人がいるんだろうな……。
「……何のつもりだ?」
私達が玉座に近づくと、最奥の高座からベルンハルトの冷たい声が響いた。権力を誇示するように彼は玉座から微動だにせず、私達を見据えている。まるでここは自分が支配する領域だとでも言わんばかりに。
彼の声には怒りの色と無礼に対する不快感がはっきりと感じられた。
「私の名前はウォルター・クレマン。モーリオンギルド統括局から派遣された監察官です。ペレジス支部、ベルンハルト・ファルケライヒ支部長。あなたをいくつかの罪状で告発するために来ました」
ベルンハルトの視線を正面から受け止め、ウォルターさんはギルド章を掲げ、宣言する。
「ほう……告発だと?面白い、余興として聞いてやろう」
ベルンハルトの言葉には余裕が感じられる。証拠は隠滅したという自信?それとも強がってるだけ?
……たぶん、両方だろう。
「具体的な告発は、彼女から」
ウォルターさんはそう言うとアイリスを指し示した。ベルンハルトの視線がアイリスに向かう。評議員達もこれまで付き添いの秘書官とでも思っていたのか、初めてアイリスの姿に注目する。
アイリスは一歩前に出て、無表情のまま淡々と告発を始める。まるで感情を押し殺したように、姉の声は冷ややかで静かだ。
「モーリオンギルド所属、アイリス・ブースタリアです。ベルンハルト支部長、あなたの罪状をひとつずつ告発させて頂きます。まず、横領罪」
アイリスはフォトンタブを使って保管庫内で撮影した映像と物品目録を映し出した。画面には高価そうな宝石や、年代物の書物、数々の美術品が映っている。
ギルドの正規備品とは到底思えないそれらが、びっしりと保管庫に詰め込まれている様子が次々と明らかにされてゆく。
「これがあなたの私的な保管庫に収められていた資産の映像です。これらが個人の所有物であるという証拠は見当たりませんでしたか、逆に一部の物品については軌道ステーションで強権的に押収されたいう証拠があります」
ベルンハルトは冷笑し、肩をすくめて言った。
「横領、か。私がこの星のギルド支部を管理するにあたって必要なものを集めているだけだ。管理者が資産を保管するのは当然のことだろう?軌道ステーションで押収した品については、密輸品であったが故に押収し保管している。それだけだ」
私は唇を噛んだ。違う。本当は、個人の資産を奪った、ただの盗人なくせに……。彼の言い訳に腹が立ったけど、アイリスは反論せずベルンハルトを一瞥するとそのまま次の罪状へと進んだ。
「次に、C3の不正輸出に関連する横領罪。こちらがあなたがギルドに隠して他の惑星へ不正輸出した輝彩水晶核の取引データです」
アイリスの言葉にウォルターさんが証拠となるC3輸出データをホロディスプレイに投影した。そこに映るのは、明らかに非正規ルートで流通した痕跡を示すログだ。
「輝彩水晶核、すなわちC3はギルドの重要な資源です。あなたがそれを簿外で外部に売却した証拠があります」
アイリスの追求を、ベルンハルトは冷ややかに鼻で笑った。
「証拠?そのデータが本物であると言うことをどうやって証明するつもりだ?この告発ごっこと同じく、でっちあげではないと言う証拠はあるのだろうな?」
またしても強弁だ。証拠が偽造されたものではないことを証明するために、別の証拠が必要だとでも思っているんだろうか?自信たっぷりに言い切るベルンハルトの言葉に少しだけ不安がよぎる。しかしアイリスは気にする様子もなく淡々と告発を続ける。
「次に、窃盗罪です。あなたが所持していたマリエル・プランタジネットが描かれた肖像画には正当な所有者がいます。つまりこの物品は正当な手続きを経て取得されたものではありません」
アイリスが言葉を続けると、アリサが持っていた母の肖像画を掲げて見せた。ベルンハルトはその時初めてアリサがこの場にいることに気づいたのか、彼女を鋭い目でにらみつけると軽く舌打ちをして、不快そうに返す。
「その絵がどうした?確かに保管庫に収蔵していたものかもしれぬが、それはただの美術品だ。何か特別な価値や意味があるとでも?欲しいのであればくれてやるぞ」
……本当に腹立たしい。アリサの両親の形見とも言える絵を、まるでガラクタ扱いするなんて。アリサの表情も心なしかこわばっている。
でも、アイリスは表情を変えず次に進んだ。だけど、私の心に不安がよぎる。アイリス、あいつ……全然堪えてないよ?本当に大丈夫なの?
「さらに、傷害罪。……アリサさん」
アイリスの声に、アリサが一歩前に進み、羽織っていた外套を脱いだ。彼女が身にまとっているのは、アイリスの衣装。機械の獣と戦ったときに着ていた、動きやすいタンクトップとショートパンツ。つまり、アリサの肌は大部分が露出している。そして、その白い肌に刻まれた無数の傷跡。
評議員達は無言だけど、アリサのその姿に驚いたのか痛ましそうな表情を浮かべている。
……出発前にアイリスが行った提案。それはベルンハルトを追い詰めるための証拠として、アリサの傷跡を公開する選択肢がある、というものだった。指示や強要ではなく、あくまでも選択肢の提案。アリサはそれを承認し、配信映像を通じて人々の前にその傷を晒すことを自ら選んだ。アイリスが言うには、傷の公開はアリサが被害者であることを星の人々に印象付ける狙いもあるらしい。
だけどベルンハルトはそんなアリサの決意を、まるでくだらないものように冷ややか表情で言う。
「傷跡?確かに痛ましい姿だが、それが私のせいだという証拠でも?」
「……私の傷は、あなたがつけたものです」
被害者であるアリサ自身の証言。だけど……。
「その傷跡がどういう経緯でついたかを示す証拠でもあるのか?私に責任があるわけではないし、アリサの身辺保護に関しては部下に一任していた。彼女がギルドにとって危険な能力を隠していたのは事実だ。私はむしろ、その力をギルドのために活かすよう説得しようとしていただけであり、彼女を傷つけるつもりなどなかった」
私は息が詰まる思いだった。確かに彼は自分の手を汚さなかったのかもしれないけど、それでもアリサを徹底的に痛めつけたのは明白だ。
怒りで頭がいっぱいになる。もしアイリスに止められていなければ、私はこの場でベルンハルトを射殺していたに違いない。けど、それでもアイリスは……アリサに外套を着るよう指示し、冷静に告発を続けた。
「最後に、シノノメ前支部長の死。これはあなたが起こした事件であり、明らかな殺人です」
アイリスはシノノメ前支部長の手帳を掲げ、書かれたメモの内容を読み上げた。シノノメ支部長がベルンハルトの背信行為に気づき、それを記録に残していたこと。そして、その記録の存在を知っていたベルンハルトが、彼を謀殺したとする推測を語った。ベルンハルトの表情は一瞬険しくなったけど、すぐに薄笑いに戻る。
「憶測に過ぎないな。手帳に書かれた走り書きが、どうして殺人の証拠になる?その程度の物が証拠とは、笑わせてくれる」
……確かに、決定的な証拠にはなりにくいかもしれない。でも、これはシノノメさんが命を懸けて残したメッセージだ。なのに、彼はその事実に対して何の敬意も持たず、薄ら笑いを浮かべて嘲笑している。もう少し時間があれば、手帳のヒントを追うことでより確実な追求ができたかもしれないのに……。
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