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第1話 / 全9話
霧が濃く立ち込める、岩山に隠された古びた屋敷。その一室は、永遠に続く悲劇の産屋であった。ひとりの女が、ひんやりとした土間に敷かれた薄い布の上で、憔悴しきった表情で我が子を見つめていた。子の名は、幾度名付けても、常に虚しいものとなる。産み落とされ、光を浴びたその瞬間から、この小さな命には避けられない、残酷な期限が設定されている。
「……ぎ、ぎ……」
乳白色の肌は、見る間におびただしい数の水泡に覆われていく。それは微細な泡から始まり、見る間に豆粒大に膨れ上がり、皮膚の下で脈打つように、激しい痒みと痛みを発生させていた。
女は知っている。これは、世の人間が「幸せ」を感じるたびに、一つ、また一つと生まれてくるのだ。遥か彼方の村で、たった一人が口にした温かい食事の喜び、愛する者の手を取った小さな安堵、笑い合った一瞬の無邪気さ、それらすべてが子の身体に地獄の業火となって刻みつけられる。
子は痛みにもがき、声にならない嗚咽を上げ、やがて苦痛の限界を超えると、呪文のような言葉を繰り返す。
「……ぎ、ぎ…… ……ぎ、ぎ……」
それは、子の純粋な魂が発する、世界への呪詛。その言葉を数え終えたとき、子は事切れる。そして、その絶望の吐息が部屋を満たし、女は自ら命を絶とうとする。
ー その一瞬早く ー
女の腹部には、次なる生命の胎動が、冷酷なまでに確実な振動となって伝わるのだ。
女の身体は、呪いによって「絶望の中で再び身籠る」ことを強要されている。永遠に続く、子の死と、次の子の誕生という地獄。
水泡を消す術は、ただ一つ。
人々の「苦しみ」だけが、この泡を消すことができる。人間の流す血、叫び、心臓を締め付けられるような絶望だけが、子の苦痛を、一時的にだが、和らげることができるのだ。
女は、静かに祈る。
「どうか、どうか…外の世界に、今、大きな絶望が満ちていますように」
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