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第4章 盾 / 第9話
合流したノエルとリックスも、立派な軽装アーマーを身につけていた。髪も整えられ、私が言うのもなんだけれど格好よくなったと思う。
「オフィーリア、綺麗だ」
ノエルはさらっと私を褒める。
「でも、こんなことをされても、返せるものが……」
「俺も、こんなもの買う金なんかないって言ったら、『お代はいりません』だってさ。やっぱ、金持ちは違うよな」
リックスは頭を掻き、玉座の間がある方向へ目を向けた。
「それで、盾職を探してるって話もしたんだよ。そしたら、防具屋に行ってみろって」
そこに行けば、盾職と出会えるのだろうか。私をちゃんと一人の少女として扱ってくれるだろうか。大柄な男性を想像し、期待と不安がせめぎ合う。
「とりあえず、行ってみよう。仲間にするかどうかは会ってから決めてもいい」
「そうだな」
ノエルの提案に、私とリックスも頷いてみせる。会わないことには何も始まらない。私を聖女としか見てくれないのなら、私から断ってしまえばいい。
城を出て、通りを歩く。軽装アーマーを着た人ならいくらでもいる。でも、ドレスアーマーを身につけている人なんて他にいないので、それだけで人目を引いてしまう。
「あれ、噂の聖女様じゃないか?」
「お美しい……」
ドレスアーマーに着替える前とでは、まるで反応が違う。もう、昔の私には戻れないのかもしれない。若干の絶望が私の心を飲み込もうとする。
「オフィーリア」
「俺たちがついてるからな」
そんな私を、ノエルとリックスが引き戻してくれた。私は本当に仲間に恵まれている。今度は私の方から二人の手を握り、すっと前を見据えた。
防具屋は宿屋の近くに店を構えていた。ドアを開けると、錆の臭いが鼻をつく。中は薄暗く、それほど広い店ではない。所狭しと並ぶ防具と盾に埋もれるように、背の小さな少女が佇んでいた。
「盾職がいると聞いてきたんだが」
ノエルが店主に話しかけると、何故かその少女が私たちの方へと駆け寄ってきた。
「あんたたちが聖女様一行? ずっと待ってたんだよねー」
可愛らしい声と話し方のギャップに驚いてしまう。
「君が盾職か?」
「そうだよ!」
ノエルの問いに、少女はヘーゼルナッツ色の瞳を細める。
そこへ、リックスが口を開く。
「ちっこい子だな! 本当に盾なんか持てるのか?」
「はぁー!? ちっこいってなんなの!? 自分はデカいからって偉そうにー!」
「いや、素直な感想を言っただけなんだけど……」
リックスはたじろぎ、苦笑いをする。
「……リックス、それは絶対に言っちゃ駄目なやつだ」
「そうなのか?」
ノエルのツッコミに、私も心の中で大きく頷いてみせる。
「とにかく、あたしはアヴリルっていうから。オフィーリア、よろしくね」
「よろしくお願いします」
まさか、こんなに賑やかな少女が仲間になるとは思っていなかった。差し出された小さな手をそっと握り返す。
「じゃ、さっさと次の町に行こうよ! あたしはモンスターを早く狩りまくりたいからさー」
「物騒なこと言うな……」
「モンスターだって、人間を獲物としか見てないじゃん。いいって、モンスターの事情なんか気にしなくてもー」
アヴリルは壁に立て掛けてあった盾を軽々と持ち上げる。彼女の身体のどこにそんな力があるのだろう。ぽかんと呆けるしかなかった。
「オフィーリア? オフィーリアさーん?」
アヴリルは盾を片手で持ち、もう片方の手で私の視界へと手を振る。
「あっ、ごめんなさい」
「変なのー。んじゃ、ハウゼル、またねー」
アヴリルは店主にも手を振ると、颯爽と店を出ていってしまった。
「そういえば俺たち、まだアヴリルを仲間にするって言ってないよね?」
「いいんじゃないか? 悪い子じゃなさそうだしな。オフィーリアも女の子の仲間ができて安心してるんじゃないか?」
「……うん。変な男の人よりずっといい」
仲間になる人が、ノエルやリックスのように気のいい人だとは限らなかったのだ。アヴリルなら、重くなった私たちの空気を明るく吹き飛ばしてくれるかもしれない。
「私はアヴリルに着いてきて欲しい」
アヴリルの全てを見通せたわけではない。それでも、気を遣わなくても済む相手であることは理解できた。
私たちは王都に詳しくないので、アヴリルの後ろを着いて歩く。薄茶の左右で揺れる三つ編みが、後ろから見ても可愛らしい。
「次はどんな町なんだろうな」
「俺の予想は……ここよりも立派ではないと思っとく」
ノエルとリックスの会話を聞いていたのか、アヴリルは険しい顔で振り返った。
「は? それじゃあ、次の町じゃパフェは楽しめないってこと……?」
「パフェ?」
「パフェって……何?」
「行先変更! 喫茶店でストロベリーパフェの食べ収めしてやるんだから!」
アヴリルは右へと方向転換をし、歩調を速める。とはいえ、ちょこちょこ歩きなので逸れるほどではない。
「俺たち、寄り道してていいのかな?」
「いいんじゃないか? 俺たちだけじゃ、もう迷子になりそうだしな」
「私、パフェってどんなのか気になる」
喫茶店というくらいだから、飲み物かデザートのどちらかなのだろう。甘いのだろうか。酸っぱいのだろうか。想像がつかないだけに、楽しみになってしまう。
「三人とも、パフェ知らないの!? 信じらんない! 人生の半分は損してるよ!」
そんなに美味しいのだろうか。余計に期待は高まってしまう。
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