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第4章 盾 / 第10話
そうして辿り着いたのは、古風な喫茶店だった。窓には色付きガラスがはめられており、可愛らしい雰囲気だ。座席をワイン色のランプが照らしている。
席に着くと、誰の意見も聞かずにアヴリルはストロベリーパフェを四つ注文した。そして、彼女は少し冷静になったらしい。
「あたし、あんたたちの名前を聞いてなかった」
その視線はノエルとリックスを辿る。
「俺はリックスだよ」
「俺はノエル」
「ふーん。失礼なのがリックスで、無口なのがノエルっと」
さらりと悪口を挟んだな、と思いながら、ノエルとリックスの出方を窺う。
「でも、どうしてアヴリルはオフィーリアのことを知ってたんだ?」
「あー、それは騎士に聞いたの。名前だけね」
名前だけ、か。詳細は自分で見極めろ、との王の意思が働いたのだろうか。
「でも、オフィーリアが鼻につく子じゃなくてよかったーって思ってるんだよ? うるさいのはあたし一人でいいもん」
「うるさいの、自覚してたんだ……」
「何? なんか言いたいことあるの?」
「自覚があっても、直す気がないじゃん」
リックスの指摘に、アヴリルは首を大きく横に振った。
「うるさいのがあたしなの! あたしの特色を勝手に消さないでくれる?」
アヴリルがプイッとそっぽを向いた時、ようやくパフェと呼ばれる物が運ばれてきた。縦長のグラスに、ストロベリーアイス、ソフトクリーム、イチゴなどがふんだんに盛り付けられている。焼き菓子のようなものを想像したので、意表を突かれてしまった。
「やった! これだよこれ!」
アヴリルは運ばれてきた途端にスプーンを手に取り、顔を綻ばせながら頬張る。
「早く食べないと溶けちゃうよー」
アヴリルはちらりと私たちの様子を窺いながらも、手は止めない。せっかく注文したのだから、食べてみよう。ノエルやリックスと頷き合い、私もスプーンに手を伸ばす。
頬張ってみると冷たくて、甘くて、酸っぱいソースも効いていて、何とも言えない絶妙な味だ。
「美味しい……」
自然と言葉が零れていた。
「でしょ? これが都会の味ってやつ」
「てか、このパフェ、誰が払うの?」
「あんたたちに決まってるじゃん」
「は? 俺たちは、ただ巻き込まれただけなんだけど」
不服そうな顔を見せるリックスに、アヴリルは財布を取り出してみせる。しかし、中は空っぽだったらしく、ひっくり返しても何も出てこなかった。
「こういうことだから。あんたたちが払ってくれなかったら、無銭飲食ね」
「はー!?」
身を乗り出そうとするリックスの肩を、ノエルが叩く。
「落ち着け、リックス。こうなるのは分かってただろ?」
「分かんなかったから怒ってるんだけど!」
「下手に騒がない方がいい。余計に人の目を引くぞ」
ノエルの言葉に、はっと我に返る。周りの席を見てみれば、ちらちらと私たちの顔を見ている客が多いことに気付かされた。
リックスも今になって気付いたのだろう。バツが悪そうに目を伏せる。
「……アヴリル、分かっててやってるじゃんか」
「こういうところにも頭が回んないとねー。世間は渡っていけないよ」
恐らく、アヴリルは反省していない。平然とパフェを食べ進めていく。これ以上、揉め事を起こしてくれなければいいな、と祈らずにはいられなかった。
* * *
ストロベリーパフェで、アヴリルは満足してくれたらしい。笑顔を振り撒き、鼻歌を歌いながら王都の外門を目指す。彼女の雰囲気のお陰なのか、私の気持ちにゆとりができたのか、向けられる視線は先ほどよりも気にならなくなっていた。
怯えなくなった私に振り向き、アヴリルは微笑む。
「オフィーリア、その調子だよ。私はこういう奴なんだって開き直れば、何も怖くないって」
「……うん」
視線なんて気にしなくていい。誰に何と言われようと、私は私なのだ。背筋も伸びた気がして、呼吸が楽になる。
そんな私を見て、ノエルとリックスも顔を見合わせて笑ってくれた。
「……てかさ、オフィーリアの左手を見せれば、パフェの支払いなんてどうにでもなったんじゃない?」
アヴリルは前を見据えたまま、呑気に言う。それにリックスが反論する。
「それじゃ、俺たちが納得できないんだよ。特別扱いはされたくない」
「ただの偽善じゃない? いつか、財力が底をついた時に痛い目を見ると思うけど」
財力が底をついた時――私たちが考えていなかった視点だ。今の私たちには仕事がない。できることがあるとすれば、日雇いのモンスター狩り程度だ。でも、そんな仕事を引き受けてしまっては、いつまた誰が大怪我をするか分からない。
「……考えておくね」
ただ、今は現実を受け止められそうにない。私が呟くと、アブリルはにこっと笑った。
人通りを向け、門へと到着をする。
「ちょっと、外に出たいんだけど!」
アヴリルが門番に向かって叫ぶと、ようやく彼らは私たちの存在に気がついたらしい。
「聖女様、ですよね? 外へ出られる分には許可は要りませんから」
「聖女はあたしじゃなくて、そっちのオフィーリアね! ちゃんと名前を覚えておくんだよー!」
アヴリルは、わざとらしく私を指差す。門番に苦笑いをされながら、開けられた門をくぐる。
そこにはやはり草原しかなかった。身を隠せそうなものは何もない。モンスターに遭遇してしまったら――狩るしかない。
無意識にノエルとリックスを見てしまう。
「大丈夫だよ。そのためにアヴリルを仲間にしたんだろ?」
周囲を警戒しながらも、二人の柔らかな瞳は変わらなかった。
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