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第7話 / 全7話
カリッ……。
岩を削るような音が、静まり返った洞窟に響く。
レオンは足を止めた。
鉄の短剣を握る手に自然と力が入る。
洞窟の中は薄暗く、奥まで見通せない。
天井から落ちる水滴が、一定の間隔で地面を叩いている。
ポタッ……。
ポタッ……。
その音に混じるように、また聞こえた。
カリ……。
カリカリッ……。
何かが岩を掘っている。
胸ポケットへしまった幸運の羅針盤へ目を向ける。
針は微動だにせず、洞窟の奥を指したままだ。
(この先に進めってことか。)
ゆっくりと一歩踏み出す。
その瞬間だった。
ボコッ!!
足元の地面が盛り上がる。
「っ!」
レオンは反射的に横へ飛び退いた。
直後、砕けた岩と土をまき散らしながら、一匹の魔物が地中から飛び出す。
茶色い毛並み。
丸太のように太い胴体。
岩をも砕きそうな鋭い前脚。
小さな目は閉じかけているのに、大きな鼻だけが絶えず動いていた。
半透明の画面が浮かび上がる。
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図鑑更新
魔物図鑑
No.002
ケイブモール
登録
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<図鑑>
洞窟に生息する魔物。
視力はほとんどなく、音や振動を頼りに獲物を探す。
鋭い爪は岩盤さえ掘り進む。
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「目が見えてないのか。」
図鑑を読み終えた、その時。
カリカリッ!
今度は右側。
さらに左側。
ボコッ!
ボコッ!
地面を突き破り、さらに二匹のケイブモールが姿を現した。
「三匹……!」
三匹は鼻を動かしながら、その場で周囲を探っている。
レオンはゆっくりと後ろへ下がる。
すると、一匹がこちらへ顔を向けた。
(音……。)
図鑑の説明が頭をよぎる。
音や振動を頼りに獲物を探す。
試してみる価値はある。
レオンは腰のポーチへ手を伸ばした。
昨日ガチャで手に入れた投げナイフ。
まだ一度も使っていない。
「頼むぞ。」
狙うのは魔物じゃない。
洞窟の壁。
レオンは思い切り腕を振り抜いた。
キィンッ!!
投げナイフが岩壁へ突き刺さり、洞窟中へ金属音が響き渡る。
その瞬間。
三匹のケイブモールが一斉に音の方へ向きを変えた。
「ギュッ!」
短く鳴くと、ものすごい勢いで岩壁へ突進する。
ドゴォン!
激しい音とともに壁へぶつかり、鋭い爪で岩を掘り始めた。
「やっぱり!」
思った通りだ。
音を出した場所へ一直線。
視力ではなく、音だけを追っている。
今しかない。
レオンは足音を殺し、一番近いケイブモールの背後へ回り込んだ。
深く息を吸う。
鉄の短剣を握り直す。
「はぁっ!」
渾身の一撃が振り下ろされた。
ザシュッ!
鉄の短剣がケイブモールの首元を切り裂く。
「ギュイィッ!」
短い悲鳴を上げ、巨体が大きくのけぞる。
その隙を逃さず、レオンはもう一歩踏み込んだ。
「はあっ!」
渾身の一撃。
短剣が急所へ深く突き刺さる。
ケイブモールは数歩よろめくと、その身体を黒い粒子へ変えながら静かに消えていった。
――ピコン。
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運命ポイント
+1Pt
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「まず一匹……!」
息を整える暇もなく、残る二匹がこちらへ向きを変える。
鼻を忙しなく動かしながら、岩を削るように前脚を鳴らす。
カリッ……。
カリカリッ……。
低い姿勢のまま、一歩ずつ距離を詰めてくる。
(正面から二匹は無理だ。)
レオンはゆっくりと後退しながら周囲へ視線を巡らせた。
その時だった。
洞窟の天井に、一本の大きな亀裂が走っていることに気付く。
(あれは……。)
亀裂の真下には、大きな岩が何層にも重なっている。
もし崩れれば――。
レオンは静かに息を吸った。
「試してみるしかない。」
腰のポーチから最後の投げナイフを取り出す。
狙うのは魔物ではない。
亀裂の真下にある岩壁。
二匹が一直線に並んだ、その瞬間。
「いけっ!」
投げナイフが一直線に飛ぶ。
キィィンッ!!
鋭い金属音が洞窟中へ響き渡った。
予想どおり、二匹のケイブモールは同時に音の方へ突進する。
ドガッ!
ドガガガッ!
鋭い爪で岩壁を激しく掘り始めた。
その振動が、天井へ伝わる。
ミシッ……。
小さな音。
次の瞬間。
ゴゴゴゴゴ……!!
洞窟全体が大きく揺れた。
「来る!」
レオンは木の盾を頭上へ掲げ、近くの岩陰へ飛び込む。
ドォォォン!!
轟音とともに大量の岩が崩れ落ちる。
土煙が舞い上がり、視界が真っ白になった。
しばらくして揺れが収まる。
恐る恐る前を見ると、二匹のケイブモールの姿はもうなかった。
黒い粒子だけが、ゆっくりと宙へ溶けていく。
――ピコン。
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運命ポイント
+2Pt
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群れ討伐達成
BONUS
運命ポイント
+1Pt
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「勝てた……。」
レオンはその場へ座り込んだ。
腕は震え、息も上がっている。
もし正面から戦っていたら、きっと勝てなかった。
けれど、相手の習性と洞窟の地形を利用した。
だから勝てた。
「これも……攻略、か。」
小さく笑った、その時だった。
カチッ。
胸ポケットの幸運の羅針盤が静かに音を鳴らす。
レオンが取り出すと、針は先ほどまでとは違う方向――洞窟の脇へ続く細い通路を指していた。
「まだ何かあるのか。」
今度は戦いではない。
探索の時間だ。
レオンは立ち上がり、羅針盤が示す新たな道へと歩き始めた。
細い通路は、人ひとりがようやく通れるほどの幅しかなかった。
頭上の岩肌からは水滴が落ち、足元はぬかるんでいる。
レオンは慎重に歩を進めた。
幸運の羅針盤は迷うことなく通路の奥を指し続けている。
「こんな場所、普通なら気付かないな……。」
しばらく進むと、行き止まりに突き当たった。
岩壁。
それだけだ。
「また行き止まり?」
首をかしげる。
だが、羅針盤の針は岩壁の向こうを指したまま動かない。
レオンは壁へ手を触れた。
冷たい岩肌。
少し押してみる。
びくともしない。
「違うか……。」
諦めかけたその時だった。
指先に小さなくぼみが触れる。
「これは……。」
よく見ると、岩の隙間へ拳ほどの大きさの石が埋め込まれていた。
試しに押し込む。
ゴゴゴゴ……。
重い音とともに岩壁がゆっくり横へ動き始めた。
「隠し扉!」
現れたのは、小さな石造りの部屋だった。
棚には木箱が三つ。
壁には長い年月で色あせた松明。
そして中央には、石の台座が置かれている。
「誰かが使っていた部屋なのか……?」
レオンは警戒しながら木箱を開けた。
一つ目。
中には透明な小瓶が二本。
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図鑑更新
道具図鑑
No.001
初級回復薬
登録
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<図鑑>
傷の回復を助ける初級ポーション。
軽い切り傷や打撲なら短時間で治療できる。
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「ポーションまであるのか。」
二つ目の木箱を開ける。
中には小さな魔石が五つ並んでいた。
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魔石(小)
×5
獲得
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三つ目の木箱には、小さな革袋。
中には銀貨が二十枚ほど入っていた。
「これは当分お金には困らなさそうだ。」
派手な財宝ではない。
それでも、駆け出しのレオンには十分すぎる収穫だった。
その時だった。
部屋の中央に置かれた石の台座へ目が止まる。
何かが刻まれている。
表面の埃を払う。
現れたのは、一つの紋章だった。
大きな星。
その周囲を、小さな星が円を描くように囲んでいる。
「この紋章……。」
どこかで見た気がする。
いや、見たことはない。
なのに、不思議と胸がざわついた。
その瞬間。
胸ポケットの幸運の羅針盤が、今までで一番強く震えた。
カチッ。
針は部屋の奥にある小さな通路を真っすぐ指す。
レオンは視線を向ける。
そこには、今までとは比べものにならないほど巨大な石扉がそびえ立っていた。
高さは三メートルほど。
表面には古代文字らしき模様が刻まれ、中央には星形の窪みがある。
「この奥が……。」
思わず息を呑む。
羅針盤の針は、その扉を指したまま微動だにしない。
ここが、この洞窟の終着点。
そんな確信があった。
レオンはゆっくりと石扉へ近付く。
その時――。
ズンッ……。
重い振動が足元から伝わった。
ズンッ……。
まるで巨大な何かが、扉の向こうで歩いているような音。
レオンは無意識に鉄の短剣を握り直す。
「……この先にいるのか。」
期待と緊張が入り混じる中、レオンは静かに石扉を見上げた。
(第8話へ続く)
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読んでいただき、ありがとうございました!
今回はレオンが知恵を使ってケイブモールを攻略し、隠された部屋と古代の扉を発見しました。
次回はいよいよ洞窟の最深部へ。扉の向こうで待ち受ける強敵との戦いが始まります。
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