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第6話 / 全7話
翌朝。
目を覚ましたレオンは、真っ先に机の上へ置いた幸運の羅針盤へ手を伸ばした。
昨夜は興奮して眠るのが遅くなった。
それでも目覚めは不思議なくらい良い。
「本当に導いてくれるのかな。」
銀色の蓋を開く。
細い針は静かに震えたあと、昨日と同じ北西を向いて止まった。
レオンは立ち上がる。
身体の向きを変える。
右を向く。
左を向く。
後ろを向く。
それでも針だけは、必ず同じ方向を指し続けていた。
「やっぱり北じゃない。」
普通の羅針盤なら北を指す。
だが、この羅針盤は違う。
「つまり……。」
レオンは前世で遊んでいたゲームを思い出す。
イベントアイテムを手に入れたら、まず説明を読む。
そして実際に使ってみる。
ゲームでも現実でも、それは変わらない。
「まずは検証だ。」
強いアイテムほど、能力を知らなければ意味がない。
レオンは小さく笑った。
「使い方を知らないまま終わるなんて、もったいないからな。」
新しく手に入れた鉄の短剣を腰に差す。
木の盾を背負い、革のマントを羽織る。
最後に幸運の羅針盤を胸ポケットへしまうと、部屋を出た。
◇ ◇ ◇
「行ってきます。」
「もう森へ行くの?」
朝食の片付けをしていた母が少し驚いた顔をする。
「昨日、魔物と戦ったばかりでしょう?」
「うん。でも、確かめたいことがあるんだ。」
父はレオンの腰にある鉄の短剣を見て、わずかに眉を上げた。
「昨日とは武器が違うな。」
「ああ、運よく手に入ったんだ。」
また同じ言い訳だ。
それでも父は何も聞かなかった。
「そうか。」
代わりに短く言う。
「武器が変わっても、油断だけはするな。」
「分かってる。」
レオンは頷き、家をあとにした。
◇ ◇ ◇
ベルン村を抜け、ルクスの森へ入る。
昨日歩いた道。
けれど胸ポケットの羅針盤を取り出すと、針はその道を進めとは言わなかった。
スッ――。
針は細い獣道の方へ向く。
「昨日は気付かなかったな。」
人ひとり通るのがやっとの道。
踏み跡もほとんどない。
普通なら選ばない。
それでも今日は、羅針盤を信じてみる。
枝を払いながら進むと、木漏れ日が差し込む小さな広場へ出た。
「こんな場所が……。」
その時。
胸ポケットの羅針盤が、カチッと小さく鳴った。
針がゆっくり右へ向きを変える。
「また?」
導かれるまま歩くと、大木の根元に青白い草が何株も群生していた。
「これは……薬草?」
見たことがない。
慎重に一株摘み取る。
すると、半透明の画面が静かに浮かび上がった。
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図鑑更新
植物図鑑
No.001
癒し草
登録
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<図鑑>
傷の治りを早める薬草。
新鮮なまま調合すれば、初級回復薬の材料となる。
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運命ポイント
+1Pt
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「植物でも登録されるのか。」
レオンは思わず笑みを浮かべた。
武器だけじゃない。
防具だけでもない。
この世界そのものが図鑑になっている。
「全部集めたい。」
その言葉は、自然と口からこぼれていた。
癒し草を大切に袋へしまうと、羅針盤の針は再び静かに動き始めた。
「まだ終わりじゃないってことか。」
レオンは胸を躍らせながら、その導きの先へ歩き出した。
獣道はさらに奥へと続いていた。
人の気配はない。
聞こえるのは風が葉を揺らす音と、小鳥のさえずりだけ。
レオンは羅針盤へ視線を落とした。
針は迷うことなく前を指している。
「ここまで真っすぐだと、逆に怖いな。」
苦笑しながら歩いていると、不意に針が右へ傾いた。
「また?」
そちらへ足を向ける。
すると、茂みの向こうに倒れた荷車が見えた。
「荷車?」
近付くと、かなり古いものらしく、木材は腐りかけている。
車輪も外れ、長い間放置されていたようだった。
「昔の商人かな……。」
レオンが荷台を覗き込むと、小さな革袋が落ちているのを見つけた。
拾い上げる。
中では硬貨同士がぶつかる音がした。
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図鑑更新
収集品図鑑
No.001
古びた革袋
登録
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<図鑑>
旅人が使っていた革袋。
長い年月を経ても、まだ十分に使える。
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袋を開くと、銀貨が数枚入っていた。
「本当に幸運を見つけてくれるんだ。」
宝箱ではない。
伝説の武器でもない。
それでも、普通なら見つけることのない落とし物だ。
羅針盤は派手な奇跡を起こすのではなく、小さな幸運を積み重ねてくれる。
そんな気がした。
革袋を腰へしまうと、針はまた静かに回転を始める。
カチッ。
今度は今までより少しだけ速く動いた。
「近い……?」
レオンは歩く速度を上げた。
森の景色が少しずつ変わる。
木々は太くなり、陽の光も届きにくくなる。
やがて目の前に、大きな倒木が現れた。
昨日なら引き返していたかもしれない。
だが今日は違う。
羅針盤は、その倒木の向こうを真っすぐ指している。
「この先か。」
倒木を乗り越え、岩場へ足を踏み入れる。
そこには何もなかった。
岩。
苔。
雑草。
それだけだ。
「……あれ?」
首をかしげる。
針は間違いなくここを指している。
なのに何もない。
その時だった。
足元の小石を踏み、石が転がる。
コロン……。
乾いた音が岩陰へ響いた。
「空洞……?」
音の違いに気付いたレオンは、岩の周囲を調べ始める。
草をかき分ける。
すると、岩壁の一部だけが不自然にへこんでいた。
「まさか。」
手で押してみる。
ゴゴゴ……。
重い音を立てながら岩がゆっくりと横へ動いた。
その奥には、人ひとりが通れるほどの洞窟が姿を現す。
「隠し入口……!」
画面が静かに表示される。
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図鑑更新
エリア図鑑
No.001
忘れられた洞窟
登録
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<図鑑>
古代の人々によって造られたとされる謎の洞窟。
長い年月の中で存在が忘れ去られていた。
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運命ポイント
+2Pt
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「やっぱり!」
レオンは思わず拳を握る。
羅針盤は間違いなく、自分をここへ導いた。
運命ポイントまで手に入った。
歴代のガチャ師が気付けなかった攻略法。
それを今、自分は一歩ずつ証明している。
胸ポケットの羅針盤を見る。
針は洞窟の奥を真っすぐ指していた。
「まだ先があるんだな。」
鉄の短剣を抜く。
木の盾を構える。
ゆっくりと洞窟へ足を踏み入れた。
ひんやりとした空気が全身を包む。
奥は暗く、先が見えない。
ポタッ……。
天井から水滴が落ちる。
静まり返った洞窟。
その時だった。
カリッ……。
小さく岩を削る音が聞こえた。
レオンは足を止める。
カリカリ……。
音は少しずつ近付いてくる。
胸ポケットの羅針盤は、静かに洞窟の奥を指し続けていた。
(第7話へ続く)
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読んでいただき、ありがとうございました!
今回は幸運の羅針盤が本領を発揮し、隠された洞窟を発見しました。
次回はいよいよ「忘れられた洞窟」の探索が始まります。レオンを待ち受けるものとは――ぜひ楽しみにしていただけると嬉しいです。
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