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第一章 火の魔法 FER(フェル) / 第14話
「とうさま! とうさま!」
カイエはグレンの執務室の扉をドンドン叩く。
その隣で、アミナスが室内へ声をかける。
「アミナスです。 お嬢様がグレン様にどうしてもお伝えしたいことがあると……」
──ガチャリ
「どうした!?」
「とうさま!」
ガバリとカイエがグレンに抱きついた。
「カイエ? 一体……」
「フェルは火じゃないかも! とうさまのを、もう一度見せて!!」
「は?」
瞳をキラキラさせたカイエは、興奮をそのままに嬉しそうに叫んだ。
「アミナス、これは……?」
「あ、その……」
助けを求めるようにグレンはアミナスを見るが、アミナスは応接スペースに座る人物を伺った。
「ああ、私のことは気にせずともよい」
グレンと同じ王宮魔導士の正装にフードを深く被った青年は笑い、お茶を口にした。
「申し訳ございません。 ではアミナス、手短に頼む」
「はい! 実は先ほど──」
アミナスはカイエのノートを広げ、鍛冶場での実験やアイゼンとのやりとりなどをグレンに伝えた。
◆◆◆
「──という経緯で、お嬢様はフェルを火魔法ではなく熱なのではと」
頭をグリグリ押し付けるカイエを撫でつつ、グレンはアミナスの言葉を反芻する。
「……経緯はわかった。 ちょっと見ていいか?」
カイエをソファに座らせ、グレンは掌を上に向ける。
「フェル」
ポゥッ
小さな赤い光が揺らめき、炎のように見える。
「フェル」
ボワッ
次は皿くらいの大きさで展開する。
赤と橙色の光がゆらめく。
炎によく似ているが、暖炉の火とはどこか違っている。
「……なるほど。確かに炎とは少し違うな。 だが、それだけで熱とは言い切れん。」
カイエが絶望的な顔になる。
「それでも面白い仮説だ。」
「!!!」
「よく見つけたな!」
「きゃー!」
娘の可愛い研究にグレンはワハハと笑ってカイエの頭を乱暴に撫でる。
カイエは楽しそうに逃げている。
その様子を伺いながら、ソファに座る魔導士はカイエのノートを手に取った。
「あ、それは……!」
アミナスが咄嗟に声を上げ、固まった。
「……!!!」
フードの下の赤い瞳と目が合い、アミナスは慌てて跪く。
青年魔導士はノートを開き、一枚ずつページをめくった。
===============
『
あついと光る
あつくなると光の色がかわる
赤 → 黄色 (だんだん白くなる)
』
===============
===============
『
フェル → 火じゃない? ねつのまほう?
』
===============
顎に手を当て、興味深気にパラパラとノートを見て青年魔導士はポツリとつぶやいた。
「ふふっ。 これはすごい」
「……! アミナス、大丈夫?」
グレンから逃げていたカイエが、深く顔を下げて跪くアミナスに気づき駆け寄る。
「……」
アミナスは声も出せずに俯いていた。
「ああ、すまない。 驚かせてしまったね。 今日は失礼するよ」
「ルシアン様、すみません。 騒がしくしてしまい……」
ノートを閉じてテーブルに置き、ルシアンは首を振った。
「突然来てお邪魔したのはこちらだ。 また遊びに来る」
「いつでも。 それではエントランスまでお送りします」
ルシアンは立ち上がり、カイエの前にしゃがみ込み、フードをあげた。
淡く少し長い金髪がふわりと揺れ、白く透き通る肌に落ちる。
赤い瞳がカイエの琥珀色とぶつかった。
アルビノ。
(あるびの?)
また不思議な単語が浮かび、カイエはコテンと首を傾けた。
「カイエ嬢。 ノートをまた読ませてくれるかい?」
「いいよ!」
嬉しそうに頷くカイエに微笑み、ルシアンはポンポンと頭を撫でて、立ち上がる。
そのまま、跪くアミナスに目もくれず、グレンと共に部屋を後にした。
見送ったカイエが不思議そうにアミナスに寄り添う。
「アミナス、どうしたの? お腹痛いの?」
(第三王子殿下……)
特徴的な外観を持つ王族のルシアンは、アミナスでも知っている。
平民のアミナスにとってはグレンでさえ雲の上の存在なのに、王族とは世界が違う。
今の自分の場違いさに、アミナスは動けなくなっていた。
「なおれーなおれー」
小さな手がアミナスの頭を撫でる。
緊張が解けたように顔を上げたアミナスは、泣きそうなカイエと目が合った。
「……あ……カイエ、様」
「……よかった!」
安堵からアミナスに抱きつくカイエ。
「すみません、ご心配をおかけしました……」
その背中を撫でながら、アミナスは視線が扉に縫い付けられているエコーに気づいた。
背筋に冷たいものが走る。
エコーは扉の向こうをじっと見つめていた。
全身の毛を逆立て、金色の瞳には、今まで見たことのない鋭さが宿っている。
その殺気は、去っていったルシアンへと真っ直ぐに向けられていた。
後書き
第一章 完
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