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倉庫脱出編 / 第20話
カイと仙川が乗る偵察車輌は、人気のない荒れた路地を走り抜け、複雑な交差点に出た。
右側にグラウンド、前方左方向にもグラウンドが見え、目の前は道路が二手に分岐している。
「仙川さん、この先が僕の通ってる高専で、そこを過ぎるとY大学の工学部です。正面入口は左手の道路の先です」
「じゃ、左行くね」
仙川は道なりに左手側の道へハンドルを切り、ゆるやかな坂道を下って行く。
右手側ではカイの母校である校舎の建物が続いていく。
「学校、気になるよね」
「はい」
「あとで寄ってみる?」
「できれば・・・」
「OK、じゃとっとと任務を済ませよう」
少し進んだところで、カイが通う高専の正面玄関が見えた。
校門は開け放たれたまま、その奥に見える校舎は全ての窓が割られ、壁という壁に鉤爪で引っ搔いたような跡でボロボロになっていた。
周辺の家屋同様、何かの群れが押し寄せて蹂躙されたのは明らかだった。
カイは思わず目を背けた。
両膝の上で組まれた両手は、微かに震えていた。
さらに100mほど坂を下ると、「Y大学工学部」と書かれた大きなモニュメントが見えた。
そこには正面玄関に繋がる門があったものの、小型バスや軽バンなどの車両を横付けした簡易的なバリケードで塞がれていた。
襲撃の後に設置されたのだろうか。いずれの車両も破損していない。
仙川は偵察車両をバリケードの前に停め、中の様子を伺った。
小型バスの窓越しに、4階建ての茶色い大きな建物が見える。
壁や窓は同様に激しく破損し、襲撃された形跡が見えた。
「生存者がいるかも」
仙川は直感的に呟いてHMDを装着し、偵察車両のセンサーをフル稼働させた。
赤外線センサーは外気温度の高さでほとんど機能しなかった。
ただ、振動スキャナは不揃いな多くの微弱な振動を検知している。
たくさんの人の足音だ。
「いる!生存者がいる!」
仙川は声を上げ、さらにバリケードの向こうを詳細に調査する。
すると、バリケードの向こうにある防犯カメラがゆっくりと可動しているのを発見した。
「カメラ動いてる!電力も活きてる!誰か居るんだ」
「降りてみるね。佐倉クンはここに居て」
仙川は装着していたHMDを剥ぎ取り、シートベルトを外すと後部席の銃を掴んで素早く車両を降りた。
銃を肩に担ぎ、慎重にバリケードの横の背の低い通用門へ向かうと、コンクリートの門越しに姿が見えるように立ち、支柱の上のカメラに向かって大きく手を振った。
「お願い、気付いて!」
必死で両手を大きく振り続けた。
ゆっくりと可動していたカメラは、一旦動きを止め、仙川の方へと向き直して止まった。
仙川は気付いてくれたのを確信し、偵察車両のカイの方へ向き直すと、右手の親指を立てて大きく突き出した。
その様子を見ていたカイも、車両を降りて仙川の方へ走った。
——数分後、茶色い建物の向こうから3人の若い男性たちが現れ、笑顔でこちらに駆け寄ってくるのが見えた。
「自衛隊きた!じぇいたいきた!ハァ、ハァ」
興奮して声を上げながら、短く借り上げた髪、Tシャツに短パンのいかにも体育会系な学生たちが全力疾走で正面玄関に駆け寄ってきた。
「自衛隊です!みなさん、ご無事ですか?」
「助けてください!僕ら地下講堂とか、研究室で隠れてました」
「他に生存者はいますか?怪我や重症の方とかはいませんか」
「皆元気っす。20人くらいグループに分かれて隠れてました」
「良かった。大学の関係者の方とかいらっしゃいますか」
「えーと、教授が2人、あと大学事務の人が何人かいます」
「とりあえず、状況を確認したいので案内していただけますか」
「わっかりました、車どけるんでちょっと待っててください」
「あ、あの!」
カイが堪らず学生たちに声をかけた。
「僕高専の生徒なんですが、高専の生徒とかいませんか?」
学生のひとりが答えた。
「たしか2人くらいいたよ、名前なんだっけ、ごめん覚えてない」
「学生寮とかどうなったか知りませんか?」
「ゴメン、俺らもキャンパスから出てないからわからない」
「そうですか。すみません」
学生のひとりが小型バスを動かし、正門を通れるようになった。
「じゃ、奥にどうぞ。案内します」
仙川、カイは偵察車両に乗り込み、学生の先導で正門ゲートを抜け、さらに奥の大きな建物の前まで案内された。
建物の前の看板には、「Y大学工学部図書館」と書かれていた。
——偵察車両を降りたカイたちは、図書館横のスロープを下るように案内された。
スロープは胸の高さくらいの壁に囲まれ、下りきってしまえば完全に外から死角になっている。
大型の敵ならば狭すぎて下まで降りて来れないだろう。
スロープを降りきると、目の前に防火扉があった。
「書庫・地下通路(開放厳禁)」と書かれている。
先導していた学生が、L型のドアノブを開けて中に通してくれた。
内部はLED灯が点灯しており、通路を明るく照らしていた。
案内に従って、通路を進んだ。
図書館の地下だけに「書庫」と書かれた扉が続き、廊下の突き当りを曲がった先はまっすぐに伸びる地下通路。
その先は「◯◯研究室」というルームプレートと扉が点々と続いていた。
明かりの付いていない研究室が続く通路を突き当たりまで進むと、「知能情報科学技術センター」と書かれた扉があった。
扉の隙間から部屋の明かりと、騒がしい話し声が漏れていた。
学生がドアをノックしてすぐに開けると、学生たちがわっと歓声を上げた。
隊員服を着た仙川を見て安堵の表情を浮かべる者、涙を浮かべて支え合う女子学生たち、両手を挙げて雄叫びを上げる者、笑顔を向ける白衣を着た男性・・・
「自衛隊の仙川です。皆さんご無事で何よりでした」
仙川は大きな声で名乗りを上げた。
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