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倉庫脱出編 / 第19話
「この先の信号を右に入って道なりに進めば、湖を迂回して大学の前まで行けます」
「ほい」
仙川は信号を右折し、生垣と住宅地が並ぶ道路を道なりに進んでいく。
「この辺だよね、さっきのがいたの」
仙川が右側に続く生垣の向こうを見上げた。
「はい、公園の中心に大きな湖があります」
「なるほどね・・・ねぇ、湖っていったよね」
「はい、右手に・・・!?」
仙川もカイも言葉を失っていた。
生垣が切れて、湖が見えるはずだった。
そこには、巨大な渓谷のような真っ黒いクレーターがぽっかりと広がっていた。
つい数時間前までは、美しい湖面が穏やかに広がっていたはずだろう。
遠くに湖を横断する橋が見えたが、湖底まで橋を支える橋脚が丸見えになっていた。
「湖・・・ないね」
「ないですね」
仙川は車を停め、各スキャナを起動して池だったはずの窪みの調査を始めた。
「黒くなってる部分、底はヘドロ状になってる。ここに湖があった証拠ね」
「もともと結構、大きな湖ですよ」
「あのエイリアンシップ、湖水を全部吸い上げてったってこと?」
「水と、人間を攫ってるってことですか」
「まるごと水も人も根こそぎ攫ってくって、意味不明だけど嫌な予感しかしないわね」
仙川は再びイヤーパッドに手を充てた。
「04より05、緊急連絡」
『01より04、どうした』
「目標近くの湖の水が全て取り除かれています。先程の未確認飛翔体によるものと推測」
『やっぱりそうか。了解した』
「え、隊長知ってたの?」
『先程の映像から推測した。周辺の状況はどうか』
「住宅地を含み周辺の被害甚大。要救助者は認められず」
『・・・判った。念の為追加情報があれば送信せよ。任務の方はどうか』
「これより大学方面へ移動します」
『了解した。細心の注意を払え』
「了解です。通信終わり」
仙川は通信を終えた後、湖の解析データを送信した。
「なんだ、知ってたんだ・・・」
仙川は呆れたように呟いた。
「そうみたい・・・ですね」
通信を聞いていたカイも拍子抜けしたようだった。
「みたいね。なんか肩透かし。じゃ、先に進むよ」
仙川は再びアクセルを踏んだ。
——八代は指揮車両で今後の行動について悩んでいた。
保護した民間人の受入れ先、他の師団や方面隊との合流、進むべき針路が情報不足で定まらない。
加えて不可解な敵勢力の行動とその目的。
これまでの情報から、人間の無差別大量誘拐、水の搾取を行っていることは確かだ。
単純に「資源」として力任せに略奪しているようにしか見えない。
「隊長さん、隊長さん」
窓の外から、八代を呼ぶ声がした。
助手席側のパワーウインドウを下げると、一気に熱い外気を感じた。
八代は身を乗り出して見下ろすと、女将さんが手で日光を遮りながら彼を呼んでいた。
「隊長さん、ちょっとお話ええ?」
女将さんの声を聞き、八代は助手席のドアを開けてタラップを降りた。
「どうなさいました?」
「厨房の食材とか、保存がききそうなものを選り分けたんじゃけど・・・いや急に暑くなってね」
「確かに。暑いですね、どこか日陰に入りましょう」
雨上がりだった朝と比べて、いつの間にか雲一つない夏らしい青空が広がっている。
それにしても、異常なくらい暑い。
二人は一旦食堂まで戻り、稼働しているエアコンの送風口の真下まで移動した。
涼しい風にあたり、噴き出した汗を冷やしていく。
「お話てゆうの、この暑さのことなんです」
女将さんが一息ついて、話を続けた。
「厨房の食材をね、選り分けておいたんじゃけどこの暑さでしょ、電気がいつまで持つかもわからんからどのくらい用意したらええじゃろか、というのと、今後どうされるんかを聞いておきたくてねぇ、なんか進展はありました?」
女将さんのおだやかな口調から、子供含む10人全員を心配したものだと判る。
「まだ判りませんが、早急に移動先を決めてここを離れる必要があることは確かです。発電機もおそらく明日の朝までもつかどうか、というところです」
「そうですか。じゃあ余裕みて4、5日分は用意しといたほうがええじゃろか。移動するならあの大きな車に載せた方がええんよね?」
「そうですね。うーん・・・」
八代は後部車両に載せたままの回収した3番機と「笹木」のことを思い出した。
「皆さんを乗せてきた前側の車両で収まりそうですか?」
「食べ物は選り分ければ収まるかもしれんけど、お水とかはどうじゃろか?」
「10人分の食料、水か・・・生活用品や部隊備品も含めると後部車両も使わないと厳しいか」
「私らだけとも限らんし、他の人おったら皆お助けせんといけんでしょ。積めるだけ積んじょった方がええと思うんじゃけどねぇ」
「わかりました。何とかしましょう。女将さん、大変お手数ですが他の皆さんにもご協力をお願いして、水、食料、必要な衛生用品や生活用品、布や毛布なども集めて頂くのをお願いしてよいでしょうか。我々も倉庫から必要な装備品を集め次第協力いたしますので」
「もちろんです。ほいじゃぁここに集めちょきます。こちらはお任せになってええですから」
「すみません。ご協力感謝します」
八代は深々と頭を下げた。
「あと・・・差し出がましいですが、あの亡くなった隊員さんのご遺体、御弔いしてあげられんでしょうか・・・あのままでは可哀そうじゃし」
「そうですね。私もそうしてやりたいと考えています」
無意識に握りしめた八代の拳に力がこもった。
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