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倉庫脱出編 / 第1話
『うぅん・・・』
青年は目を醒ましたが、自分がおかれている状況を理解するのに時間がかかった。
気がついたら、何かしら商品が梱包された段ボールの山の下敷きになっていた。
ぼんやりと思い出せるのは、大きな轟音、揺れ、衝撃、警報みたいなサイレンの音、そして暗闇。
ここはどこだっけ、そうだ、バイト先の大きな物流倉庫の中だ。
とりあえず腰のダンプポーチからスマホを取り出した。
時刻は7月◯日21時35分。電波は圏外。倉庫のWiFiも止まっている。
画面には『J-ALERT 緊急避難指示』と大きく表示されている。
『7月◯日14時頃、国内各地においてミサイルとみられる大型飛翔体が着弾しました。今後も着弾する可能性がある為、国民の皆様は地方自治体、各市町管轄の警察署、消防署の指示に従って避難して下さい。避難場所の一覧は次の通りです・・・』
「おいマジか」
スマホのライトをONにして、体を起こしながら周囲を見渡す。
巨大なスチール製の棚がドミノ倒しに斜めに倒れ、段ボールがパレットごと横倒しに重なっている。
その隙間に自分がいる。
慎重に斜めになった棚と商品の隙間を通り抜けて、棚と棚の間の通路に出た。
倉庫の壁に面したトラックヤード、シャッターや扉は全て閉まっているのが見えた。
中は非常灯のぼんやりとした灯りだけ。
とにかく外に出なければ。
ドミノ倒しになっている棚をよけ、トラックヤードの方へ向かった。
大型シャッターは固く閉ざされ、従業員用の扉もびくともしない。
従業員のIDカードをかさしてみたが反応がない。
やっぱり電源が落ちている。
倉庫の屋根をザーッと叩く音が聞こえていた。雨が降っているようだ。
(うーん、詰んだ)
どうやって助けを求めるべきか迷っていると、トラックヤードのシャッターの僅かな隙間から光が差し込んできた。
(誰かいる!)
彼は光が差す方へ急いだ。
大型トラックと思しきエンジン音、ドン!ドン!という大きな足音・・・
彼はトラックヤードの巨大なシャッター扉を手で叩いてみたが、ガサガサという軽い音を立てるだけ。
腰のダンプポーチの中を探り、メンテ用のモンキーレンチを掴み、思い切り何度も叩きつけた。
ガァン!ガァン!ガァン!
「!?中に誰かいますか!」
落ち着いた若い女性の声が聞こえた。
「助けてください!閉じ込められました!」
彼は声を張り上げた。
扉の隙間に、フラッシュライトらしき強い光がゆらゆらと動いた。
「閉じ込め?中から開けられない?」
その声は扉の隙間の向こうからはっきりと聞こえた。
「停電してロックかかってます!かなり分厚いから開けられません!」
彼は隙間に向かって叫んだ。
「了解!ちょっと待って!・・・えーと男性1名・・・君ひとり!?」
どうやら彼と無線の両方で話をしている様子だった。
「僕ひとりです!他の人はわかりません!」
「了解!ちょっと待ってて」
「04より全小隊、生存者男性1名。楓さん、どうにかできる?」
ザザザっというノイズが邪魔して聞こえないが、会話しているのが聞こえる。
「04・・・了解」
扉の向こうの女性の声が声を張り上げる。
「いまからこじ開けます!危険なので離れて下さい!」
「わかりました!」
彼は扉の前から離れ、倉庫の隅の方へと急ぐ。
扉の外で大きな足音が響き、拡声器を通したような女性の声がした。
『扉を壊しまーす!危険なので離れてくださーい!』
関西弁の独特なイントネーションで女性の声が響き渡った。
『3カウントでいくでー!3,2,1・・・』
ギュィィィンという金属音と共に、シャッターに火花が散る。
火花は徐々に横に広がり、ガシャン!と大きな音を立て、切り取られた部分が吹き飛ぶ。
焼き切られたシャッターから雨が降り込む。
ライトに照らされた人影がふたつ、倉庫の中に現れた。
「自衛隊でーす!大丈夫ですかー?お怪我はありませんかー?」
吹き飛ばされたシャッターから、迷彩服を着た自衛官が二人現れた。
一人は細身だががっしりとした男性。もう一人は小柄な女性。
がっしりとした男性は、ライトと小銃を交差したまま、倉庫の奥の方へ消えていく。
女性の隊員が青年を見つけで駆け寄って来る。
「自衛隊です。大丈夫だった? とりあえずそこ、座ろうか」
フラッシュライトに照らされた先に、パイプ椅子があった。
「これ、お茶。飲んで。お名前を教えてもらっていいかな」
「佐倉 櫂(さくら かい)です。高専の学生です」
名を名乗った青年は、自衛官が差し出したペットボトルのお茶を受け取って喉を潤した。
そして、パイプ椅子に力が抜けたように座り込んだ。
「なんでこんなとこにいたの?バイト?」
ヘルメットを目深に被った女性自衛官が青年の前にひざまずいて、彼を見上げた。
「はい、バイトです」
お茶を3分の1ほど一気に飲むと、青年、カイは落ち着いた様子で応えた。
「僕は自衛隊の仙川(せんがわ)といいます。防府基地から来ました。」
片手でヘルメットの位置を直すと、女性自衛官は落ち着いた声で自己紹介した。
カイは、お茶をひと口飲んで、周囲を見回す。
「すみません何が起きてるか全然わかってないんですけど・・・」
「その前に、怪我してないかちょっと見せてね」
仙川と名乗った自衛官は、立ち上がりフラッシュライトでカイの全身を順に照らして外傷がないか確認した。
「怪我は・・・ないようね。どこか痛むところはある?」
こんなものしかないけど、と肩から下げていたバッグからウェットティッシュのパックを取り出すと、1枚取って手渡した。
「顔、それで拭いてね」
「ありがとうございます」
ウェットティッシュで顔を拭いたら、少しすっきりした。
女性自衛官は肩のレシーバーに手をかけ、カチリと押すと喋りはじめた。
「04より01、男性1名を保護、外傷なし」
レシーバーから男性の割れた声が飛び交う。
『05、現在周辺検索中ッス』
『01から04、了解。05は検索後報告を頼む』
レシーバーから手を放すと、仙川と名乗った自衛官はカイの方を向いた。
「私たちもまだ状況がはっきりと掴めていないんだけど・・・」
仙川は再びカイの前でしゃがみこみ、真剣な顔で彼を見上げ、言い放った。
「日本はいま、外部からの侵略を受けています」
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