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倉庫脱出編 / 第16話
——1時間後、仙川とカイは出発の準備を終え、偵察車両の前にいた。
「ARCSVに乗れるなんて!」
カイは乗り込むなり、ぐるりと車内を舐めるように見回した。
「あの・・・あんまりジロジロ見ないでくれる?」
仙川は真っ赤になった耳を恥ずかしそうに大きなヘッドセットで隠した。
「え!?」
「いっ・・・一応機密だらけの車なんだから、変にいじらないでよ?」
計器類に手を伸ばしそうなカイに、仙川はもうひとつヘッドセットを取り出すと、計器パネルにプラグを差してカイに手渡した。
「えー?・・・そりゃそうですよね(苦笑)」
カイはヘッドセットを受け取り、両耳に装着した。
仙川はエンジンをかけ、計器類をチェックし始めると、いくつかのパネルを操作して出発準備に入った。。
「えっと、ではルートをおさらいするね」
ヘッドセットから仙川の声がクリアに入ってくる。
仙川は中央パネルのナビゲーション画面で地図を表示した。
「目的地はY大学工学部の知能情報科学技術研究所。但し、ルートは私たちの指揮車両が通行できることを確認しながら向かうことになります」
「96式用多目的輸送車両は、幅も高さもあるから普通の道路じゃ通れなかったりするってことですよね」
「そう。仮に道路は通れても歩道橋や低い高架橋があると通行できないの。それに道路上に放置された車両や破壊された残骸とかがそのまま障害物になってしまうので、通行可能かどうかを判断しながら現地へ向かいます」
「了解です。仙川どの」
カイは右手をひょいとかざし、敬礼の真似事をした。
「それから、目的地の件だけど、安全かどうか確認する偵察行動が最優先です」
「じゃ、見に行くだけ?ってこと?」
「そうね。さっきみたいなのがまだいる可能性も高いので、この偵察車両で索敵しながら慎重に進むことになります。大した距離ではないけど、実際はかなり時間がかかるかもしれないから、そのつもりでいてね」
「・・・わかりました」
仙川は無線に手をかける。
「04より01、偵察行動、開始します」
『01了解。頼んだぞ!』
仙川は専用のHMD付ゴーグルを被り、ゆっくりとアクセルを踏んだ。
偵察車両はゆっくりと前進し、倉庫を出て国道に出た。
偵察車両は右折して南方向、先ほどアクセル全開で爆走して逃げた道をゆっくりと進み始めた。
右手には、広大な水田が広がっているが、先程の戦闘で吹き飛んだ大きな窪みが出来ている。撃破したラプトルの残骸も散らばったままだ。
偵察車両は国道を道なりにゆっくりと進んでいく。
延々と続く水田や畑。
民家やコンビニ、空き地利用の太陽光パネルがある中を進み、ナビの指示通りに進む。
水田と畑が続く道を進み、自動車専用道路のインターチェンジへ進入していく。
ここまで人はおろか、鳥や小動物すら見掛けていない。
不気味なほど静まり返った曇り空の中を、たった1台の軍用車両がそろそろと走り続ける。
「何も反応がないね。さっきから解析できない微弱な電波は拾ってるけど、それ以外何もなし」
「ここからは山あいを通る専用道路なので、しばらくこんな感じですよ」
「ふ~ん。了解」
偵察車両は時速40kmくらいのゆっくりとしたスピードで南へと進み続けている。
20分ほど走ったところで、山あいの道から少しずつマンションや病院などの大きな建物がちらほらと見え始めた。
「あの・・・仙川さんて何歳なんですか?」
退屈してきたカイが何気なく訊いた。
「うん?僕?23」
「若っ!」
「え?何歳だと思ったの?」
「30手前くらい?」
「ひど・・・」
「いや、なんかベテランぽくて自衛隊長いのかなって」
「うーん、高卒で入隊したからそれなりに長いけど30手前はキツイな~」
「・・・すみません」
「いいよ、キミは?いくつ?」
「19です」
「わっかぁ~。彼女は?」
「・・・いません。高専は女子少ないですし」
「そのくらいの年齢なら学校じゃなくても出会いはあるでしょうに」
「それが全然・・・って、あれ?」
カイは西側の山景の向こうに見たことのない巨大な影を指差した。
その影は大きすぎて雲で霞み、全体像が判らない。
影の周りを、鳥の群れのような微かな影がゆっくりと周回するように飛んでいる。
仙川も影を視認した。
アクセルペダルから足を離し、車両を慣性にまかせてゆるやかに減速させる。
車両はゆるゆると速度を落とし、タイヤを踏みしめる砂利の音だけが響き、静かに停車した。
仙川は静かに計器パネルを操作しながら、巨大な影の方を見つめている。
偵察車両の天井にあるセンサードームがゆっくりと稼働し、目標を捉えた。
センサーが計測した情報を表示しているのだろう、仙川が掛けているHMDから、様々な光が明滅しながら漏れている。
カイの目には、黒い影は巨大なドーム状の物体に見えた。
ドームというほど滑らかな形ではなく、歪んだ穴の開いた傘のようにも見える。
ドームはゆっくりと回転しながら上昇しているようだ。
現在の位置からははっきり判らないが、これから向かう大学付近の上空に居るようにも思えた。
思いがけずクラスメイトや先生の顔がよぎる。
不安でカイの鼓動は早くなり、手のひらは汗ばみ、指先が微かに震えた。
「仙川さん、あの・・・」
「少し待って。もうすぐ分析が終わりそう」
数秒ほど経った後、仙川は興奮気味にHMDを外し、目を大きく見開いた。
「あれ、おそらくエイリアンシップだよ、すごく大きい、大きすぎる・・・」
「それなんですけど、あれ、大学の真上あたりじゃありません?」
カイの声は少し震えていた。
「え・・・ちょっと待って」
仙川はHMDを掛け直し、パネル上のナビの目的地情報と照合した。
「そうね、大学のすぐ近く。正確には少し東の、湖の上?」
湖のすぐ近くには、カイたちが住んでいる学生寮がある。
当然ながら隣接している大学の学生寮やアパートが建ち並ぶ場所でもあった。
カイの不安はさらに大きくなっていく。
「学校、大丈夫かな」
思わずカイから震えるように言葉が漏れる。
「今すぐは近付けないね。危険すぎる。でも」
「でも?」
「あれ、ゆっくり上昇しながら北の方へ移動してるの」
山向こうに見える巨大な影は、少しずつ上昇しながら、ぼんやりとその全貌を現す。
いびつなドームの下からは、大小様々な触手のようなものが地上に向かって無数に伸びている。
言い換えるならば、超巨大なクラゲが宙に浮いているようなものだった。
巨大で醜悪なその姿は、低く垂れこめた曇り空の中を泳ぐようにゆっくりと上昇し、はるか雲の上へと飛び去って行った。
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