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倉庫脱出編 / 第17話
巨大なクラゲが雲の向こうへ見えなくなるまで、どのくらいの時間が経っただろうか。
「250m位あった・・・あんな巨大なもの、どうやって浮いてるのよ」
仙川はHMDを外して、両目を擦った。
「情報量多すぎて目が疲れた・・・」
「大丈夫、ですか?」
「あぁ、ごめん、大丈夫よ。それよりこれからどうしよう。」
「隊長さんへ連絡はとれないんですか」
「山が邪魔して電波が届かないわ。いつもなら衛星通信で・・・あれ?」
「?」
「衛星受信してる」
仙川は慌ててHMDを装着し、操作し始める。
「こちら04、05応答せよ」
『・・・こちら05、感明良好』
「目的地付近にて母船と思しき超大型物体を視認。映像情報を送信する」
仙川はHMDを被ったまま、なにもない空間に忙しなく指先を伸ばし、動かし続けた。
『05了解。受信を開始した。完了後、01へ報告する』
「01へ以後の行動の是非を問う」
会話を聞いていたと思われる八代の声が入る。
『01より04、情報を確認する、現状待機可能か?』
『04より01、周辺に感なし。待機します』
『了解。暫く待て』
——八代は『弾薬庫』から指揮車へ走り、助手席側のタラップを掛け上った。
「仙川からの情報は?」
「いま受信終わった。解凍して再生する」
八代が助手席に乗り込んだタイミングで、指揮車内の液晶パネルに受信したての映像が表示された。
画面の中で、巨大な影がゆっくりと上昇する。
解析情報から、影は直径約250mのドーム状であると推測され、GPSの位置情報によると目的地すぐ近くの大きな湖を示していた。
「非常識にも程がある・・・」
「葉月、基地を脱出したときにもアレと同じ物を遠巻きに見たよな」
「あぁ、形状はたぶん同じだが、大きさは全然違うと思う」
映像は約10分ほど続き、巨大な影が上昇し飛び去るまでが記録されていた。
「飛び去った方向から移動先を推測できるか」
映像と一緒に送られた解析情報から葉月が読み上げる。
「方位350から355方向へ移動したっぽいなァ」
「ほぼ真北・・・美祢、長門方向か」
「美祢にはセメント産業のでっかい工場があったナ。あとは秋吉台?でもナンも無ぇけどなァ」
「湖の上・・・奴ら淡水が目的か?」
「淡水?」
「進路上に大きなダムやら湖やらが点々とある。それに、秋吉台の地下には広大な地下洞窟がある。そこに大量の地下水源があったはずだ」
「アイツら水を奪ってるってことですかい?」
「まだ推測にしか過ぎないがな」
「クラゲみたいな形だけに?体内に溜め込んでるとか?」
「形はともかく、液体の水っていうのは珍しいんだよ。映画に出てくるエイリアンの目的は、大抵水だしな」
葉月はほう、と納得したような声を上げた後、話を切り出した。
「で、どうします?仙川たち」
「脅威がなければの話だが、研究所の状況確認だけでもしておきたい」
——仙川は偵察車両のセンサー類をすべて活性化させて、警戒態勢を取っていた。
周辺は相変わらずレーダー、赤外線、振動いずれも反応はなく、静寂に包まれている。
「蝉の声すら聞こえないのって、異常よね?」
「そうですね」
ただ待つしかない偵察車両の中で、二人とも時間を持て余していた。
カイは逸る気持ちと不安、畏怖が入り混じって落ち着きを失っていた。
仙川は状況が一変した現在、緊張感を維持している。
仙川はセンサーの外気温度を見て驚いた。
「ちょっとまって、外、35度もある。曇ってるのに」
精密機器だらけの偵察車両の中はエアコンが効いているせいか、外の変化に気付かなかった。
そもそも、倉庫を出発するまでは涼しいくらいに感じていた。
「佐倉くん、はい、お水」
仙川が後部から背嚢を引っ張り出し、ペットボトルの水を差し出した。
「あ、ありがとうございます」
カイはペットボトルを受け取り、キャップを開けて少しだけ口に含んだ。
「あとこれ。舐めといて。塩タブレット」
自衛隊支給のものだろうか、濃いオリーブ色の小さな包み。
仙川は自分用の大きな水筒を取り出し、背嚢を後部席へ下ろした。
「おいしくはないから、ボリボリ食べて水で流し込んで」
カイは包みを開けて、白い丸いタブレットを口に含む。
「しょっぱい」
塩と酸味しか感じない。カイは思わず顔を大きく歪めて仙川の方を向いた。
「熱中症対策。我慢ね」
仙川はふふ、と笑いながら同じタブレットを口に放り込み、ボリボリと噛んで水筒の水をあおった。
「学校、心配だね」
「・・・はい」
「たぶん、この後向かうことになりそうだけど」
「そうですね」
「無事だといいね」
「はい」
無事な訳ないよな、とカイは内心思っていた。
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