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物流倉庫編 / 第20話
——1時間後、仙川とカイは出発の準備を終え、偵察車両に乗り込んだ。
「ARCSVに乗れるなんて!」
カイは乗り込むなり、ぐるりと車内を舐めるように見回した。
「あの・・・あんまりジロジロ見ないでくれる?」
仙川は真っ赤になった耳を恥ずかしそうに大きなヘッドセットで隠した。
「え!?」
「いっ・・・一応非公開の機密だらけの車なんだから、変にいじらないでよ?」
計器類に手を伸ばしそうなカイに、仙川はもうひとつヘッドセットを取り出すと、計器パネルにプラグを差してカイに手渡した。
「えー?・・・そりゃそうですよね(苦笑)」
カイはヘッドセットを受け取り、両耳に装着した。
仙川はエンジンをかけ、計器類をチェックし始めると、いくつかのパネルを操作して出発準備に入った。。
「えっと、ではルートをおさらいするね」
ヘッドセットから仙川の声がクリアに入ってくる。
仙川は中央パネルのナビゲーション画面で地図を表示した。
「目的地はY大学工学部の知能情報科学技術研究所。但し、ルートは私たちの指揮車両が通行できることを確認しながら向かうことになります」
「96式用MCVは、幅も高さもあるから普通の道路じゃ通れなかったりするってことですよね」
「そう。仮に道路は通れても歩道橋や低い高架橋があると通行できないの。それに今までもそうだったけど、道路上に放置された車両や破壊された残骸とかがそのまま障害物になってしまうので、通行可能かどうかを判断しながらルートを検討するのが目的になります」
「了解です。仙川どの」
カイは右手をひょいとかざし、敬礼の真似事をした。
「それから、目的地についてだけど、安全かどうか確認する偵察行動が最優先です」
「じゃ、見に行くだけ?てことですか?」
「そうね。もっといえば、さっきみたいなのがまだそこらじゅうにいる可能性も高いので、この偵察車両で索敵しながら慎重に進むことになります」
「普通にいけば大した距離ではないけど、実際はかなり時間がかかるかもしれないから、そのつもりでいてね」
「・・・わかりました」
「佐倉くんにお願いしたいのは、万一『敵』と遭遇した場合に、あなたの土地勘で裏道や目立たない場所なんかを指示してほしいの」
「了解です。危険がいっぱい、てことですね」
「そういうこと、気は抜かないでね」
仙川は無線に手をかける。
「04より01、偵察行動、開始します」
『01了解。頼んだぞ!』
仙川は専用のHMD付ゴーグルを被り、ゆっくりとアクセルを踏んだ。
偵察車両はゆっくりと前進し、倉庫会社の事務所棟を抜け、トラック通用門から国道に出た。
偵察車両は右折して南方向、先ほどは囮として八代とアクセル全開で爆走した道をゆっくりと進み始めた。
右手には、広大な水田が広がっているが、先程の戦闘で吹き飛んだ大きな窪みが出来ている。破壊された残骸もそのまま散らばったままだ。
「あれ、どのくらいの損害なんだろう」
仙川が右側を見てぽつりとつぶやく。
カイも運転している仙川の横顔越しに、窓の向こうの窪みを眺めた。
「去年のトラックの時もガソリンが漏れたりしてまるまるダメになったって聞きました。同じくらいなら、5トンくらい?」
「5トン!?てことは4~500万円くらい?」
「そのくらいになるんですかね」
「あぁ・・・損害賠償は防衛省にお願いします・・・」
偵察車両は国道を道なりにゆっくりと進んでいく。
延々と続く水田や畑。
民家やホームセンター、コンビニ、空き地利用の太陽光パネルがぽつぽつとある中を進み、ナビの指示通りに西方向へ右折した。
さらに水田と畑が続く道を道なりに進み、自動車専用道路のインターチェンジへ進入していく。
ここまで、人はおろか、鳥や小動物すら見掛けていない。
不気味なほど静まり返った曇り空の中を、たった1台の軍用車両がそろそろと走り続ける。
「要救助者も何も、赤外線反応は全然ないね」
「解析できない微弱な電波はさっきから検出してるけど、近くに敵らしき影も反応もないね」
「ここからは山あいを通る専用道路なので、しばらくこんな感じです」
カイはそう伝えて、仙川をちらりと見た。
仙川はゴーグルを付けたままなので、表情は読めなかった。
化粧っ気はないが健康的な薄紅色の唇から、一言だけ「了解」と発せられた。
偵察車両は時速40kmくらいのゆっくりとしたスピードで南へと進み続けている。
20分ほど走ったところで、山あいの道から少しずつマンションや病院などの大きな建物がちらほらと見え始めた。
「あの・・・仙川さんて何歳なんですか?」
退屈してきたカイが何気なく訊いた。
「うん?僕?23だよ」
「若っ!」
「え?何歳だと思ったの?」
「30手前くらい?」
「ひど・・・」
「いや、なんかベテランぽくて自衛隊長いのかなって」
「うーん、高卒で入隊したからそれなりに長いけど30手前はキツイな~」
「・・・すみません」
「いいよ、キミはいくつなの?」
「19です」
「わっかぁ~。彼女は?」
「・・・いません。高専は女子少ないですし」
「そのくらいの年齢なら学校じゃなくても出会いはあるでしょうに」
「それが全然・・・って、あれ?」
カイは西側の山景の向こうに見たことのない巨大な影を指差した。
その影は大きすぎて雲で霞み、全体像が判らない。
影の周りを、鳥の群れのような小さな影がゆっくりと周回するように飛んでいるのが微かに見える。
仙川も影を視認すると、アクセルペダルから足を離し、車両を慣性にまかせてゆるやかに減速させた。
車両はゆるゆると速度を落とし、タイヤが踏みしめる砂利の音が判るくらいに音もなく停車した。
仙川は小声でヘッドセットのマイクに囁く。
「佐倉くん、静かにしておいてね」
カイは、静かに頷いて窓の外に目を凝らした。
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