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物流倉庫編 / 第5話
食堂では、カイと徳川、葉月と上田が2組に分かれて窓の外を見ていた。
カイはポケットをまさぐって、さっき葉月からもらった飴玉の包みを取り出すと、セロファンをくるくると回し、中の飴玉を口に放り込んだ。
蜂蜜の強い甘み、そして醤油の香ばしい塩味が口の中に広がり、鼻に抜けていく。
あまじょっぱくて香ばしい。
いまひとつ整理のつかない頭の中が、少しすっきりした気がした。
「さっきの話だけど」
徳川が口を開いた。
「事務所ですか?僕は1階しか入ったことないですけど」
「そうか、そりゃそうだよな」
「何か・・・」
「ここの倉庫にね、うちが自衛隊に卸してる出荷前の商品が入庫してるはずなんだが、そこに用があるんだ」
立て続けに徳川が口を開く。
「はっきりいうと、武器弾薬、火器とか部品だ」
「はぁ、武器ですか」
「私たちがこのまま無事に逃げられるかどうか、それにかかってる」
「なんせ全滅寸前で基地から脱出してきたからね、装備がたりない」
「ここにうちが納品する商品が保管されてるから、回収しておきたい」
「そういえば、この倉庫の向かい側に施錠されてる頑丈そうな倉庫がありますね」
「そう。ただ電子ロックだから、電源を復旧してロックを解除するか、無理やりこじ開けるかの二択しかない」
「すごく厳重ですよ、なんかごついし」
「その通り。爆発物なんかもあるから、バカみたいに頑丈だ」
「なので、いくら96式でもこじ開けるなんて出来ない」
「96式!?もしかしてパワードスーツ、96MEですか!?」
「あれ?、気付かなかった?さっきシャッター壊したのは96式だが」
「マジですか!?96式機動外骨格、二足歩行式戦闘車両。Type96 Movable Exoskeleton Bipedal Combat Vehicle、略してType96ME/BCV!!!」
「早口・・・(笑) 詳しいねぇ、ミリオタか何か?」
「いえ、どちらかというとメカオタクです。専攻も機械工学科です!」
「あー、だからここでバイトしてたのか、バイペダルローダーとかもあるしね」
「はい、フォークリフト免許の他にも、バイペダルローダーの操縦資格免許も持ってます!」
「ハハハハ(笑) 急に元気になったな」
「はい!96式・・・間近で見たいですし!」
「それはまた後で隊長さんに聞いてくれ。で」
「電子ロックの解除をしたい。判る範囲でいいので手伝ってくれないか?」
「手伝うのはいいですけど、ほんとにいいんですか?勝手に・・・」
「こういう状況だ、使えるものは使わせてもらわないと、生き残るのが先だ」
「そうです、ね・・・」
カイは現実に引き戻された。口の中の飴の甘味が急に強くなり、苦味すら感じた。
「ほら、96式のパイロットさんがお出ました」
徳川がさっと手を挙げた。
食堂の扉が開き、他の自衛隊員と明らかに違うパイロットスーツの女性が入ってきた。
徳川に気付いて手を挙げて返礼すると、聞き覚えのある関西弁が響いた。
「まいど~、おつかれさまです~、なんかええ匂いしてるな~。」
葉月もパイロットスーツ姿の女性に軽く手を挙げて挨拶した。
彼女も軽く手を挙げて返事すると、きょろきょろとあたりを見回した。
「あれ? りんは~?」
厨房の中で慌ただしく動いている仙川と久保田を見つけ、カウンターから身を乗り出して中を覗き込んだ。
「そんなところでなにしてん?あ、おばちゃん、あたし”たなかうどん”がええ!」
「あんた!こんな時にもう・・・わかったけぇ、ほら!座って待っちょき」
久保田は悪態をつきながらも嬉しそうに少し笑った。
「りんちゃん、冷蔵庫から牛こま、火が通ったのがタッパーにあったから出しちょって」
「はい、女将さん。僕もうどん、食べたいです」
仙川は冷蔵庫からタッパーを取り出し、調理台に置いた。
「ええよ、でもうどんのお出汁取っちょられんけぇ、いつもと味は違うけぇね~」
久保田は小皿を手にとり、火にかけた鍋からお玉で出汁を小皿にとり、味見した。
「うん、ええね」
パイロットスーツの女性は、少年とメディカルウェアの女性の向かいに座り、少し身を乗り出して少年に微笑みかけた。
「きみ、少しは落ち着けたかな」
少年は声なく小さくうなずいた。
「うん、それなら良かった。大変やったな。もう大丈夫やで。お姉ちゃんが守ったるからな」と言って、にっと笑った。
「はぁ~喉乾いた~水~」と、スマホの上のペットボトルに手をかけた。
「あ、それ飲まない方が・・・」メディカルウェアの女性が慌てて声をかけた。
「え?なんで?」キャップを回して今にも開けようとしていた。
「楓ちゃーん?それゴミ箱にあったやつ~」
窓際に寄りかかっていた葉月がニヤニヤしながら静止した。
「なんや、なんでそんなもん置いとんねん・・・あ、ランタンかぁーこれー」
楓というパイロットスーツの女性は、苦笑いしながら蓋を強く閉め直し、スマホの上に戻した。
「天然ボケにもほどがあるでぇ、楓ちゃーん(笑)」
エセ関西弁でツッコミを入れると、楓は
「あらぁ~ウチとしたことが~・・・ごめんあさぁっせぇ~」
と口の前に手を置いてホホホと笑った。
「あの人が、さっきシャッター壊してくれた人ですか」
カイは徳川に聞いた。
「そう、96式のパイロット、岡崎 楓(おかざき かえで)さんね」
名前を呼ばれた楓は、カイの方を向くと、ニィ~ッと顔を綻ばせて軽く手を振った。
【作品脚注】
※たなかうどん
牛肉とわかめ入りうどんのこと。山口県発祥のうどんチェーン「うどんのどんどん」での人気定番メニューの一つ。スタッフの田中さんがまかないで食べていたことが由来とされている。著者おすすめの食べ方として、サービスの刻み葱をうどんが見えなくなるほどたっぷりと入れ出汁でひたひたにし、お好みで天かすと七味を入れて食す。新鮮なネギと牛肉の甘味、わかめの旨味があっさりした出汁と混ざることで濃厚かつ独特な味わいとなる。サイドメニューにある、細かく刻んだわかめがたっぷりとまぶされた「わかめむすび」もおすすめ。
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