読み込み中...
読み込み中...
第5章 白昼の悪夢 / 第203話
だからといって、ずっと離れたまま過ごすのは嫌だ。現状に、私の心が追いつかない。オパールに対して、神様に対して、影に対して――段々と怒りが沸き起こってくる。堪らずにベッドから立ち上がった。
「フレアはこのままで良いの? 仲間が離れ離れになって生活するなんて。おかしいって思わないの?」
「思うよ。だから、ミユに提案がある」
提案とは、何だろう。訝りながら小首を傾げてみる。
「ミユの力でクラウを救えないか、神様に聞いてきて欲しいの」
「そんな方法がホントにあると思う?」
「あたしはあるって信じてる」
フレアはまっすぐに私の瞳を見る。
「聞いてて苦しくなったら言ってね。ミユがクラウに首を絞められてる時、ミユの指先が緑に光ったの。それで、その光がクラウにまとわりついて、ぱっと光ったら……黒かったクラウの目が青くなって」
「じゃあ、それって……」
「ミユの力がクラウを正気に戻したんだと思う」
では、クラウから闇の心を取り除くことも出来るのだろうか。闇を光に変える魔法があるのだとしたら――。
一気に希望は膨らんでいく。
「私、塔に行ってくる! 神様にその魔法を教えてもらわなくちゃ!」
フレアの答えを聞く前に立ち上がり、早速ワープの体勢に入った。浮遊感が身体を包み込む。
目を開けると、眩しい程の光が頭上から降り注いでいた。鬱蒼と茂る森の中、私のいる場所だけが葉が陽を遮っていない。
さあ、行こう。クラウの中の闇を光へ変えるために。
ぽっかりと口を開ける塔の入口へと着実に近づき、それをくぐる。
“来る頃だと思っていた”
入るや否や、良い印象のない女性――地の神の声が聞こえてきた。
“魔法陣をくぐると良い”
「言われなくても」
ほのかに緑色に光り出した魔法陣へと自ら進んでいった。
光が消え去ると、過去に一度だけ来た事のあるラナンキュラスの花畑へワープしていた。私の前に堂々と立ちはだかる緑の鳥――神の顔を見上げる。
「お前が何を言いたいのかは分かっている。心の闇を光へと変えたいのだろう?」
「分かってるなら、そのやり方を早く教えて」
神を睨みつけると、対峙する瞳も鋭くなった。
「お前一人の力で、あの膨大に膨れ上がった闇を封じられるとでも思っていたか?」
「えっ?」
一瞬怯んだけれど、再び鋭い眼光を向ける。
「だって、私の魔法は闇から光に変えるんでしょ?」
「思い上がるな」
ドクンと心臓が脈打った。
神は翼をばたつかせ、私を威嚇する。突風が吹き上がるので、両手で眼前を覆ってかわした。
「お前一人の命の力を使い切ったとしても、消え去るものではない」
「じゃあ、どうすれば良いの!? 私はクラウを助けたいの!」
「闇の力は光よりもずっと強大だ。だから、水の魔導師の死とともに、闇を葬り去ろうとしていた。それなのに……」
地の神はゆっくりと首を横に振る。
「オパールを恨むのだな」
「そんな……!」
本当に方法はないのだろうか。ただ隠しているだけなのではないだろうか。
だって、そうではないか。私がまだ呪いに侵されていた時、地の神は、私の呪いは解けないと嘘を吐いたのだから。
「嘘を吐いても無駄だよ!」
「嘘ではない。まあ、一時凌ぎの方法がない訳ではないが」
「ほら、やっぱり嘘!」
「嘘ではない!」
神がすごむので、驚いて目を丸くしてしまった。
そんな私に、神の目が僅かに緩む。
「お前の力では全ての闇を封じられないと言った筈だ。その言葉に間違いはない。ただ、本当にほんの一時凌ぎだ」
神は翼をこちらに差し伸べた。
「我の翼に触れなさい」
言われるがまま、その緑の羽毛に触れる。すると、私の指先が緑に光り出したのだ。光はすぐに収束したけれど、指先はじんわりと温かい。
「その手で水の魔導師の痣に触れたなら、一時は闇に呑まれることはないだろう」
「この力で誰かが死ぬ……なんてことはないよね?」
「その心配はない。多少、お前の寿命が削られるだろうがな」
多少、寿命が削られるなんてどうということはない。このまま寿命を迎えるまでクラウに会えないよりも、ずっとマシだ。
「それくらい、覚悟は出来てる」
「ならば、与えた力を使いなさい。そうすれば、一日間は水の魔導師が闇に呑まれることも、倒れることもないだろう」
「ありがとう……!」
嬉しさの余り、涙が溢れる。駆け出し、地の神の爪に飛びついていた。
これでクラウが苦しむ姿は、見ずに済むだろう。──私の寿命が削られることさえ、隠し通せれば。
頭上から翼をばたつかせる音が聞こえ、風が舞い降りる。
「礼を言われることはしていない。もう戻るが良い」
声が降ってきたと思うと、辺りが光り出した。もう、地の塔に用はない。モザイク模様が広がる塔へ戻るなり、フレアに報告するために自室へと引き返した。
浮遊感が消えた瞬間、フレアがこちらへ駆け寄ってきているのが見えた。
「フレア!」
「どうだった……?」
怯えるような、不安なような表情でフレアは私を見る。大丈夫だという意味も込めて頷き、笑顔を向けた。
「一時凌ぎだけど、ちゃんとした方法を教えてもらったよ!」
「良かった……ホントに良かった……!」
フレアは私に抱きつき、一緒に喜びを分かち合う。それも一瞬で、フレアの身体はすぐに私の身体から離れた。再び不安そうな表情で私を見る。
「その方法、ミユやクラウに危険はないんだよね?」
一時、言葉に詰まってしまった。危険と呼べるかは分からないけれど、寿命が削られるのだから。
でも、私は隠し通すと決めたのだ。決意を込め、フレアを見詰めて大きく頷いてみせる。
「その心配はないよ」
「良かった……」
今度こそ、ホッとした表情でフレアは私の両手を取った。
「クラウに会ってきて」
「うん!」
フレアと笑顔を交わし、すぐさま一直線にクラウの部屋へとひた走る。クラウに会ったらどんな話をしようだとか、そんなことは考えられなかった。今はただ、その温もりに触れたい。その思いが私の足を動かしていた。
この話はいかがでしたか?
この作品を評価する