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第23章 真の姿 / 第77話
「皆、ちょっと来て欲しい!」
クラウが声を張り上げると、他の六人がこちらへと戻ってきた。期待と不安が入り混じっているような、そんな表情で。
六人は私たちを取り囲み、クラウを見詰める。
「何か見つかったのか?」
「本だよ。これに何か載ってれば良いんだけど」
クラウは本の埃を払い、一頁ずつ丁寧にまくっていく。何が書かれているのか分からないくせに、私も本を食い入るように見る。
しかし、これは私にも分かる。文字の類も、絵の類も、何も書かれていないのだ。
「白紙……?」
「日記帳か何かかな。でも、表紙にはちゃんと『魔法に関する重要事項』って書いてあったんだけど」
日に焼けた紙がパラパラとめくれていく。その度に、胸は高鳴っていく。お願い、何か書いてありますように。祈るような気持ちで歯を食いしばる。
最後の頁を開いた瞬間、本はクラウの手からするりと離れていった。他の皆も息を呑む。
「どうしたの?」
聞いてみても、皆は顔を強張らせるばかりで、何も答えてはくれない。アリアとサラに至っては、その場に崩れ落ちてしまった。
床には最後の頁を開いたままの本が転がっている。大きな赤文字がデカデカと書かれており、嫌な予感しかしない。胸の前で両手を握り、緊張を紛らわせる。
「チェックメイト」
クラウの声が脳に刺さる。瞬時に意味を理解した。立っていられない程の衝撃が襲う。気づいた時には、私も膝から崩れ落ちていた。
これは、影の――罠だ。
恐怖に慄くよりも早く、出入り口の方から足音が聞こえてきた。顔を上げてみると、黒い二つの人影が近づいてくるのが分かる。瞬時に七人全員が私の前に立ち、壁を作った。
「邪魔だな」
男性が呟くと、床が光を放ち始める。これは転移の魔法陣だ。しかも、百年前と同じもの――考えているうちに身体は浮遊感に包まれ、地面に着地する。
また来てしまった。あの、白いベルフラワーが咲き誇る花畑に。
そこに似つかわしくない影と、もう一人、男性が立っている。悲鳴を上げることも出来ずに、クラウに力強く抱かれた。アレクとフレアが私たちと影の間に立ちはだかるものの、使い魔たちの姿はない。
「ミユ、久しぶりだね」
この声には聞き覚えがある。しかし、この人が私の名を知っている筈がないのだ。
「なんで、私の名前を知ってるの……?」
あの時、私はカノンと名乗ったのだから。その人――ルイスは鼻で笑い、軽くあしらう。
「オマエ、ミユとどんな関係だ!?」
「関係も何も……軽く話をしただけだ」
「じゃあ、なんで……!」
「名前を知ってるか、か?」
ルイスの問いに、ごくりと生唾を飲み込む。
「そんなもの、魔導師の名なんて世界中に広まっているだろう」
「でも、あの時は私、魔導師だなんて一言も言わなかった。それなのに、『カノン』って名乗ったら鼻で笑った」
「面白かったからつい、な。自分の前世の名を出す奴がいるか?」
馬鹿にされていることはひしひしと伝わってくる。悔しくて仕方がない。クラウの腕を掴み、その肩越しにルイスを睨んだ。
「影の隣にいるってことは、オマエも影側か……!?」
「ああ、これか」
ルイスは一度だけ指を鳴らす。その瞬間、影の姿は掻き消えた。
「こんなもの、ただの幻影だ」
「じゃあ、誰が魔法を……!?」
フレアが声を張ると、ルイスは漆黒の目を細める。
「まだ分からないのか。全て私の魔法だとしたらどうだ?」
「そんなこと、出来る訳がねぇ! オマエは魔導師でも、王でもないだろ!?」
アレクが息巻くと、ルイスは細い息を吐き出す。
「どうしてそんなに決めつけてかかるのか……。これならどうだ?」
ルイスは次に三度指を鳴らした。音は炎の玉となり、竜巻となり、氷の刃となってこちらに迫りくる。
咄嗟にフレアが炎の渦を出し、私たちを取り巻いたお陰で難は逃れた。
炎が消え去ると、ルイスはにたりと笑っていた。
私たちと彼の間を冷たい風が通り抜ける。
「もう分かっただろう。ミユの高熱も、エメラルドに現れた影も、地震も……全て私の魔法」
その風がルイスの前髪を靡かせる。
「生まれ変わったのは君たちだけじゃない。私が現世での──」
そして見てしまった。
「『影』だ」
それまで髪で隠れていたルイスの額には、影と同じ黒色の魔導石がついていた。
どうしようもない恐怖が湧いてくる。身体が勝手に震え出す。声にならない声を発し、瞼を固く閉じた。
「オマエが地震を起こしたせいで、いくつの命が消えたと思ってんだ!?」
「そんなもの、知らない」
ルイスは軽く吐き捨てる。
では、あの人はどうなったのだろう。彼と一緒に暮らしていた、あの女性は。
「オリビアは?」
聞くと、ルイスは詰まらなさそうに髪を掻き上げる。
「ああ、そんな奴もいたか。あいつは地震の要にしたからな。真っ先に殺した」
信じられない。少なくとも、私の目には、オリビアはルイスのことを慕っているように見えたのだ。人の命を何だと思っているのだろう。
オリビアが不憫で堪らない。両目から溢れるものを止められなかった。
「それよりも、自分の命を心配したらどうだ? 呪いは解けていない。違うか?」
「俺たちが、そんなものはなかったことにしてみせる。心配する必要なんてない」
「前世で愛する者を見殺しにした君が、何を言っている」
嘲笑うルイスに、クラウは殺意に満ちた瞳を向ける。
アレクがちらりとこちらを見遣った。その視線はすぐにルイスの方へと戻る。
「にしても、地震を起こすのに要がいるなんて初めて聞いたな。そんだけオマエが劣化してるってことか?」
「好きなだけ冷笑していれば良い。私は今のままでも、十分に君たちを弄べるからな」
言うと、ルイスは漆黒のマントを翻す。
「私の名はルイスだ。かかってこい」
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