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第8章 糸で紡ぐもの / 第215話
次の日になっても、雪合戦の会場は残されていた。雪合戦では絶対に魔法は使わないという誓約書を書かされる始末だ。しょぼくれたクラウと、膨れたアレクとフレアの顔が思い返される。その会場の隣には、平屋の民家ほどの高さはある雪だるまが並んでいた。罪滅ぼしという訳ではないのだろうけれど、クラウが魔法で出したのだ。にっこりと笑うその雪だるまの顔が、逆に悲しく感じてしまう。
止めなかった私にも責任はあるので、後でアレクとフレアに謝りに行こう。でも、流石に今日はフレアと二人きりになる勇気はないので、刺繍は一人でやろう。溜め息を吐き、今一度、窓の外の風景を眺めてみる。
良いことがないかなと思っていると、ドアがノックされて隙間が空いた。
「ミユ」
その向こうには、しょんぼりとしたクラウの姿があった。
「入って」
「うん」
慰めてあげる前に、クラウの闇を払わなくては。ゆっくりと部屋に入ってきた彼に飛びつき、その胸に片手を当てる。瞬時に緑の光が溢れ、鼓動が速まる。駄目だ、倒れる訳にはいかない。大丈夫だからと自分を奮い立たせ、何度か瞬きをする。
「ミユ?」
「何~?」
「今日、体調悪い?」
「ううん、大丈夫だよ」
にこっと口角を上げてみせると、クラウは私の頬に手を当てた。
「何かあったら、すぐに言って」
「うん」
嘘を吐き続けるしかない。知られる訳にはいかない。クラウを救うためには、他の選択肢は残されていないのだから。
いつまでも重いものを引きずっていても仕方がないので、気持ちを切り替え、クラウの顔を見上げた。
「アレクとフレアに謝りに行こう?」
「うん。多分、二人ともアレクの部屋にいると思う」
手を取り合い、早速アレクの部屋に向かう。罪悪感からなのか、緊張からなのか、会話はない。廊下をまっすぐに進み、アレクの部屋の前でクラウがドアをノックする。
「何しに来た?」
どすの効いたアレクの声に、思わず肩が震えた。クラウと顔を見合わせ、頷き合う。
「ごめんなさい」
言いながら、二人で深々と頭を下げる。ドアの開く音が聞こえたかと思うと、フレアの小さな苦笑いが聞こえた。
「アレク、そろそろ許してあげよう?」
「でもなぁ」
「悪気はそんなになかっただろうし。あたしは二人とも許すよ」
「ミユは知らねーけど、クラウに悪気はあっただろ」
頭を上げてみると、アレクは明らかに不服そうな顔をしていた。そんなに意地悪をしなくても良いのに。思ってはみるけれど、口には出せない。悪いのは明らかに私たちなのだ。
それでも、なんとか許してもらいたくて、フレアの顔を懇願するように見詰めてみる。
「いつまでもギスギスしてたら、お互いに居心地悪いでしょ? 謎だっていっぱい残ってるのに」
「まぁ、そうなんだけどよー」
アレクは頭を掻き、大袈裟に溜め息を吐き出す。
「いや、そのことは置いといてだ。とりあえず、オマエらも中に入れ」
黄色の目はちらりと私たちを見ると、部屋の中へと消えていった。多分、完全には許されていないのだろう。でも、事態は改善した。残されたフレアに小さく「ありがとう」を伝え、部屋の中へと足を踏み入れた。
アレクの部屋の家具は、オレンジに近い黄色だった。やはり、家具の配置は私のものと同じだ。ちょっとした薄気味悪さを感じながら、四人で椅子へと座った。
何から切り出せば良いのだろう。目を泳がせていると、フレアが口を開いた。
「『デュ』の謎とか、『魔導師に留まる器でもない』話とか、あたしたちだけで考えてても、絶対に答えなんて出ないと思うの」
私たちから逸らすことはない赤い瞳に、その決意のほどが窺える。
「王様が駄目なら、神様。その逆だってある。もう、他に頼るしかないよ」
「聞いたところで、答えてくれると思うか?」
「分かんないよ。だって、まだ聞いてないんだもん」
フレアは珍しく腕を組み、アレクを見る。
「だから、片っ端から聞いてみよう? 一人で行って駄目なら、みんな揃って行けば良いんだから」
そのフレアの言葉には、どこか説得力がある。的を射ていない筈なのに、不思議な感覚だ。
「だったらさ、今日は神様に会いに行ってみようよ。俺たちに魔法を与えた神様が、答えに一番近い気がするんだ」
クラウの声の向こうで、慌ただしく誰かが駆け回る音が聞こえる。それは段々と近づいてきて、あらゆるドアを開けているようだ。
そして、この部屋のドアも開かれる。
「皆様……!」
登場したのは、使い魔の四人だった。誰もが血相を変えていて、封筒らしきものを手にしている。
「大変です! 王様から、皆様にお手紙が……!」
「はっ?」
それぞれの使い魔が主の元へと走り寄る。アリアも私の元へと手紙を運んできた。しかし、便箋をまじまじと見てみても、何が書かれているか分からないのだ。何しろ私はこの世界の文字が読めないのだから。
「アリア。これ、なんて書いてあるの?」
「親愛なる地の魔導師殿。エメラルド国王、オズ・ロワ・エメラルドの命により、貴女を全国王主催による夜会へ招待する。日時は七日後の十八時、場所はクリスタルで執り行う。服装は正装とする。またミユに会える日を楽しみにしているよ。……だそうです」
「どうして、今更?」
どういう風の吹き回しなのだろう。しかも、四カ国全ての王が魔導師に手紙を送りつけるなんて。使い魔から封筒を受け取ったクラウとアレク、フレアも、食い入るようにそれを見詰める。
「どーなってんだ……!?」
その問に、誰も答えることが出来ない。部屋中が騒然となった。
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