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第6章 使い魔 / 第205話
夕食の知らせを届けてくれたアレクを意味ありげに見詰めた。
「ミユ、どーした?」
「アレクは王様から何か聞かなかった?」
小首を傾げてみせると、アレクは苦々しげに顔をしかめる。
「上手くはぐらかされた。『話せることは何もないよ。それより、魔導師としての生活を聞かせてよ』だとよ。腹が立って、途中で玉座の間から出てきちまった」
「そうだったんだ……」
私以上に何かを聞き出せていたら良かったのに。残念な思いが心を占めていく。
「でも、ミユは成果があったんだよね」
そこでクラウが救いの手を差し伸べてくれた。
「うん。詳しくは使い魔も呼んで話したいの」
「なんで使い魔なんだ?」
「俺たちだけじゃ、いくら考えても分からない問題なんだ。何万年も生きてる使い魔なら、何か知ってるかもしれないじゃん?」
私も一緒にうんうんと頷いてみせる。アレクは唸り声を上げはしたものの、賛同してくれたようだ。
「内容が分かんねぇから、下手なことは言えねーけど……。オマエらがそー言うならそーしてみようぜ」
アレクは口角を上げ、親指を立てる。
「でもその前に夕飯な。落ち着いてから使い魔を呼ぶからな」
「うん」
クラウと顔を見合わせ、微笑み合う。何かが進む。そんな予感がした。
* * *
満腹になった腹部を手で擦る。今日の夕食はミートドリアとオニオンスープ、ローストビーフだった。久しぶりに食べ物をしっかりと味わった気がする。どれもが美味しかった。
四人でいつもの席に座り、談笑を始める。
「やっと平和って感じだなー」
アレクは遠い目をしながら、にこりと微笑んだ。その隣で、フレアは軽く両手を合わせる。
「あっ、そうだ。ミユって暇つぶしの仕方、笛しかないでしょ」
「うん。本も読んでみたいけど、文字が分かんないし……」
「じゃあ、一緒に刺繍してみようよ。明日からでも良いから」
「刺繍?」
刺繍といえば、小学生の頃に授業で教わったくらいだ。やり方なんて、とっくに忘れてしまっている。
「私、出来るかなぁ」
「やってみれば、案外うまくいくよ」
「う~ん」
自信はないけれど、せっかくのフレアからの提案だ。暇つぶしになるなら、やるだけやってみよう。
「教えてください」
「そんなにかしこまらないで」
頭を下げると、フレアに苦笑いされてしまった。
「あたしも久しぶりだから、腕が鳴るなぁ。明日までに道具を準備しておくね」
「うん、ありがとう」
「刺繍かー。オマエら、女子力たけぇな」
アレクは特段興味もなさそうに、小さく言葉にした。
「上手く出来たら、俺にも見せてね」
「うん!」
見せるだけではない。いつかプレゼントしてあげたい。いつの間にか、そんな希望も沸いてきた。
アレクは話を一旦区切るように、勢い良く両手のひらを合わせる。その音を合図に、空気が少しだけ重くなった。
「んじゃ、そろそろ使い魔を呼ぶぞ。ロイの所に行ってくるから、オマエらは待ってろ」
「分かった」
いよいよ、真相に近付くことが出来る。希望と不安で高鳴る鼓動を気にし、アレクがワープするのを見届けた。
「ねぇ、使い魔に何を聞くの?」
「今は聞かない方が良いよ。混乱するだけだから」
小首を傾げるフレアに、クラウは口をへの字に曲げた。気になるのに聞けない。聞く相手がいない。フレアはそんな状況なのだろう。不服そうに口を尖らせる。
ロイと話をつけたであろうアレクは、意外とすぐに戻ってきた。再びいつもの席に腰かけると、腕を組んでにかっと笑う。
「使い魔全員連れてくるように頼んできた。すぐに来んだろ」
そこへフレアが文句を言いたげにアレクを見詰めた。
「アレクは気にならないの? ミユとクラウが何を聞き出そうとしてるか」
「気になるけどよー、使い魔が来たら話してくれんだ。急ぐことはねぇよ」
フレアは小さく「もう」とだけ呟くと、目を伏せて黙り込んでしまった。
そうこうしている間に、サラ、カイル、アリア、ロイの順番で、立て続けにワープを果たす。何を言うでもなく、静かに私たちの横に腰を下ろした。アレクは全員の顔を見回し、静かに口を開く。
「ミユとクラウから、オマエらに聞きたいことがあるんだとよ」
「聞きたいこと、ですか?」
カイルは小首を傾げ、アレクを見る。
「あぁ」
「話はちゃんと俺たちからするよ。ミユ、話せる?」
「うん」
返事をしたものの、どこから聞いていけば良いのだろう。気を落ち着けて、整理してみよう。王族の『愚かな行為』については、使い魔に聞く必要はない。王が神に会えない事実を伝えても、ああそうですか、で終わらせられそうだ。残るは一つ――。
「私たちの名前の『デュ』の意味って何?」
その私の発言だけで、使い魔たちの表情は凍りついた。アリアは眉をひそめ、カイルはあたふたし、ロイは腕を組み、サラは顔色が悪い。
「『デュ』の名の意味……? んなの、ただの称号だろ?」
「王様の話だと、そうでもないみたいなの」
アレクと淡々と話している間でさえ、使い魔たちは伏し目がちだ。
「オズ陛下……余計なことを言ってくださいましたね」
アリアは唇を噛み、視線を流す。
「じゃー、やっぱり使い魔はその意味知ってんのか?」
「私が話します。こうなった原因はエメラルド王にありますから」
全員の視線がアリアに集中する。
「『デュ』の意味は、私たちからお伝えする訳にはいかないんです。神様のお許しが出ないことには」
「スティアの神様?」
「……はい」
少しの間が、アリアに対して不信感を募らせる原因となる。更にアリアは不安そうな顔をこちらに向け、生唾を呑み込む。
アレクも一連の行動に不信感を抱いたのだろう
「アリア。オマエ、ウソ吐いてるだろ」
「えっ……?」
アレクはアリアの瞳をまっすぐに見る。眼力が思いの外強く、口元に当てられたアリアの手は小刻みに震えていた。
「あっ……アリアは嘘なんか吐いてません! 信じて下さい!」
「あのなぁ、カイル。それがウソ吐いてないヤツの言い方か? 明らかに声震えてるだろ」
「えっ……!」
カイルは誰もいない左側を向く。その様子にクラウが頭を抱えた。
「申し訳ありません、私たちに少しだけ時間を下さい。話をまとめてきます」
「ウソを塗り固めるための時間稼ぎ、じゃないだろうな」
「……はい」
アリアは他の三人の使い魔に目配せすると、使い魔たちは立ち上がり、部屋の奥の片隅で相談をし始めた。
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