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第20章 出発 / 第69話
飛び出した光景に、思わず悲鳴が漏れそうになる。
その村は瓦礫と化していたのだ。クレスタと掲げられたであろう看板は拉げ、家々は崩れ、倒れた木々もあった。
「皆さん、隠れて下さい」
アリアが小声で指示を出し、足音を立てないように木々の影に身をひそめる。
「ワープした先が村の中じゃなくて良かった。もし村の中だったら、助けを求められて足止めを食っていたでしょうから」
カイルの発言に、使い魔全員が頷く。
では、この村を放置して行くというのだろうか。私にそんな真似は出来ない。助けられるのなら、手を貸さないと。首を横に振る私に、アリアは厳しい表情を向ける。
「今、体力を削られる訳にはいきません。呪いが解けたら、また助けに来ましょう」
そうするしかないのだろうか。地震が起きた時に、すぐに私が何か行動を起こせていたら、こんなことにはならなかったかもしれない。
自責の念に駆られ、唇を嚙む。
「行くぞ」
俯いていると、アレクの声が聞こえた。続いて、砂利を踏みしめる足音も聞こえてくる。
「ミユ」
顔を上げる前に、右手を握られた。そのまま引っ張られ、足も自然と前に出る。
「ま、待って」
本当に、今の私に出来ることは何もないのだろうか。クラウの後ろ姿を見詰めてみても、金の髪が横に揺れるだけだった。
ごめんなさい。心の中で呟き、連れられるがままに村を後にした。
小川の傍に続く道を八人で歩く。ロイとサラを先頭に、アレクとフレア、私とクラウ、アリアとカイル、四列に並んで進む。目立った会話はない。それもそうか。所々で倒木によって道は塞がれ、嫌でも地震の存在をまざまざと再確認させられているかのようだから。会話がないせいか、考えてしまうのだ。私の手を握るこの人は、私を実結として見てくれているのだろうか。不安ばかりが募る。
「ん? どうかした?」
無意識に見詰めてしまっていたのか、青の瞳がこちらを向いた。
「ううん、何でもない」
目を逸らし、俯く。
「何かあったら、遠慮なく言って?」
「うん……」
「貴方は私のことをどう思っていますか?」なんて、口が裂けても言えない。溜め息を吐きたくなるのを必死で堪える。
「あいたっ」
「カイル、何してるの」
「つまづいた」
後ろで話し声が聞こえる。なんとなく振り返ると、カイルが苦笑いをしていた。隣ではアリアがカイルに呆れ顔を向けている。
「そんなの、いっつもだよ」
「それは分かっていますが……」
クラウの苦笑いにも、アリアはやれやれと首を振る。
「そろそろ休憩しよーぜ。丁度良い所に木が倒れてるしよー」
突然だった。
アレクが親指で刺す方向には、川に沿って一本の倒木があった。アレクは振り返ると、クラウに嫌な笑顔を向ける。
「おい、あっちで魔法の練習でもしようぜ」
「えっ? ちょっと……!」
アレクはクラウの右腕を掴むと、川とは反対の方へと足を進める。
「ミユ、ごめん!」
クラウもアレクに引きずられる形で、森の中へと消えていった。フレアと二人で、その光景を呆然と見詰めていた。
「しょうがないか。あたしたちはちゃんと休憩しよう」
「うん」
なんとか気持ちを切り替える。
二人で倒木によじ登り、足を投げ出した。考えがまとまらず、足を交互に前後させる。
「フレア、相談なんだけど……」
「何?」
使い魔たちは川遊びをしているので、この話し声は聞こえないだろう。俯いたままで、小さく頷いた。
「私って、ちゃんと想われてるのかなぁ」
「えっ?」
「私じゃなくて、カノンの方を見てるんじゃないかって思っちゃって……」
フレアが小さく吐息を吐いた。
「そっかぁ、そういう悩みが出てくるのかぁ」
フレアの方を見てみると、その横顔は若干怒っているようにも見える。聞かなかった方が良かっただろうか。
フレアは私の方に向き直ると、真剣な眼差しを向けてきた。
「多分ね、多分だよ? クラウも同じ悩みを持ってると思うんだよ」
「えっ?」
「ミユがリエルの事を見てるんじゃないかって。あたしの勝手な予想だけどね」
そう、なのだろうか。違うのに。心に余計な靄が広がっていくのを感じた。
「こういうのは、話し合わないと分からないもんね。でも、まだ『好き』って言えてないでしょ?」
「うん……」
言えていたのなら苦労はしない。肩を落とし、深い溜め息を吐く。
「まずは、そこからだなぁ」
私に告白しろと言いたいのだろうか。考えただけでも、顔は沸騰しそうな程に熱くなってしまうのに。
思わず俯くと、フレアはふふっと笑う。
「それとも、告白されるのを待つ?」
出来れば、告白されるのを待っていたい。更に頭を下げると、またしてもフレアはふふっと笑った。
「こればっかりは、あたしにはどうしようも出来ないから。答えになってなかったら、ごめんね」
答えになっていない訳がない。思い切り首を横に振ると、フレアはにっこりと微笑んでくれた。
そんな話をしていると、突如として爆音が森の方から鳴り響く。音源の方を見てみると、見覚えのある水と竜巻が混ざったような柱が出来上がっていた。クラウとアレクの魔法だろう。
「またやってる。疲れるだけなのに」
呆れるフレアに、苦笑いを返すことくらいしか出来なかった。
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