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第18章 小さな冒険 / 第60話
予定の時間よりも早い帰館に、使い魔たちは一礼をする。その表情から、何かを言われることは承知の上なのだろう。
「明日から呪いを解く方法を探るために、街と城の行き来を許可してもらいたい」
アレクが凛と言い放った時ですら、使い魔たちは真剣な表情を変えることはなかった。
「それは王に許可されていないことはご存知ですよね」
「承知で言ってるんだ。人の命が懸かってる時に、んなこと言ってられるか」
「こちらも、貴方方の安全を思って言っているんです」
ロイの口振りから察するに、私たちと徹底抗戦するつもりなのだろう。
「その『貴方』がオマエらのせいで死ぬかもしれねぇんだぞ?」
「私たちは『四人全員』の身の安全を言っているんです」
「『一人』ならどーってことねぇって言いたいのか?」
「そうじゃありません。その役目は全て私たちにお任せ頂きたいんです」
アレクは使い魔たちを挑発するようにせせら笑う。
「オレらに黙って待ってろって言いたいのか? オマエらだけじゃ、人手も時間も足りねぇ」
「やってみなくちゃ分からないじゃないですか」
「失敗した後じゃ遅いんだ」
「ちょっと待って! これじゃあ、ただの喧嘩だよ」
張り詰めた空気にいてもたってもいられなくなったのか、フレアはアレクとロイの間に割って入る。私も緊張で胸を押し潰されそうになっていたところだった。
「ロイ、ごめんね。サラとアリアとカイルも」
「いえ、こちらこそ申し訳ありません」
使い魔たちは揃って頭を下げる。
「でも、私たちは意見を曲げる訳にはいかないんです。どうか、引き下がって下さいませんか?」
アリアの言葉に、今度は私たちが揃って声を上げながら溜め息を吐いた。答えを考えた末に、口を開いたのはクラウだった。
「使い魔だけじゃ、判断出来ないことは分かった。だったら、王に直接、許可をもらってきて欲しい」
使い魔たちは強張った表情に変わり、はっと顔を上げる。
「い、いや……。王は流石に……」
「聞いてみなくちゃ分からないじゃん」
「ですが……」
「それくらいして差し上げよう? 皆様は、命を懸けてらっしゃるんだから」
私たちの意思を曲げることは出来ないと悟ったのか、アリアは他の使い魔に強い眼差しを送る。
「一時間程、お待ち頂けますか? 王たちのスケジュールに割り入ってきます」
「うん、頼んだ」
クラウの返事を聞くと、使い魔たちは頷き合う。言葉を交わすこともなく、それぞれが光に包まれて姿を消してしまった。
「駄目……。緊張した……」
息が詰まる。真面に呼吸する事さえ難しくなってしまい、その場にへなへなとくずおれてしまった。ああ、なんて私は意気地がないのだろう。そのまま顔を両手で覆う。
「ミユ、気持ちは凄く分かる。それもこれもアレクのせいなんだから」
「悪ぃ。つい熱くなっちまってな」
「だからって喧嘩腰になることないじゃん。説得する予定だったのにさ」
結果的には説得する方向へ持っていけたから良かったのだけれど。流石に私のために仲間割れされてしまうのは見ていてつらかった。
「あたし、ジュースでも持ってくるね。皆、喉乾いたでしょ?」
「あぁ、済まねぇ」
私の喉もカラカラだ。ヒールの音が遠ざかっていき、扉の開閉音も聞こえた。
「ミユ、立てる?」
声に顔を上げてみると、心配そうなクラウの顔があった。手を差し伸べてくれたので、小さく頷き、その手を取った。
ふらふらしながらも指定席につき、何度か深呼吸をしてみる。そうしている間にも、フレアはトレーに四つのグラスを乗せ、足早に戻ってきた。誰かの手によってグラスが目の前に運ばれると、礼を言う前にそれを掴んで中の物を喉へ流し込んでいた。
甘酸っぱい林檎の味がする。
ようやく頭のふらつきが治ってきたように思う。
「うーん」
誰からともなく唸り声を上げ、使い魔の帰りを待つ。この切迫した時に、話題を提供する者は現れなかった。
「あー! 遅ぇ!」
アレクが声を発した時には、体感では一時間を超えていた。
「王様に会ってるんだよ? そのうち戻ってくるから」
「にしたって遅ぇ」
アレクは舌打ちをし、テーブルに突っ伏した。
向かいの席ではクラウが大袈裟に溜め息を吐く。
「待ってるだけっていうのも疲れるよね。何か俺たちに出来ることないかな」
「待つことくらいだね」
「はぁ……」
今度はクラウがテーブルに突っ伏した。
長い。いくらなんでも長過ぎる。私も頭を抱えたくなってくる。
「ここの男性陣は忍耐力がないんだから」
「そんなこと言ったってさ……」
「アイツら待たせ過ぎなんだよ……」
何故、フレアはこんなにも気丈でいられるのだろう。不思議に思ってフレアの顔を見てみると、微笑み返されただけだった。泣き言は言わないでね。そう物語っているような瞳だった。
数分後、使い魔たちは姿を現した。それも四人揃ってだ。
「王たちと緊急会議をしてきました」
「オマエら遅ぇよ」
「きっかり一時間で戻ってきましたが」
伸びきってしまった二人に、使い魔たちは呆れ顔を向ける。
「しゃきっとして下さい。一日三時間だけ、許可を頂いてこれたんですから」
いきなり飛び出したカイルの発言に、クラウとアレクが跳ね起きた。
「オマエら……それ、ホントか?」
「嘘を言ってどうするんですか。期限は二週間です。八人で探しましょう」
やった。私にも足掻くチャンスがあるということだ。思わず立ち上がってアリアに駆け寄り、飛びついていた。
「ミユ様、本番はこれからなんですよ?」
「でも、嬉しいことには変わりないの~!」
良かった。本当に良かった。嬉し過ぎて涙が溢れそうだ。
「それは呪いが解けるまで取っておきましょう?」
アリアは優しく私の頭を撫でる。
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