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第13章 正体 / 第230話
かっちりとしたマント、ファンタジーを思い起こさせる幾重にも重ねられた地に着くほどの長さの衣服、エメラルドとガーネットの頭にはヴェール──それぞれの属性の色の衣装を身にまとい、荘厳な神格を湛えている。しかし、問題はそこではない。
光の中から現れたのは、信じられないのに説得力のある顔ぶれだった。流れるような長い黒髪の女性はフレアに、なびく薄茶の髪の男性はアレクに、同じく揺蕩う金髪の男性はクラウに、ウェーブのかかった焦茶の髪の女性は私にそっくりだ。瞳の色まで同じで、違うことと言えば四十歳くらいまで重ねた神々の年齢くらいだろう。衝撃に耐えられず、呼吸が止まったような感覚に陥る。
「どうだ、これで分かっただろ?」
オニキスの低い声が響く。それでも現実を理解出来ずに首を横に振る。頭が真っ白だ。
「嘘……だろ……」
「嘘じゃねぇ。オマエらに気付かれないように姿を変えたり、口調を変えたりしてみたけどよー……。もう潮時だな。済まねぇ」
アレクの呟きに、トパーズが静かに答えた。
「一番謝らなきゃいけないのは俺だよ。わざと冷たい態度を取って、ミユとクラウを傷つけた。ホントに済まない」
「私からも謝らせて。ホントにごめんなさい」
サファイアとエメラルドが謝ってくれたのは正直に嬉しい。呪いを解くために、クラウが言われたであろう『身代わりになれ』という言葉が、心に残る凶器と化している。『呪いは解けない』と嘘を吐かれたことは、まだ許せたとしても、クラウが神に言われた言葉を想像すると胸を締めつけられるようだ。
「謝られても……どうして今なの? もっと、もっと前に謝ってくれれば良かったのに! そうしたら、私たちの気持ちがどれだけ軽くなってたか!」
「わあぁ……!」と声を上げ、両手で顔を覆いながらその場にうずくまってしまった。横から誰かが抱き締めてくれる。
「どうして神が、姿かたちまで、お前らにそっくりなのか気にならないか?」
柔らかな物言いなのに、威圧感を覚えてしまう。
「……紛い物」
消え入りそうなフレアの声が聞こえた。衝撃が波紋のように、この静かな空間に広がっていく。顔を上げてみると、神たちが動揺している姿が見て取れた。
「『紛い物にもう用は無い。自分の世界は自分で守る。おまえたちにスティアを壊させはしない。そう神に報告しろ』」
生唾を飲み込む音が聞こえる。神にとって、予想外の言葉だったのだろう。そんな中で、トパーズがおどおどと口を開く。
「ソレ、誰から聞いた?」
「ガーネット王国の王様……レンだよ」
途端に神たちの顔つきが変わった。目を吊り上げ、眉間にはしわを寄せ――怒りに燃える表情だ。
「紛い物だと!? オレらの分身になんてこと言いやがる!」
「あたしたちに喧嘩売ってるの?」
「王たちを信じようとした俺たちが馬鹿だったんだよ」
「言うにしても、限度があるよね」
次々に神たちの口から罵声が飛び交う。
「紛い物って、やっぱり……あたしたちのこと?」
フレアは不安げに揺れる瞳を神々へ向ける。
私たち魔導師が固唾を飲んで見守る中で、サファイアは重たい口を開いた。
「君たちは決して『紛い物』なんかじゃない。俺たちの大事な分身。世界を見通す目を持つ者」
ニッコリと微笑み、私たちを見る。まるで実の親のように。しかし、実感が沸かない。
「分身……?」
戸惑う私に、エメラルドがドレスを揺らしながらゆっくりと近づいてくる。そのまま、そっと私の両手を握った。
「そう。貴女は私。私は貴女」
「でも――」
「うん、言いたいことは分かるよ? 私は女神だけど、貴女は魔力を持った人間。違うのはそれだけ。精神は一緒」
『それだけ』と言い切るには、あまりにも隔たりがある。天と地ほどに。
「どうして分身なんか創ったの? 神様なら何だって出来る筈なのに」
「それが出来なかったんだ」
オニキスが腕を組み、真剣な目付きで私たちを見詰める。
「俺とオパールはこいつらのやり方が許せなくて、スティアの神から抜けた。俺らが望んだ世界を創るために」
「その理想が、あの戦争の絶えない世界だったのか?」
対する他の神様たちはオニキスを軽蔑するように目を細めた。オニキスはそれを少しも気にしていないようだ。髪を掻き上げ、鋭い視線で神を見返す。
「これから話も長くなるだろ? 一旦、腰を据えてからにしようぜ」
オニキスの言葉に首を傾げる。椅子なんてどこにも見当たらない。地べたに座るのだろうかと思った瞬間、目も眩む程の光が放たれた。それも一瞬で姿を消し、目の前には真っ白な長方形のテーブルと九脚の椅子が現れたのだ。
オニキスに誘われるままに、魔導師が一列に座る。その向かいには神々四人が腰を下ろした。オニキスはその中間を取って、テーブルの幅が短い面に座る。
「さて、本題に入ろう。何故、お前らを『創る』必要があったのか」
これから何が語られるのか、私には想像もつかない。オニキスは静かに瞬きを繰り返す。まるで、永遠に埋もれた記憶を手繰り寄せるように。神々はというと、私たちに『信じて欲しい』とでも言うような、揺るがない意思を宿した瞳を向けてくる。
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