読み込み中...
読み込み中...
第17章 特訓 / 第58話
もう一度、視界を閉ざす。代わりに、岩が氷柱を貫く場面をイメージした。
「そこ」
呟き、魔法を放出する。瞼を開けてみると、岩は氷柱の一歩手前まで迫っていた。
もう少しでいける。確信を持ち、続けて魔力を放った。氷の割れる音と共に、今まで氷柱があった所には岩の柱が立っていた。
「やった!」
「やったじゃん!」
私よりもクラウの方が喜んでくれたようだ。弾けんばかりの笑顔と共に、ハイタッチを求められた。
私もやれば出来る子だ。クラウの右手に自身の手を合わせる。
「じゃあ、もう一回ね」
「え~っ!?」
「これでへこたれるようなら影は倒せないし、バテるようなら体力が足りない」
「そんなぁ……」
途端にクラウのことが鬼教師のように思えてくる。小さく吐いた溜め息さえ、クラウは見逃さない。
「溜め息吐かない。次、行くよ」
有無を言わさず、先程交わした手は氷柱を生み出す。
結局、正午になるまで氷柱との鬼ごっこは続いた。
* * *
「もう駄目~……」
アリアに連れられて会議室に戻ってきた時には、既に体力は限界を迎えていた。ワープした先で、そのままへたり込む。
「おい、ミユ。大丈夫か?」
「全然、大丈夫そうじゃないでしょ」
疲れ切った私の代わりに、フレアが答えてくれた。クラウはやり過ぎたと言わんばかりに頭を掻く。
「おい、どーしてくれんだ。これじゃー、午後から使いもんにならねーじゃねぇか」
「ごめん、こんなにクタクタになるなんて思ってなくてさ」
二人とも、私を物扱いしないで欲しい。思わず目を吊り上げると、クラウは私の機嫌を取りにかかる。
「ミユ、ごめんね」
言いながら、私の頭を撫でる。
そんなことをされては、許さない訳にもいかないではないか。小さく頷くと、横でフレアがふふっと笑った。
「午後は休息の時間だね」
「昼飯は食べれるか?」
「食べる。お腹空いた~……」
体力を消耗したせいで、胃の中は空っぽだ。お腹が鳴ってしまいそうになる。
腹部をさする私に、アリアは微笑んでみせる。
「今日のお昼はサーロインステーキですよ。皆さん腹ぺこかと思いまして」
「ステーキ!?」
昼からステーキを食べられるなんて。思わぬご馳走に、口の中には涎が溜まっていく。
「お席へどうぞ」
使い魔たちが次々と料理を運んでくるので、言われるがまま、私たちもいつもの席に着いた。ステーキとオニオンの香ばしい匂いが漂ってくる。
「いただきます」
小さく呟くなり、ポテトサラダを横目にサーロインステーキとライスをがっついた。程良いミディアムレアで、ジューシーな肉汁が口の中に広がった。
「そんなに急がなくても、ステーキはどこにも行きませんよ?」
「だって~」
美味しいし、空腹を満たせるしで最高なのだ。アリアに膨れると、七人全員に笑われてしまった。
満腹になれば眠気も訪れるものだ。例に漏れず、今日の私もそうだった。
「ご馳走様でした~」
眠気まなこで呟くと、ケーキが運ばれてきたのにも気づかずに部屋へ戻ってしまった。ケーキの存在に気づいたのは、西日が傾いてからのことだった。
ベッドの上で目を覚ますと、うーんと伸びをする。
「良く寝たぁ」
まるで緊張感がない。先日、影に襲われたばかりだというのに。
影のことを考えると、気持ちがマイナスな方へと傾いてしまう。それに、現実を素直に直視は出来ない。
今はアリアがいるから大丈夫だと、自分を落ち着けるしかなかった。
体力は昼寝のお陰か少し回復したように思う。それでも、無暗に魔法は使わないでおこう。心に決めた時、アリアの声が聞こえた。
「ケーキ、お好きでしたよね?」
横たわりながら、窓辺に佇むアリアの方へと目を向ける。
「うん。どうして?」
「お昼に召し上がらないで、眠ってしまったので」
「ケーキあったの?」
「はい」
頷くアリアに、一気に心が沈む。
嘘だ。ケーキは私の好物なのに。誰か教えてくれても良かったではないか。理不尽なことは分かっているけれど、若干の怒りを覚える。
「もうないよね」
「ありますよ」
言われ、跳ね起きた。しかし、時計の針は五時を回っている。この時間にケーキを食べてしまっては、夕食が入らなくなるだろう。
「夜ご飯の後で食べたい」
「分かりました」
アリアは口に手を当て、小さく笑った。
* * *
次の日も魔法の特訓は行われた。昨日と同じ場所に立ち、クラウと顔を見合わせる。
「今日は、いよいよ協力魔法だよ」
「うん」
火照る顔を気にしながら、大きく頷く。
「説明するより、やってみよう」
クラウがその場にしゃがむので、私もつられてしゃがみ込む。
「この先に岩を出してもらっても良い? 大きさは無理のない程度で」
「うん」
昨日の三倍くらいの大きさで良いだろうか。多分、無理のない程度だ。
地面に右手をつき、意識を集中させる。数メートル先に岩の柱が出来るのを見届けた直後だった。
クラウが私の手に自身の手を重ねたのだ。一気に顔が火を噴いた。
流水音と共に、岩が水によって砕かれる。その勢いは止まらず、前方に茶色の一本道が出来上がった。
「うん、こんな感じ」
クラウは好感触を得たようで、何度か小さく頷く。
この話はいかがでしたか?
この作品を評価する