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第6章 使い魔 / 第207話
横にいるアリアはカイルの腕を掴み、何やら怒っているようだ。
「そんな危険かもしれない方法を教えても良いの?」
「でもアリア、オパール様はクラウ様に接触を図ったんだよ? もしかしたらオニキス様だってミユ様に──」
「でも!」
「仕方ないじゃないか、魔導師様方は本気だよ」
アリアは私の顔を不安げに見ると、サラの方へと視線をずらす。サラは、そんなアリアの頭を撫でるのだった。
「オニキス様は闇の神様です。スティアのどこかの離れ小島に闇の塔が残っている筈です。その証拠に」
カイルは小さく生唾を飲み込む。
「夜が明けない島が、北の端に一つだけあるんです。物は試しと思って行ってみて下さい」
「オニキスに会える確証はあんのか?」
「ありませんが、思いつくのはそれしか……」
「そーか、仕方ねぇ」
アレクは右手で拳を作り、左の手のひらにぶつけた。乾いた音が部屋に響く。
「オマエら、明日にでも行ってみるしかねぇ。ミユには負担かけちまうけどよー、分かってくれ」
「アレク様、申し訳ありません。準備のために五日ほどいただいても良いでしょうか」
「あ? しょうがねぇな」
目を伏せるロイに、アレクはバツが悪そうに頭を掻いてみせる。
「私なら、いつでも大丈夫だから」
「ありがとうございます」
カイルがにこやかに笑う一方で、未だにアリアは不満そうに頬を膨らませていた。
「アリア、私は大丈夫だから」
アリアに笑ってみせると、無言で揺れる瞳だけが返ってきた。
不意に、頭に大きくて柔らかく、温かい物が乗る。隣を見てみると、目を伏せ、何とも言えない表情をしているクラウの姿があった。
「ごめん、今回は俺、何も出来なくて……」
「ううん、塔まで着いてきてくれるだけでも心強いよ。ありがとう」
微笑んでみせると、クラウも僅かに笑みを見せてくれた。
「では、私たちは準備に取り掛かります。塔に行かれる時には、私たちが魔法陣を出しますので」
「あぁ、頼む」
「それでは」
ロイが立ち上がり、扉へと向かうと、呼応するかのようにサラ、アリア、カイルの順でそれに続く。
使い魔が出ていった途端、緊張の糸が切れた。
「はぁ……。疲れた〜……」
テーブルに突っ伏し、クラクラしそうな頭を何とか休める。
「まさか聞いた事もねぇ闇の塔とやらに行くことになるとはなー」
「使い魔だけで話が終わらないなんて思わなかった……」
間が開き、誰かが息を吐き出す音が聞こえた。
「みんな、ごめん」
「何でクラウが謝るの?」
「俺が使い魔に聞こうなんて言い出したからさ」
三人の会話が流れていく。
「それはたまたまだよ。クラウが言わなくても、誰かが言い出してたから」
「でも、ミユに全部任せることになって、俺……」
「少しはミユを信じろ」
三人の視線をやたらと感じる。何とか顔を上げてみると、やはり三人は私を見詰めていた。クラウとフレアは心配そうな顔で、アレクは少し意地悪そうな顔で。
そんな顔をされると困ってしまう。戸惑っていると、フレアが「ぷっ……」と吹き出した。
「それもそうだね」
「でもさ……!」
「じゃあ、ミユはクラウが手伝わないと何も出来ない子なの?」
「そんなんじゃないもん!」
頬を膨らませて「む〜……」と唸っていると、横から腕が伸びてきた。クラウは私を自身の身体に引き寄せる。そのままその手で肩をポンポンと軽く叩き始めた。
「ごめんね、そうだよね、ミユは立派な大人だ」
クラウも何とか納得してくれたようで、彼の口から笑みが零れた。
「そういえばさ、王に謁見したんなら、ミユも正装着たんだよね?」
「正装?」
「ほら、ドレスみたいに豪華な真っ白い衣装」
フレアが補足をしてくれた。それには身に覚えがある。
「うん。コルセットまで着けたんだよ~。あんなの、ただの拷問だよ~」
思い出すだけでも苦しくなってくる。ムスッと膨れた私を見て、フレアは大きく笑った。
「あれは淑女の嗜みだからね。仕方ないよ」
「そんなぁ……」
では、私が魔導師でいる限り、コルセットを着ける日がまたやってくるかもしれないのだろうか。考えるだけでも憂鬱になってくる。
「俺はミユの正装、ちゃんと見てみたいけどね」
「え~?」
「絶対、綺麗じゃん」
頬が高温を発する。好きな人に『綺麗』と言われて嬉しくない女性なんて存在しないと思うのだ。
私の反応に満足したのか、クラウは笑顔で私の頭にポンポンと触れる。そこへアレクの小さな笑い声が響いた。
「いや、悪ぃ。これがオマエらの普通なんだよな。オレは普通が何かも忘れちまってたらしい」
はっと我に返る。今のアレクの言葉が、どれ程クラウを傷つけたのだろう。
クラウは私の頭に乗せていた手を私の肩に持っていき、自身の身体へと引き寄せる。「ごめん……」と呟きながら。
アレクは小さな溜め息を吐き、頭を掻く。
「……済まねぇ」
私たちに暗い影を落とす。
「そんなにしんみりしてたら、せっかくの雰囲気もぶち壊しでしょ? クッキーでも持ってくるから、ちょっと待っててね」
フレアは「もう……」と言いながら、あたかも平気なふりをして部屋を出ていった。フレアの目尻に光るものが滲んでいたのを、私は見なかったことにした。
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