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第4章 謁見 / 第201話
食事を交えつつ、地球についての和やかな談笑は始まった。
「ほう……。『チキュウ』という、ミユがいた世界はそんなにも発展しているのか」
「はい。でもその分、心は貧しいのかもしれません。現に私もそうでした。この世界に来るまでは。世界中では争いも絶えませんし」
オズはローストビーフを頬張り、何度か噛むとごくりと飲み込んだ。その間も私から目を逸らしたりはしない。
「では、私たちがやってきたことは間違ってはいなかったようだな」
「それは……」
素直に言葉が出てきてくれない。人々の心を操るなんて間違っている。そのせいで影まで生み出しているのだ。後始末は私たち魔導師に押しつけて。
しかし、一概には否定出来ない。今、この世界の人々は何の迷いもなく平和に過ごしているのだろう。
俯いて考え続ける私に、オズは優しく語りかける。
「分からない?」
「はい……」
「まあ、それも仕方ないのかもしれない。ミユたち魔導師に無理難題を押しつけているからな」
オズは最後の一切れを口へと放り込んだ。
「オズ陛下、失礼します」
丁度その時、衛兵が一人、ノックの後に扉を開けた。
「そろそろ王妃殿下が私室にお見えになります」
「そうか、分かった」
衛兵の言葉でオズは立ち上がり、マントを翻す。無意識のうちに私も立ち上がっていた。
「ミユ、済まない。時間のようだ」
「いえ、私のために時間を割いていただいて、ありがとうございました」
一礼すると、オズは「ははは」と小さく笑う。
「いや、今日は楽しかった。また遊びに来てくれ」
「遊びに、ですか?」
「異世界の話をもっと聞きたい。まあ、時間があれば、の話だが」
そんなに気楽に会っても良い人物なのだろうか。本人が望んでいるのだから、構わないのかもしれないけれど。
「じゃあ、私は失礼するよ」
混乱する私をよそに、オズは颯爽と玉座の間から出ていってしまった。扉の閉まる音が部屋に響く。
「はあ……」
酷く気疲れしてしまった。温厚な人物だと分かっていても、緊張しない訳がない。溜め息を吐くと、その場にへたり込んでしまった。
テーブルには、まだ手つかずのチョコレートケーキが残されている。今の私には、それを食べる元気は残っていない。
「ミユ様」
とりあえず、頭を整理しよう。王族の『愚かな行い』とは、人の負の感情を星の中心に押しやることだ。止めてしまえば、争いが起きるという。
「あの、ミユ様!」
そして、王は神には会えない。私たち魔導師だけが会えるとのことだった。『デュ』の名の意味――これは分からない。
「ミユ様、返事をなさってください……!」
ぼんやりと聞こえていた声が、今になってようやく心に届く。振り向いてみれば、険しい表情のアリアがいた。
「アリア、迎えに来てくれたんだ〜」
気が抜けてぼんやりしていると、アリアは大きく首を横に振る。
「カイルが来ているんです!」
「えっ?」
なんの用で来たのだろう。一瞬、分からなかったけれど、五日前にアリアから聞いたあの言葉が蘇る。
――クラウ様に何かあれば、カイルが飛んでくるでしょうから。大丈夫ですよ――
クラウに何かあったのでは。嫌な予感が脳裏をかすめる。
「とにかく、今すぐにお部屋に戻りましょう。カイルはそこにいますから」
「分かった」
瞼を閉じ、無我夢中でワープをする。私の部屋には、真っ青な顔をしたカイルが佇んでいた。
「何があったの!?」
彼に駆け寄り、その両腕を掴む。
「詳しくは分かりません! ですが、クラウ様の意識の反応が途切れてしまって……!」
「それってどういう?」
「まさか、誰かに意識を乗っ取られた……? でも、亡くなられた可能性だって――」
「えっ……!?」
アリアの呟きに、心臓が凍える感覚がした。そんな筈がない。だって、五日前は私に向かってにこやかに笑ってくれたのだ。死んでしまうなんて考えられない。
いや、今は考えるだけ無駄だ。会って確かめなくては気持ちが落ち着かない。
「アリア! 私、ダイヤに行ってくるから!」
「分かりました!」
アリアと頷き合っている時間ですら惜しい。慌ててワープを放つ瞬間、ちらりと見てしまった。テーブルの上に置いたままの氷のラナンキュラスが――僅かに溶けだしているのを。
そんなことがある筈ない。必死に否定し、ダイヤの会議室へとなだれ込む。そこはしんと静まり返り、誰の姿も見当たらなかった。
「二人は……どこにいるの!?」
嫌だ、そんなことがあって良い筈がない。涙を堪え、ぐっと足に力を入れる。
どこからともなく、黒い羽根が姿を現した。一枚ではなく、無数に宙を舞っている。影の存在を予感させる。
「嫌ぁっ!」
弾かれるように会議室を飛び出した。キッチンを見ても、倉庫を覗いても、クラウどころかフレアの姿もない。
フレアのことも気にはなるけれど、今はクラウが優先だ。お願い、無事でいて。どうか――。
祈りながら、突き当たりを左に曲がる。目指したのはクラウの部屋だ。ノックもせずに、無作法にドアを開け放つ。
目の前に現れた信じ難い光景に、思わず息を呑む。やめさせなくては。足は自然と床を蹴っていた。
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