読み込み中...
読み込み中...
第3話 / 全5話
「わ、私の名前は朝比奈美雨です!」
全員が席に着き、1列目の子から順に自己紹介をする流れになった。
美雨ちゃんは1番最初にする事になり、とても緊張している様子で頑張って話している。
「趣味は、運動すること……。あ、いや、やっぱり絵を描くことで! よろしくお願いします!」
1礼して席に着くと、パチパチと拍手が聞こえてくる。
それに合わせるように、私もゆっくりと拍手をした。
美雨ちゃんはそれを聞くと、安心したように胸を撫で下ろす。
何故訂正したのかを今すぐにでも聞きたかったけど、他の人が自己紹介を始めてしまったので、後で聞くことにした。
気が付くと自分の番まで迫ってきていて、ゆっくりと席を立つ。
「私の名前は月乃雪です。趣味は映画鑑賞です。よろしくお願いします」
テンプレートのような普通の自己紹介をし、1礼してまた腰を下ろす。
ふと隣を見てみると、美雨ちゃんが目をキラキラ輝かせながらこちらを向いていた。
なんて可愛らしい顔なの? 家で飼いたい。
「旗ノ沙月です。趣味は人間観察、部活に入るつもりはありません。よろしくお願いします」
ぼーっと美雨ちゃんを眺めていると、いつの間にか沙月の番まで回っていたらしい。
JKの趣味が人間観察……。沙月らしくて素晴らしいと思う。
丁度中盤に差し掛かるところで、周りの人間は皆自己紹介に飽き始めているらしく、拍手も疎らになってきていた。
それなのに、隣から聞こえる拍手の音は一定を保ち続け、うんうんと全てに相槌を打っている。
流石に天使すぎないか?
「はい、それではこれで全員終わりましたね」
全ての生徒の自己紹介が終わり、先生が言葉を発する。
そのまま色々と説明され、今日はこのまま解散ということらしい。
ガタガタと皆が席を立つ音が聞こえ、私も立ち上がった。
「あ……雪さん!」
隣から可愛らしい声が聞こえてくる。
「どうしたの? 美雨ちゃん」
まさか、一緒に帰ろうとかそういう事?
嘘、嬉しい……
「またね!」
笑顔で手を振りながらそう言うと、美雨ちゃんは颯爽と消えてしまった。
「可哀想に。仕方ないから昼飯を私に奢る権利を授けよう」
「なんで私が奢る側なの」
「あれ、バレた?」
いつの間にか近付いて来ていた沙月の手が肩に乗り、私はため息をつく。
「連絡先聞いてないの?」
「忘れてた……」
自分の失態に気付き、頭を抱える。
連絡先なんて、1番初めに聞くべきことなのに!
「まあまあ、仕方ないんじゃない? とりあえず飯いこうよ」
「お腹すいてるだけでしょ」
こっちは真剣に悩んでるのに!
とりあえず、私もお腹が空いていたので近くのファミレスで作戦会議をすることにした。
店に入り、店員に連れられ席へと座る。
「それで? 本気で惚れたの?」
「ガチもガチだね」
あの天使の素晴らしさを全て語ろうと身振り手振りで表現しつつ、沙月に熱弁する。
それを呆れた顔で眺めてくる沙月。
「良いんじゃない? 応援してる」
「本気に思ってる?」
「……思ってるよ。雪が傷付かない結果になることだけを祈ってる」
私が、ね。
これまでの恋愛の失敗を思い返しても、私が傷付くと言うよりも相手を傷付けてしまうことの方が多かったのに。
沙月は小さい頃から私のことばかりを気にかけてくれている。
「ありがとう。ちなみに、沙月は恋愛しないの?」
「恋愛って、するしないを選ぶんじゃなくて、気付いた時に好きになってるもんでしょ」
確かにそうだ。
自分で選ぶのではなく自然に好きになってるもの。
流石沙月。人間観察を趣味としているだけある。
「何頼むか決めた?」
メニュー表を見ながら会話をしていたのに、まだ何を頼むか決めかねていた。いや、本当は話すのに夢中になってメニューを見てなかっただけだけど。
沙月は既に決まったようで、スマホから注文を済ませた様子だった。
「うーん。悩む。ドリアかハンバーグなんだよね」
両方捨てがたい。両方食べたい。けれど、私の胃袋はそこまで頑張ってはくれない。
選べるのはどちらか1つだけ。
「ドリアにしときなよ。私ハンバーグだから半分こしよ」
「神様?」
沙月は昔からこうだ。私が食べたいものを理解して、半分こにしてくれる。もしかしたら私のせいで食べたいものを我慢しているのではと考えたことは幾度もあるけど、いつも美味しそうに食べている様子を見るとそうでは無いらしい。
たまたまなのかな。どちらにせよ、嬉しい事には違いない!
「ありがとう、沙月」
満面の笑みでそう言うと、沙月も少し微笑んでくれた。
数分で料理が届いた。ハンバーグからふわふわと湯気が湧き出ている。
「安いのに美味しいって素晴らしいよね」
届いてすぐだと言うのに、既にドリアを頬張り始めている沙月。
口いっぱいに詰め込む姿はまさにリス。
私の言葉に頷き、モグモグと美味しそうに咀嚼している。
「いただきます」
両の掌を合わせ、私も食事を始める。
沙月は忘れていたらしく、私に合わせて合掌した。
「明日からが不安で仕方ないんだよね」
「何が?」
半分まで食べ進め、ドリアとハンバーグを交換する。
「隣の席だよ? 平常を保てる自信がなくて」
ハンバーグを1口パクリと食べると、肉汁が口の中に広がり、鼻の奥から香ばしい香りが溢れ出る。
美味しい。やっぱりハンバーグって素晴らしい。
「既に平常保ててなかったからなんでもいいんじゃない」
「酷い! 保ててたし」
ぷくぷくと頬を膨らませ、ハンバーグを貪る。
「まあ、とにかく頑張りなよ」
沙月は既にドリアを完食したらしく、デザートを頼もうとメニューを眺めている。
興味が無さそうに見えるけど、毎回ちゃんと話を聞いてくれるから沙月は優しい。
最終的に沙月はデザートを3個頼み、全て1人で平らげていた。私は1つだけプリンを頼み、美味しく胃袋に詰め込んだ。
「じゃ、会計払わなくていいから」
「え??」
沙月がさっと席を立ち、1人で会計を済ませようとお札を取り出す。
「いやいや、私も払うよ」
財布を取り出そうとしたが、カバンが見当たらない。
沙月の方をむくと、カバンを2つ抱えている。
「それ、私のカバン……」
「どうせ払おうとするだろうと思って」
行動を全て先回りされている。
悔しさを覚えつつ、奢ってもらうほどのことをした記憶もないため必死に取り返そうとするけど、沙月は一向に離そうとしない。
「私何かしてあげたっけ?」
「いや……」
いつの間にか支払いを終えてしまい、カバンが手元に帰ってきた。
「雪が前を向けたから、そのお祝い」
微笑みながら言う沙月。
やっぱり、彼女は私の1番の友達だ。
「私が1番傍に居るのにな」
「何か言った?」
先を歩く沙月が何か言ったように聞こえたけど、何を言ったのかまでは分からなかった。
「いや? 何でもない。応援してるよ」
この話はいかがでしたか?
この作品を評価する