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第2話 / 全5話
私の名前は月乃雪。今年から高校生になる。
中学までの恋愛の失敗を活かし、高校では絶対に失敗しないようにと思ってたのに……。
「か、可愛い」
目の前で慌てた様子の女の子が1人。
身丈に会っていない制服を見るに、きっと私と同じ新入生なのだろう。
どこへ向かえばいいのか分からない様子の彼女。道を説明しようかと話しかけるか悩みに悩むも、既に先生へと話しかけてしまっていた。
せっかくの話しかけるチャンスを逃し、悔しい思いで拳を握りしめる。
「雪、話しかけたいなら今のうちに行けば?」
隣を歩いていたウルフカットの少女、旗ノ沙月。
沙月は私の幼なじみで、これまでの恋愛の失敗談を全て打ち明けてきた唯一の相手。
「そう、だよね。でも話しかけるのは……」
「あ、行っちゃうよ?」
物理的に沙月に背中を押され、仕方なく彼女に近付くことにした。
足を進める事に、心臓がバクバクうるさい。
どうしよう、なんて話しかけよう。
頭の中を思考がぐるぐる回り、あろう事か、1つの結論に至ってしまった。
——ぶつかってみよう。
「わっ……!」
……なんてことをしてしまったんだ!!
自分でした行動ではあるけど、すぐに後悔してしまった。
ぶつかりたかった訳じゃないのに。傷つけてしまっていたらどうしよう。
「あ、大丈夫? ごめんね、ぶつかっちゃったみたいで」
ぶつかっちゃったみたいで??
いやいや、私がわざとぶつかってしまったんです。
ごめんなさい、ごめんなさい!
こちらを見あげてくる少女に、心臓が激しく鼓動しているのをバレないよう、1歩引いた。
「え、あ……」
え、もしかして本当にヤバい?
まって、そんな、ごめんなさい!
「大丈夫? どこか、強くぶつけちゃった?」
心配になり、彼女の顔を覗き込む。
胸元を抑えながら、冷や汗が止まらない様子の彼女。
嘘、でしょ?
本当にやらかしちゃった。私、一目惚れした相手にこんなことを……。
やっぱり、私は恋愛しちゃダメなんだ。
「だ、大丈夫ですよ! めっっちゃ、元気です!」
これは……。
無理してる、ね。
明らかに大きな声量で応える彼女。無理をして、言葉を発しているに違いない。
ごめんなさい。いつも、私は間違えちゃう。
「……大丈夫そうなら良かった。私は先に行くね」
振り返り、入学式の行われる体育館へと向かおうとしたのだけど……。
「どうしたの?」
服の裾を、彼女が引っ張っていたらしい。
傷付けてしまったのに、どうして引き止めてくれるの?
彼女の方へとまた体を向けると、あわあわと身振り手振りで焦っている様子が伝わってくる。
「あ、あの!」
意を決した様子で、何かを口にしようとしている。
「お名前はなんて言うんですか?」
名前……?
傷付けられた相手に対して、そんなことを聞くなんて。
とても優しい子なんだね。ますます、好きになってしまう。
もう少しだけ関わっても、許されるよね?
「……私の名前は月乃雪。また何処かで会ったら、よろしくね」
笑顔でそう応え、私はすぐさまその場を後にした。
「あれは良くないでしょ」
沙月の元へと戻ると、第一声がこれだった。
確かに、自分でも反省してる。凄く顔色が悪そうだったから。
「そうだよね、私も反省してる」
「でもまあ、良かったじゃん。名前聞いてくれたんでしょ?」
聞こえてたの?と私が聞くと、沙月は笑いながらこちらを向いた。
「当たり前でしょ。あの場にいた子は皆見てたからね。会話も聞こえてたよー、普通に」
なんという事だ。
とても、恥ずかしい。
耳を真っ赤にさせながら、ぽこぽこと沙月の肩を叩いた。
「忘れてね」
「さぁ、どうだろ」
入学式が始まり、長く退屈な校長先生の話を聞いている。
つまらないなと思い、隣に立っている沙月と手遊びをして遊んでいた。
「え、えぇー!!!???」
突如響き渡る可愛い声。
聞こえてきた方向に視線を向けると、先程の少女が立っていた。
「あ……ご、ごめんなさい」
何か考え事でもしてたのかな。
全方位にぺこぺこと頭を下げ、謝罪をしている姿はとても愛おしく、小動物を見ているようだ。
「可愛いな……」
そういうと、隣に立っている沙月がはぁ、とため息をついた。
◇◇◇
その後は何事もなく入学式が終わり、そそくさと教室に足を踏み入れた。
沙月も同じクラスらしく、一緒に名簿を確認し、席に着く。
私の席は1番前の2列目。前の席なのは解せないけど、目があまり良くないので良しとする。
沙月の席が遠いことに悲しみを抱きながら、隣に座ってきた少女へと視線を向けた。
挨拶でもしようかな、なんて呑気に思っていたのに。
「あれ、さっきの子だよね」
目の前に座ったのは、先程の彼女だった。
「ゆ、雪さん!?」
驚いた表情も可愛いな。
「良かった、また会えて。貴方の名前を聞いてなかったから」
良し、素晴らしいぞ私! ちゃんと名前を聞けるなんて!
「あ、あぁ! そうですよね! 私ばっかり名前聞いちゃってた!」
また慌ててる。
身振り手振りで慌てた様子が分かりやすい彼女に、笑みがこぼれる。
「私の名前は、朝比奈美雨です! みう!」
下の名前を繰り返したのは、きっとそう呼んで欲しいからなんだろうな。
胸を張り、自信満々に応える美雨ちゃん。とても、愛おしい。
「美雨ちゃんね。改めて、よろしく」
あわよくば手に触れたいという願望から、手を差し出してみた。
すると、か細い指が重なり、掌が合わさる。
なんだか良い匂いがする。
「……そんなに見つめないで? 照れちゃうから」
美雨ちゃんの方へと視線を向けると、じーっと手の方を向いている。
何故そんなに見つめるの?は、恥ずかしい。
もっとハンドケアしておけば良かったかも。
「ご、ごめんなさい! 指が綺麗だなと思って……」
えっ……?
「ありがとう。照れちゃうな」
照れちゃう所ではない。
心臓が痛い、ドキドキが止まらない。
美雨ちゃんに微笑み、余裕のあるように見せるため髪を耳にかけた。
大丈夫、私は照れていない。大丈夫、きっと社交辞令だ。
「雪さん、もしかして本気で照れてたり……?」
「えっ……!!?」
しまった、きっと耳が赤くなってたんだ!
手で覆い隠すと、熱が密かに伝わってくる。最悪だ、余裕のあるお姉さん的なものを装って行こうと思っていたのに。恥ずかしい、やらかした。
もう、仕方ない。認めてしまおう。
「美雨ちゃんに褒められたから、照れるのも仕方ないでしょ……」
あぁ、顔まで熱くなってきた。
もう終わりだ、穴があったら入りたい。
そっと美雨ちゃんの方へと視線を戻す。
「照れてる雪さんも素敵ですね。可愛い」
「なっ……」
細い指が近付いてきて、顔にかかっていた髪を耳にかけてくれた。
微笑んでいるその顔が、とても輝いて見えて……。
「ふふ、また赤くなりましたね!」
自信満々に、光のような笑顔を向けてくる彼女。
私はきっと、初めて本当の恋に落ちたのだ。
——この笑顔を、1番近くで見ていたい。
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