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第2話 / 全21話
「いやぁ~佐藤くん、よく来てくれたね~これから頼みますよ~」
ハゲ上がった頭に円眼鏡。日本史の教科書に出てくる東条英機ソックリの鈴木総務課長が満面の笑顔で出迎えてくれた。
「佐藤です!これから宜しくお願いします!」
僕は元気よく挨拶した。
フロントカウンターの裏は事務所になっていて、カウンターの真裏にあたる壁には巨大なプラズマディスプレイが掛けられ、格子状に細かく分割された館内映像が映し出されている。
ただ、絶妙にぼやけていて、人影が動いているようにしか見えなかった。
奥に続く事務所は事務机とパソコンが数台並び、側面の壁には巨大なホワイトボード。そこに沢山の張り紙があった。
「ささ、まずは入社手続きがあるから奥までどうぞ」
鈴木課長の先導のもと、事務所のさらに奥へ通された。
事務所ですれ違う社員の皆さんは、ロビーで応対してくれた仲居さんみたいな笑顔はなく、ツンとした顔、抑揚のない声で「おつかれさまです」とだけ言って足早に通り過ぎてゆく。
ONとOFFなんだろうな、と思いつつ事務所を抜け、くねくねと右に左に曲がりくねったバックヤード通路を歩いていく。ロビーは絢爛豪華な作りだが、裏側は雑多な昔ながらのくすんだ白い壁、「***制御盤」と書かれた巨大な配電盤の壁からゴウン、ゴウンと何がが動く音がしている。
狭い曲がりくねったバックヤード通路を抜け、鈴木課長が突き当りの鉄扉をガチャリと開けた。
すると、やわらかい照明に包まれ、ふかふかの絨毯の通路に出た。
目の前には「カンファレンスルーム」と書かれた豪華な扉。
「迷路みたいでしょ?まぁ迷路なんだけど(笑)通路はそのうち覚えられるから、ささこちらへどうぞ」
鈴木課長は豪華な扉を開けて、中に通してくれた。
中は、豪華なバーカウンターにふかふかのソファテーブルセット、巨木から切り出したような一枚板で出来た巨大な会議テーブルにひじ掛け付きの豪華な椅子が並ぶ。テーブルの奥には100インチはありそうな巨大なモニターが設置されている。
まるでどこかの超一流企業の役員会議が催されてそうな、凄い部屋に通された。
案内されるまま、ソファに腰掛けるとびっくりするほど身体が沈み込んでいく。
その様子をみた鈴木課長はケラケラと笑いながら、入社手続きの書類を僕の前に差し出した。
誓約書や雇用契約書にさっと目を通し、サイン、捺印して手続きを終える。
田舎にしては破格の待遇だ。
給与も都会とそう変わりない。残業だらけの前の会社と比べたら、返って手取りが増えそうなくらいだ。
違いがあるとすれば、土日祝も仕事だということ。
休日はシフト制で、希望は出せるが年間休日は最低限であることくらい。
「いやいやいや、凄い経歴の佐藤さんが来てくれて、本当に助かります~」
「佐藤さんにお願いしたいのは、わが社の業務効率化に取り組んで頂きたいのですよ~」
「こちらこそ、まだまだ若輩者ですが、宜しくお願いします」
「いやねぇ、ほんと田舎だからさぁ、なかなかうまくいかないんですよ~、詳しい人もいないし、こういう場所でしょ、なかなか来てくれなくてねぇ」
「はぁ、そうですか、でもすごくいいところですよね」
そんな話をしながら、再びくねくねとしたバックヤード通路を抜けて、「総務課」と書かれたスペースへ通された。
総務課には受付カウンターがあり、その奥に机が向かい合わせ4つ固められ、その奥に鈴木課長の席があり、さらにその奥に超巨大な鋼鉄の金庫が鎮座していた。
「ここが総務課ね。人事、庶務、経理をここの5人でやってます」
「これからお世話になります、鈴木です」
総務課で働く皆さんが、一人を除いて席を立って挨拶してくれた。
「宜しくお願いします」3人が口々に挨拶を返して会釈してくれる。
「ボソボソ・・・宜しくお願いします」
1名だけ、ひたすらカタカタとパソコンに打ち込んでいる人が目も合わさずに小さな声で挨拶した。
「佐藤さんの席は、とりあえずここね」
フロアの端っこ、キャビネットが並ぶすぐ隣に、ポツンと年季の入った古びたスチールデスクが置いてある。
「はい、失礼します」
席につくと、使い古されたグレーの机の上には何もない。
PCはおろか、電源コンセントも見当たらない。
「あとで資料持ってくるから、暫くまっててね」
鈴木課長はにこやかに言って、一番奥の席に戻った。
興味本位で引き出しを開けてみた。
ガラガラガラ・・・と乾いた鉄の音。
当然だが中には何もなかった。
「これから嫌でも書類でいっぱいになるから(笑)はいこれ」
鈴木課長が抱えていたバインダーを机の上にドン、と置いた。
「わが社の経営理念」タイトルの下には、「昭和63年1月1日」・・・?
その下に重なるバインダーには「就業規則」「平成2年4月1日改訂」その横に手書きで「最新版」と書かれている・・・?
まって、いまどき紙のドキュメント?
よくよく見まわせば、キャビネットの中は紙資料で埋め尽くされている。
さっき挨拶した、4人の総務の机も驚くほど紙資料が机の上を埋め尽くしている。
「暫くこれ読んで、会社の方針とか理解を深めてね。また後で来るから」
鈴木課長はそう話して、奥の自分の席へ戻って行った。
ふと気になって、胸ポケットのスマホを取り出す。
・・・電波が、無い。
アンテナの縦にならぶ三本線の隅に「×」が表示されている。
そうだ、ホテルならWiFiがあるはず。
スマホを上から下にスワイプし、WiFiのアクセスポイントを表示すると、旅館のWiFiを検知した。
なんだ、あるじゃないか。建物の奥だから携帯の電波が届かないのか。
旅館のWiFiを検知できたが、パスワードがわからない。
まあいいか、後で聞こう。
ここにきてから気になることがもうひとつあった。
ずっと、誰かに見られている気がする。
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