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第10話 / 全21話
すっかり陽が落ちた駐車場までの山道を登る。
山の中から、時折ガサガサッという音がして、山の斜面から毬栗がころころと落ちてくる。
スマホのライトをONにして、山からの音にビビりながらやっとのことで駐車場にたどり着き、車に乗って国道に出た。
ここは異世界だというのに、普通に国道が走ってる。
まだ意味がわからないが、安住さんの言葉に従って、トンネルを抜けた先の「ふれあい市場」を目指す。
最初のトンネルに入ると、真っ暗闇の中、途中でふわりとした感覚に襲われた。
これが「境目」を抜けるときの感覚なのかな。
短いトンネルの先は、山あいの谷の上を通る短い陸橋。
その先にパーキングゾーンがあり、右手に小さな木造の商店の灯りが見えた。
僕は反対車線側から、Uターンするように右手にあるお店の前に車を停めた。
店の入り口には古めかしい自動販売機があり、看板の裏側の電灯が切れかけているのか、チカチカと点滅していた。
看板には「シモフリヤマ飲料」と聞いたことのないメーカー名と「シモフリサイダー」と書かれていた。
「あら、いらっしゃい。仕事帰りかい?」
ぼんやりと明るい豆電球のあかりの下、商品の陳列棚の奥に、割烹着を着たおばあさんがいた。
「こんばんは」
「あらお兄さん、なんだかお疲れのようだねぇ」
おばあさんはそう言って、いったん奥に戻ると、黒くて丸い何かが載った小皿を手に戻って来た。
「よかったらこれお食べ。サービスだよ」
小皿に載っていたのは小さなおはぎだった。
「え?いいんですか?」
「ええよ、そこの縁台でもおかけんさい」
そう言って、おはぎを縁台の上にちょん、と置いてくれた。
「お茶淹れてくるねえ、ごゆっくり」
おばあちゃんはまた奥に消えていったので、僕は縁台に座って、ひと息ついた。
「はい、お茶ね、どーぞ」
おばあちゃんがそっとお盆を縁台に置き、おはぎの皿もお盆の中へ置き直してくれた。
湯気を湛えた湯呑と、おはぎがひとつ。
「いただきます」
僕はおはぎを手にとり、かじりつく。
ほんのりした小豆の甘味と、もちもちした米の歯ざわり。
そこに熱いお茶を啜ると、なんともいえない安心感に包まれてほっとする。
「へっへっへっ、落ち着いたかね。まあゆっくりしてき」
おばあちゃんが小さく笑うと、「ピリリリリ!」という音が鳴った。
おばあちゃんが割烹着のポケットから、折り畳み型の携帯を取り出し、ぱかっと開いて耳にあてた。
「ばーちゃん、まだ店かね?そろそろ帰らんと」
携帯からまる聞こえの大きな声。
「あーいまね、最後のお客さん。もうじき帰るけーね。じゃ後でね」
「はいはい、じゃーね」
おばあちゃんもほぼ一方的に喋ると、ぱたん、と携帯を閉じた。
「やれやれ、うるさい子じゃねぇ」
おばあちゃんは迷惑そうにつぶやいて、店の片付けを始めた。
僕はあわてて残りのおはぎを口の中に放り込んで、湯呑のお茶で流し込んだ。
「ああ、あわてんでえかったのに、あ、そうじゃ、お兄さん、これ残りものじゃけと買うて帰ってくれんかね?半額でええよ?」
おばあちゃんは、薄いペラペラの透明パックに入った押し寿司を小さいレジ袋に入れて持ってきた。
「半額?いいんですか?」
「ええよ」
「おいくらですか?」
「えーと、150円」
さすがに電子マネーはないか。僕はポケットから財布を取り出し、150円をおばあさんに渡した。
「はい、ありがとうね。割り箸もいれちょったよ。なんならここで食べて帰ってもええからね。ゴミ箱は自販機の横にあるけ」
おばあちゃんから押し寿司の入った小さいレジ袋を受け取った。
僕は上から中身を覗き込んだ。
上にさくらでんぶといりごまが振られた、かわいらしい押し寿司。
そういえば朝食べたきり、何も食べてなかった。
「ここで頂いていきますね」とおばあちゃんの方を振り向いたが、もうそこにはおばあちゃんの姿はなかった。
しまった、安住さんが言ってたこと、聞きそびれてしまった。
袋から押し寿司のパックと割り箸を取り出し、パックに止められたテープを剥がす。
ぱかっと開いた押し寿司から、ほんのり香ばしい匂いがする。
割り箸を開いて、押し寿司を半分に切って、頬張った。
さくらでんぶの甘味と、しっかり味がしみ込んだ甘辛い椎茸の薄切りが寿司の中に隠れていた。
甘露煮ってやつかな?濃い味のアクセントで食が進む。
ほぼ3口で食べきってしまった。
量は少ないけど、程よい満足感。
お茶を飲もうと縁台を見回すが、いつのまにかお盆ごとなくなっていた。
おばあちゃんいつの間に下げたのやら・・・
感心しながら立ち上がって、食べ終わったパックと割り箸をレジ袋に入れ、ゴミ箱に捨てた。
喉乾きそうだな、何か飲み物を買って飲みながら帰るか、と自動販売機の前に立った。
大きな押しボタンに「サイダー」「クリームソーダ」「ミルクコーヒー」3種類しかない。
値段は・・・100円!?
この自販機、動いてるのか?と思いつつ、財布から100円硬貨を出して、投入口に入れた。
ボタンのランプが点いた。買えそうだ。
僕はサイダーのボタンを押した。
ビーッ!ガタン!と大きな音がして、取り出し口にでかい瓶が出てきた。
ビン!????
手を伸ばして取り出してみると、まごうこと無きガラス瓶。しかも王冠で蓋がしてあった。
ペットボトルじゃないのかよー。
よく見ると、硬貨の投入口の下に、栓抜きらしき穴があった。
このままじゃ車で運転しながら飲めないし・・・と、栓抜きに王冠のついた飲み口を差し込み、引っかけて傾けると、簡単に王冠が外れ、シュワ―っと炭酸の弾ける爽やかな音がした。
試しにひと口、飲んでみた。
冷たくて美味い、懐かしい味。
僕はサイダーを片手に車に戻った。
残念なことに、車のカップホルダーには瓶のサイダーは大きすぎた。
僕は飲み切るまで、車を動かせなかった。
家に辿り着いたのは、21時半だった。
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