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第4話 / 全9話
荒野の夜は、冷たい空気に支配されていた。焚火の赤い炎だけが、私達を取り囲む暗闇を押し返す。
酒を飲み過ぎたであろう彼は、力強い四肢を投げ出し、深い眠りについていた。その剛健な胸板が、静かに、そして規則的に上下している。私は静かに彼を見つめていた。酒は、私の理性の壁にも、わずかにヒビを入れはじめる。
彼の、鍛え上げられた肉体が放つ熱を、火の粉の向こうに感じる。この温もりが、明日には消えてしまう気がした。
その瞬間、過去の鮮明な記憶が、熱い血流となって全身を巡った。旅路の、別の結末。彼を、私の全てで受け入れた、あの夜の歓喜。
(ああ、もっと強く……)
野獣の咆哮のように喘いだ。彼の分厚い手が、私の肌を容赦なく掴み、食い込んだ。痛みと快感が、全身の感覚を焼き尽くす。あの夜、彼の全てを受け入れた瞬間に感じた、魂が砕け散るほどの喜び。
(ああ……)
私の意識は、今、ここにいる冷静な自分から、彼に抱かれ、すべてを委ねた過去の自分へと引き裂かれる。
私は、静かに、手を動かし始める。衣の裾をわずかに持ち上げ、焚火の光が届かぬ、暗闇の奥深くへと手を忍ばせる。
(はぁ……っ)
硬く、湿った感触。愛した記憶と、目の前で眠る彼の存在が、行為を加速させる。過去の快感と、未来への絶望。それらが混じり合い、指先から、熱い震えとなって全身に伝播していく。
薪の爆ぜる音と、自身の荒い息遣いだけが、夜の静寂を乱す。
(これが、私に許された、ただ一つの……)
快楽の波が頂点に達し、全てが解放された後、呼吸を整え、自らで濡らした指をゆっくりと鼻先へと運んだ。
その匂いを嗅ぎ、自虐の笑みを漏らす。
「ふふっ。まさに生臭坊主だな」
私は、静かに手を清めると、焚火の炎の向こうで眠る彼を見つめ続けた。
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