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第一部 ルー=ガルーの邂逅 / 第11話
「地元は?」
真壁に尋ねられ、また顔を上げる。
「あ、はい。この辺です」
フロントガラスの向こうに、見慣れたドラッグストアの看板が流れていく。
入口脇に、初めて見るグミのポスターが貼られていた。
交差点に差し掛かり、車が停止する。アクセルもブレーキも滑らかだ。人を乗せ慣れているのだ、と思った。
アロハシャツの男が、運転席からバックミラーを見上げた。短い髭を生やした顎を一撫でする。
「坊主、俺達の名前、聞いたことは?」
隣から、視線が刺さる。
「……いいえ」
「そりゃあよかった」
ありがとうございます、と何故か礼の言葉が口を突いて出た。何がだ、と笑われる。
「……俺とタメか?」
ぽつりとムサシが、口を開いた。
振り返ると、変わらず何かに怒ったように顔を顰め、車外を睨んでいる。
「ムサシ、お前の面でそりゃ無理だろ。年いくつだっけ?」
運転席の男が片眉を上げた。
「二十一、っす」
一つ年上か。
「今、二十歳です。三月に二十一歳です」
「おー。なら学年、一緒だな。お前ら」
ムサシの視線が、こちらを向く。
またすぐに、逸らされた。
邪魔なんだろうか、と考える。膝を合わせて、カバンを抱え直す。右側の二郎が腰を据え直した。イオリの尻がムサシ側に追いやられる。
「……ごめんなさい」
「別に」
車は、イオリの知らない脇道に入っていく。
カバンの中に手を入れると、紙片の角が指先を刺した。
名刺の白が、甦る。
――診察が終わり、イオリは再び木の椅子に座っていた。
ムサシ達が瀬戸の部屋を後にして、相馬は控え室へ入った。真壁とイオリが、向かい合うように座った。
真壁がポケットから、黒い名刺入れを取り出した。そこから一枚抜き取り、テーブルに置く。
指先が、静かに向きを整えた。
診察室のテーブルに、一枚の白い紙。
TKWアートマネジメント株式会社
代表取締役 真壁迅
差し出された名刺を手に取る。
「僕、名刺とか持ってなくて」
イオリは、名刺を裏返した。
流れるような書体で、「Fine Art / Asset Advisory / Private Sales」と記されていた。
瀬戸はイオリの左に椅子を並べ、座っている。
「ごめんなさい、正直、真壁さんのこと、ホストか暴力団だと思ってました。その……格好良くて」
……取り繕うにしても、もうすこしうまくやれたんじゃないか、と、苦笑いが込み上げた。
「隠しても仕方ないんじゃないか、真壁」
静かに紅茶を飲みながら、瀬戸が静かに続けた。
「彼は、東雲会常磐組の若頭だ。所謂暴力団だね」
思わず瀬戸の方へ振り返る。
向かいで真壁が肩を揺らし、喉奥で笑った。
「バラすなよ、新」
真壁は瀬戸の下の名を、当然のように口にした。瀬戸も、わずかに目を細める。二人の距離が、思ったより近い。
真壁の前にも、イオリと同じ透明なティーカップがあった。コーヒーだった。
イオリは真壁の名刺を両手で持つ。真壁迅、という文字列に視線が行く。
昔、瀬戸に貰った名刺は、一回り小さかった。
「……先生と…仲が良いんですね」
真壁が、不意に笑みを深める。
頬に、ひりつきを感じた。
「ナカヨシに見えるか?」
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