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第一部 ルー=ガルーの邂逅 / 第10話
車内には、煙草と、古い革のにおいが満ちていた。
走り出して暫くの間、助手席にいる真壁は、電話をしていた。ワインレッドのスーツに負けない、人目を引く整った顔立ち、いやらしくなく染めた金髪。
結局、瀬戸とどういう関係なのかは聞いていない。
「……ええ、後で伺いますよ、オオクマ先生」
「…………」
その右側、時折咳払いしながら無言で運転するアロハシャツの壮年。白髪交じりの五分刈り頭。目尻やほうれい線の皺が深い。背は高くないのに、肩や背中の存在感が大きい。
イオリは二列目の中央に座っていた。
「こんな細っこいのが、ホモに受けるンすか? 若」
「あ? お前にゃ関係ねえだろ二郎」
右にいる男は、レスラーより一回り腹が太い。極道パーマとでもいうのだろうか、刈り上げたサイドに、ウェーブが掛かった髪型をしている。
時折貧乏ゆすりする。
左に、ムサシ。
黒い髪に、黒いスーツ。首も肩も筋張って、厚い。腰は引き締まっているが、イオリより明らかに大きく硬い。
ずっと眉間に皺を寄せて、鷹のように前を睨み付けている。睨んだまま、喉仏が、ときどき動く。
それでも、不意に目が合う。
そしてまた逸らされる。
通話が終わると、真壁は煙草を咥えた。
「若、火ィ!」
「馬鹿二郎。危ねえだろうが」
となりのレスラー男が身を乗り出しかけた。しかし真壁は右手を軽く振って、動きを制する。
「……」
反対側のムサシは、動かない。膝の上で、拳を握り締めている。
音楽も会話も無い。
イオリは、すっと挙手した。
「あー……あの。僕、小倉伊織です」
その瞬間、視界の端でムサシの肩甲骨が動いた。
「おう?」
返事を返してくれたのは、運転手。
「よろしくお願いします。市大の三年生です」
ミラー越しに真壁が目を細める。
「面接みてえだな」
「仕事初日、なので」
「はっ。おホモだちは多いのかぁ? 首輪なんかつけて、喜んでよお」
鳩尾がぞわりとした。ひく、と片口角が引き攣る。
首に触れる。
固さの中に、先生が触れた温度。曖昧に笑って、あんまりいません、と呟いた。
「つまんねえぞ二郎。帰ったら便所と風呂掃除しろ」
「あ…………うっす」
「こいつが朝言った、例のバイトだ」
隣が身動いだ。
見ると、ムサシが自分の顔を左手で覆っていた。
手の甲に、細長い火傷痕がある。
「…………」
目をそらし、代わりに自分の左手を見下ろす。
――オーブン。
『あっつ!!』
教室に響いた、友人の声を思い出した。
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