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第一部 ルー=ガルーの邂逅 / 第16話
『次は、柳川橋。柳川橋。南公民館をご利用の方は、次でお降りください』
不意に、夏の暑さが肌に甦る。
涙の味。
肺を震わせて叫んだ瞬間。
ぎゅ、と目を瞑り、暖房の風に意識を向ける。
その間に、バス停は通り過ぎてしまった。
『次は、南高校入り口。南高校入り口』
――イオリの母校。
卒業以来ぶりに通りかかる。
野球部らしき、頭を丸めた少年たちを追い越した。
バス停の手前で、年季の入った花屋を通り過ぎた。
見覚えがあった。しかし、記憶よりも庇が破れて、看板の文字が欠けている。土曜日なのに、シャッターも下りている。
色褪せた母の日のポスターだけ、時間が止まっていた。
「あのお花屋さん、まだあったんだ。あそこで僕――」
「……や、去年、店閉めた」
イオリはムサシの顔を見た。
「そう、なんだ……」
「オーナーが倒れた」
車窓を見る鋭い目が細められて、すこし寂しそうに思えた。
「だから、あそこじゃもう、職場体験もやってねえ」
一瞬、頭が止まった。
「待って――」
ムサシが、はっとイオリの顔を見て、そしてすぐに背けた。前の座席を掴む手が、力を込めている。
「南高? ……――ムサシ?」
「――悪ぃ、降りる」
黒い影が、立ち上がろうとした。
イオリは咄嗟に手を伸ばし、腕を掴んだ。
こんなに太いなんて、
信じられない。
「い……」
目元が熱を持つ。
「行くなよっ、また」
笑わなきゃ。
でも、頬が燃えるように熱い。
「ムサシ……きみ、」
『南高校入り口、南高校入り口』
バスが止まり、降り口のドアが開く。
心臓が喉まで込み上げて、言葉の邪魔をする。
呼び間違えたら、
二度と会えないと思った。
赤い髪。
痩せた身体。
――コロッケパンと、おにぎり。
「ッ――村瀬朝志……だろ」
エンジンの微かな振動。
幾つかの視線が、ムサシを見ている。
「――……」
舌打ちではなく、溜め息。
ムサシは再び腰を座席に据えた。
運転手が、車内マイクを使う。
『お客さん、降りますか』
「……」
『えー、出発します』
高校前のバス停。
降りる客もバスを待つ客も居らず――
「小倉――
………伊織、だろ」
卒業生だけが、車内にいた。
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