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第一部 ルー=ガルーの邂逅 / 第17話
「ねえ」
「……何」
机に突っ伏したまま、赤毛の少年が呻く。
「シュウマイ食べる?」
「……」
指先が疼く。
イオリが高校に入学して一ヶ月。友達のグループも、とっくに出来上がっていた。そこから飛び出して、今日初めて話し掛けた。
「いらねえ……」
少年は動かない。
イオリは椅子を引き、横向きに腰掛ける。机の隅に、自分の弁当箱を置いた。
「三つあるんだよね」
「いらね――」
言い切る前に、
ムニッ。
顔を上げた少年の口に、無理矢理シュウマイを押し付けた。
「へへ」
「…………へへ、じゃねえよ」
「口つけたんだから、食べるよね?」
渋々、少年は口を開けた。一口では食べきれない程、シュウマイが大きい。眉間に皺を寄せながら、頬を動かす姿は、小学校で飼っていたハムスターに似ている気がした。
「……デケえんだけど」
「うん。マ……母さんが作ったから」
……決め所だったのに、外した。
しかし少年は、イオリの言い間違いに何も言わない。
自然と頬が緩んだ。
村瀬朝志は、たぶん、良いヤツだ。
「今日は、コロッケパン食べないの?」
本題に入る。
昼休み。他のクラスメートはまだ昼食の真っ只中。彼だけが、飲まず食わずのまま、隅で寝ていた。
「……コロッケパン好きなの?」
「いや……安いから」
「売り切れてた?」
囓ったシュウマイ(大)を指先に摘まみながら、村瀬はイオリを睨む。
「財布、忘れた」
「マジで? え、ちょっと待って」
イオリは口をモゴモゴ動かしながら立ち上がり、自分の席へ戻った。カバンに手を突っ込み、薄い小物入れを取り出す。
村瀬の前に、差し出した。
「千円あれば、足りる?」
「……シュウマイ食った」
――訂正。
村瀬朝志は良いヤツだけど、多分、頑固だ。
しかし、ここまで格好つけたのだから、イオリも譲る気は無い。
あ、と小さく声を上げた。
「お金貸すんじゃなくて、財布貸すだけ」
「は?」
袖から覗く村瀬の腕は、骨張って肉が少ない。
腹が減るのは、誰だって、辛い。
「だからさ、村瀬君」
鮮やかな、濃い黄色をしたカボチャの煮物を箸で掴む。村瀬の目の前で、口を大きく開けて食べた。
「お金忘れたんじゃなくって、財布忘れたんでしょ」
ツヤツヤの白米を多めに掬って、頬張る。
「いくら入れてあるか、ちょっと憶えてないし」
村瀬の目が、呆れた、と言うように細くなる。
けれどイオリは聞いた。
彼の喉が、ゴクリと鳴るのを。
「……明日返す」
椅子の脚が、床を引っ掻いた。
小物入れを手に、村瀬は立ち上がる。
「うん。明日ね」
次の日、村瀬は昼休みになった直後に教室を飛び出し――。
コロッケパンと小物入れを手に、イオリの所へ戻ってきた。
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