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第一部 ルー=ガルーの邂逅 / 第18話
誰かが触るのを待っていたように、イオリの友達グループが、村瀬に話し掛けるようになった。
「村瀬って不良だよな」
あまりにも直球で、イオリも村瀬も同時に噎せた。
「ゲホッ。……不良って、学校来ないでしょ」
「えー、だけどさぁ」
確かに目付きは悪い。髪の毛は赤い。
ブレザーは前を開けて、ネクタイは大体緩んでいる。
歩くときは肩で風を切って歩く。
でも、遅刻も居眠りもしない。
変なグループとも、付き合わない。
「村瀬、中学のときに佐々木ってやべー高校生ボコしたって」
「もー。お前さぁ、普通ここで言う?」
イオリがクラスメートにデコピンをする横で、村瀬は天井を見上げて黙っていた。
静まり返るイオリのグループ。隣の女子グループも、たぶん聞き耳を立てていた。
「あー……ササキ、いたわ。警察に、パクられた」
俺も、とボソリと付け加えて、村瀬は真っ黒なボールおにぎりを頬張る。
この日のおにぎりの具は、冷凍のソースとんかつと、高菜。イオリの食べる弁当の片隅にも、同じおかずが入っている。
「呼び出された。俺、普通に制服着てて」
彼の口元を眺めながら、朝、そのおにぎりに海苔を貼ったことを思い出す。
「向こう木刀持ってて」
「村瀬は⁉」
「……」
眉を寄せて、嫌そうに顔を横へ向け。
「せーとーぼーえーになった」
とだけ呟いた。
「どゆこと」
「丸腰だったんじゃないの? 村瀬」
「えっ、ヤバ――いてててイオリン痛いですギブギブ」
イオリは真顔でクラスメートの耳を強めに抓る。解放後に、「ナンデェ……」と裏声でぼやく彼を見て、村瀬は安堵したようだった。
「……宮本武蔵みたいだねぇ」
「あれ、武蔵が木刀だろ」
「そうだっけ、ムサシ」
多分、初めて村瀬を「ムサシ」と呼んだのは、この時。
村瀬は、首を傾げた。
「俺、ムサシなのか」
「いいじゃん、モテそう」
イオリはニッと笑う。
ムサシは最後の一口を食べた。
二年生になると、グループはばらけた。
けれどイオリとムサシは、同じクラスのままだった。
ムサシの目つきの悪さと赤毛は、治安の悪い連中に目を付けられる遠因だったが、彼は学校を休まなかったし、成績はむしろ、良い方だった。
「カノジョ出来た」
放課後の図書室。向かい合って二人で勉強していると、ムサシが呟いた。
イオリの指が止まった。
「……えー…誰」
「一年の、立花って子」
「知らないなぁ……」
二人とも、帰宅部だった。
カバンは机の下。イオリが窓際の席。ムサシが通路側の席。
「ムサシここわかる?」
「どれ」
「問三の2」
別冊の解答集は、すぐ隣に置いてある。
だけど、わからないところは、まず聞き合う。
「あー……1の答え、あるじゃん」
「展開したけど、なんか違うっぽくて」
「見して」
ブラインド越しの日光が、背中を温める。
ムサシの赤い髪が、さらに明るく見えた。
頬に、掠れたようなかさぶたが張り付いている。
「職業体験」
「花屋?」
「あの後、告られた」
「僕もいたのに」
「確かに」
「確かに、じゃねえよ。じゃあ、一年の終わりの時じゃん……」
手を止める。
ムサシが、じっとイオリの目を見ていた。
「わかんねえ」
「……何が?」
「何、したら良いのか」
「…………一緒に帰る、とか」
僕にもわかんねえよ、とは言えなかった。
それから徐々に、図書室で解答集を開くことが多くなった。
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