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第4章 盾 / 第11話
アヴリルは道標へと駆け寄り、行き先を確かめる。
「北はあっちだよ! さ、着いてきて」
それが済むと、一人で先に歩いていってしまう。
「アヴリル、駄目! 一緒にいないと……貴女は武器を持ってないでしょ?」
私が叫ぶと、アヴリルは足を止めて首を傾げた。
「武器ならあるよ? これ」
「えっ?」
アヴリルが誇らしげに掲げたのは盾だった。
「これで殴ってボコボコにするんだー」
意地悪そうに笑い、盾を縦横無尽に振るってみせる。そんな彼女に、リックスは顔をしかめた。
「おい、俺たちに当たったらどうするんだよ!」
「そんなに馬鹿じゃないって! ちゃんと距離は取ってるでしょ?」
アヴリルは片方だけ口角を上げると、行くべき方向を見据える。
「早く行かないと、日が暮れるよ! 夜はモンスターが活発になるから、寝床だって確保しなきゃ駄目なんだからね!」
再びアヴリルは一人で歩き出す。ノエルも私とリックスを見て、片手を大きく振る。
「俺たちも行こう。女の子に先頭は任せられないからな」
アヴリルの後を追い、ノエルは前方へと駆けていく。取り残された私とリックスも、ようやく一歩を踏み出した。
「ノエルもよくやるよ」
「でも、あれがノエルなんだよ」
「……だな」
リックスと二人でノエルを眺めながら苦笑いをする。
幸いなことに、夕暮れまでモンスターには出会さなかった。前を歩く二人は、やはりアヴリルが盛り上げ役になっているらしい。明るく笑う彼女に、ノエルも微笑みながら頷いていた。リックスとは逆で、ノエルとアヴリルは相性がいいのかもしれない。
夕刻になり、野営できそうな場所を探す。ちょうど小川が流れているところを見つけ、ノエルとリックスが木の枝を掻き集めてきてくれた。心で炎が出るように祈ると、薪が燻り始める。
アヴリルは火の前でしゃがみ込み、暖を取り始めた。
「オフィーリアがいてよかったよー。火起こしが一番、大変だからさー」
アヴリルが話す内容から察するに、彼女は旅に慣れているのだろう。アヴリルの過去が少し気になってしまった。
「アブリルは、どうして盾職になったの?」
聞いてみると、アヴリルはつまらなさそうに目を細める。
「面白い話じゃないよ。また今度にしよ」
完全にはぐらかされてしまった。しばらくは教えてくれる気はないのだろう。それでも仲良くはなりたくて、アヴリルの隣に座り込んでみる。すると、ノエルはアヴリルの隣に、リックスは私の隣に腰を下ろした。
リックスは炎を見詰めながら、小さな溜め息を吐く。
「俺たち、野宿って初めてなんだよな」
「えっ? じゃあ、王都までどうやってきたの?」
「馬車だよ」
「でも、馬車なんて、そんなに安くないよ? 無駄金を叩いたの?」
今頃になって、馬車のありがたさを知る。好意だったにしろ、悪意だったにしろ、助かったのには変わりない。あの町に行くことがあれば、絶対に礼を言おう。心に誓った時、リックスがアヴリルに返事をする。
「俺たちは金なんて払ってない。町の人が出してくれたんだよ」
「えー? ずるっ。あたしだって乗ったことないのに」
アヴリルは私たちを視線で一舐めし、口を尖らせる。
「その町で、なんか人に役立つことでもしたんでしょ。じゃないと、馬車なんてねー」
「いや……」
ノエルとリックスは顔を見合わせ、苦笑いをした。
「ゴーレムにのされて寝込んでた」
「えっ、やばっ! ドジすぎるんですけど!」
アヴリルは片手で膝を何度も叩き、笑い転げる。今となっては笑い話にできるけれど、あの時は本気で死ぬかと思った。ゴーレムの赤い瞳を思い出すと身震いしてしまう。
「ドジって何だよ! 俺たちは本気で切りかかって――」
「じゃあ、リックスが弱い! かなり弱い!」
アヴリルは真顔に変わり、リックスを指差す。確信を突かれたリックスは、眉間にしわを寄せて押し黙る。
そこへノエルも小さく口を開いた。
「俺ものされたんだけど……」
「じゃあ、ノエルも弱い! 二人で弱々! よくオフィーリアを守りきれたもんだよ」
アヴリルは腕を組み、大袈裟に溜め息を吐いてみせる。
「明日から、素振りをしながら歩くこと! これは決定ね!」
「は!? そんなの、すぐに体力が持ってかれちまうじゃんか!」
「それですぐにバテるんなら、護衛失格。故郷に帰りな」
アヴリルはサラッと吐き捨てる。リックスも今度こそ何も言い返せずに、唇を噛んだ。
夜は王都で購入したパンと、釣った魚で飢えをしのぐ。旅の疲れが出たせいなのか、今日はいつになく眠い。
川辺で目を擦りながら星空を眺めていると、ノエルが隣へやってきた。
「オフィーリア、眠いのか?」
「うん……」
小さく頷いてみせると、ノエルは背中を優しく撫でてくれる。
「ここは俺たちが見張ってるから。眠るなら今のうちだぞ」
「ありがとう……」
立ち上がろうと腕に力を入れた――筈だった。膝に力が入らない。
「オフィーリア?」
駄目だ。頭がぼんやりとする。腕からも力が抜けていき、身体は横へと傾いていく。
「オフィーリア!」
返事をしたいのに、声が出ない。私はそのまま深い眠りへと落ちていく。
夢に見たのは、またしてもあの人の記憶らしきものだった。
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