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第7章 ローレンス / 第19話
夜は四人で一部屋に押し込められ、雑魚寝を強いられた。でも、いつモンスターが出てくるか分からない野宿よりもずっといい。
部屋の明かりはすでに消えている。フクロウの鳴き声、アヴリルとリックスの寝息を聞きながら、思考はローレンスの元へと沈んでいく。
最初に見た夢で、ローレンスとエスメラルダは恋人同士だった。エスメラルダは隣国への嫁入りが決まり、絶望へと染まる。彼女がローレンスの前で何をしようとしたのかは、分からないままだ。ただ、魔法を使おうとしていたことだけは分かる。それが危険な魔法であることも。
そこで、ふと気がついた。エスメラルダの足元に広がった魔法陣が、私の左手の甲に浮かんだ印と酷似しているのだ。寝転がりながら、左手を天井へと掲げてみる。ほのかに紫の光を発したような気がした。それが不気味で、さっと手を胸の上に置く。
「オフィーリア、起きてるか?」
ノエルの囁き声が聞こえ、そちらを向いてみる。
「うん」
「ちょっと外で話をしないか?」
どちらにしても、今日はまともに眠れないだろう。ノエルの誘いに頷き、こっそりと二人で家を出る。
街灯の蝋燭に魔法で火を灯し、畑の前で、二人で腰を下ろす。そよ吹く夜風が心地いい。
「オフィーリア。ローレンスのことを考えてたんだろ?」
「……うん」
「俺も一緒に考えよう。何か答えが出るかもしれない」
ノエルは空を見上げる。そのアイスブルーの瞳にも、数えきれないほどの星が宿っているように見えた。
「ローレンスはエスメラルダの恋人だった。ここまでは合ってる?」
「うん」
先ほども思考を巡らせた通り、間違いない。私が大きく頷いてみせると、ノエルも首を縦に振る。
「夢で二人は何をしてた?」
「ローレンスがエスメラルダの認識を正していって、でも、エスメラルダの十八歳の誕生日に、式典で暴虐者が現れて……」
「それで?」
「いつの間にか、ローレンスとエスメラルダは恋人になってて、エスメラルダが隣国に嫁入りすることが決まってて……エスメラルダは別れを拒絶して魔法を使おうとした。でも、その間がすっぽり抜けてるの」
何がエスメラルダをそこまで動かしたのか、その理由が見えてこない。私が小さく唸り声を上げると、ノエルは眉をピクリと動かした。
「……魔法?」
「うん。私の左手にある印と似た魔法陣だった」
今度はノエルにも見えるように、手を前方へと翳してみる。
ノエルは怪訝そうな表情のまま、私の顔を見た。
「おかしくないか? 魔法だぞ? 本来なら、聖女しか使えないはずだろ?」
「言われてみれば……」
では、エスメラルダも聖女だったのだろうか。しかし、聖女は世界に一人と決まっている。
エスメラルダは――何者なのだろう。沸いた疑問が膨らんで増殖していく。
「いや、仮にエスメラルダも聖女だったとしよう。じゃあ、ローレンスは何者だ?」
「エスメラルダを守る騎士……それしか分からない」
常にエスメラルダに優しさを見せている人だった。忠誠を崩すことはなかった。本当にそれだけなのだろうか。
分からないことが多すぎる。一瞬、強い風が私とノエルの間を通り抜けた。
「……ノエル、ごめんね。頭が痛くなってきちゃった」
「あっ、済まない。部屋に戻ろうか」
頭を抱えた私をノエルが支えてくれ、部屋へと戻る。相変わらず、アヴリルとリックスは幸せそうな寝顔を浮かべている。
その時、リックスの口が動いたのだ。
「オフィーリア……一人で、無理するなよ……」
リックスの瞼は開いていない。ただの寝言だろうか。夢の中でまで私を心配してくれるなんて。ノエルとリックスは、私には勿体ないくらい仲間思いの幼馴染だ。
ノエルは小さく笑い、そっと瞼を閉じる。私もそろそろ眠らなくては。大きく息を吐き出し、目を瞑る。眠っているのか眠っていないのか分からない微睡みの中で、またローレンスの笑顔を見てしまった。
私が完全に目を覚ます前に、アヴリルは覚醒したらしい。
「おーい、朝だよー! 起っきろー!」
この家の住人にも聞こえてしまいそうな声量で、アヴリルは叫ぶ。その声で一気に現実に引き戻された。
私が飛び起きると、ノエルはむくりと、リックスはのっそりと起き上がる。
「あー、よく寝た……」
「こんな状態でよく眠れるな」
寝ぼけ眼なリックスに、ノエルは苦笑いをした。
「睡眠も大事な旅の基礎だよ! 今回はリックスに軍配が上がったね」
アヴリルは「ふふん」と笑うと、早速、掛布団を畳み始める。泊めてもらっておいて、汚いままでは申し訳ない。私も布団を整頓し、箒をかけていった。
村を出た頃に、ぽつぽつと雨が降り始める。王都でいただいたフード付きの外套を纏い、水溜まりのできた、ぬかるんだ道を進む。
「うーん、雨の中で素振りしたら……流石に剣が錆びるかぁ」
アヴリルは残念そうにノエルとリックスへと視線を移す。ノエルは表情を変えることはなく、リックスは僅かな笑みを見せる。
「じゃあ、今日は素振りはなしだよな。な?」
「リックス、喜んでない?」
「いや、そんなことない」
リックスはアヴリルに言葉で拒否をしているけれど、感情が表情に駄々洩れだ。アヴリルを納得させられるわけもなく、彼女は盛大な溜め息を吐いた。
「先が思いやられるー」
でも、私は休憩も日ごろの鍛錬の一環だと思うのだ。アヴリルに一言言おうと口を開きかけたところで、道の脇にある茂みが揺れた。
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