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第6章 幻惑の森 / 第15話
はっと瞼を開けると、青空よりも先にノエル、リックス、アヴリルの顔が飛び込んできた。
私はまた、エスメラルダの夢を見たのだろうか。妙に現実的で、自分がエスメラルダになったような感覚に陥る。
「オフィーリア、大丈夫か?」
「うん……」
ノエルの問いかけにも、曖昧に答えてみせる。
「倒れた原因に心当たりはある?」
この夢が原因なのだろうか。しかし、決めつけられるほどの確証もなく、首を横に振ってみせた。腕に力を入れ、昨夜は動かせなかった身体を起き上がらせる。
「……王様が言ってたことを覚えてる?」
エスメラルダの夢は、私の中で閉じ込めておけるような規模の話ではない。言って信じてもらえるかは分からない。それでも言わずにはいられなかった。
「私は聖女になってから『エスメラルダ』の夢を見るようになった」
ノエルは眉間にしわを寄せ、リックスははっと口を開ける。しかし、アヴリルの方が言葉にしたのは早かった。
「エスメラルダって何? あたしを置いてけぼりにしないでくれる?」
「アヴリル。それは今から説明するから」
リックスが苦笑いをすると、アヴリルは不服そうに口を尖らせた。四人で円に座り直し、私の『推測』を並べていく。
「王様の話だと、伝承では『エスメラルダ』が王様の前に現れるはずだった。でも、現れたのは私。ここまではいい?」
「うん、まあ」
正面に座るアヴリルは、何度か頷いてみせる。
「そして、王様はこうも言ってた。『夢』を見ていないか? って」
「夢……?」
アヴリルは小さく首を傾げたものの、理解はできていないようだ。
「夢なんて、誰でも見るものじゃん? あたしだって毎日見るよ」
「それが普通の夢じゃないの。さっきも言ったでしょ? 『エスメラルダの』夢を見るようになったって」
「うーん……。じゃあ、そのエスメラルダって人がオフィーリアに夢を見せてるの?」
アヴリルは降参とでも言いたげに空を仰いだ。
「たぶん、違う。私はエスメラルダの『記憶』を見てるんだと思う」
この『推測』が合っているのなら、王が言っていた『伝承』とも辻褄が合うはずだ。
「つまり、どういうこと?」
「私はエスメラルダ『だった』んだと思う」
アヴリルの横でノエルは神妙な顔になり、リックスは口を曲げる。
「でも、オフィーリア。確証はないんだろ? それに、尻ぬぐいの意味は?」
「それは……」
夢には見ていても、結末が分からない。何も言えず、視線を落とした。
「だ~か~ら~! あたしに分からない話はしないでって言ってんじゃん!」
「俺たちにも分かんないんだよ! そんなに説明ばっかり求めるなよ!」
アヴリルの発言に怒りを覚えたのだろうか。リックスの声は僅かに震えていた。ここまで声を荒げるのは、リックスにしては珍しい。
アヴリルも不機嫌になってしまい、リックスにそっぽを向ける。
空気が戻るかは分からないけれど、口を開いてみる。
「分かるのは、エスメラルダがどこかの国の王女だったってことくらい」
「……じゃあ、王城を回ってたらエスメラルダに当たるかもしれない。もしかしたら、王様が言ってた……魔王城?」
ノエルは訝るように顎に手を当てた。王が『魔王城に行け』と言っていたのは、そういうことなのだろうか。
「……いや、飛躍しすぎたか?」
「それなら、『図書の国』で調べてみれば? 世界中の本が集まってるんだよ。各国王の家系図なんかも残ってるらしいし」
アヴリルは一つの提案を置く。本で調べられるのなら確実だし、無暗に各国を回る必要もない。
「私は賛成」
「俺もだな」
ノエルと顔を見合わせ、互いに頷いてみせる。しかし、リックスの機嫌は直っていないらしい。
「そもそも、魔王城はモンスターの根城だろ? 人間なんて住めたものじゃないよ」
リックスはぶっきらぼうに言葉を吐き捨てる。
「今はね」
返事をしたのがアヴリルだったので、余計に癇に障ったらしい。リックスは「ふん」と漏らし、一人で立ち上がった。そのまま河原の方へと向かう。
リックスの機嫌が直るのを待っていては、時間ばかりが経ってしまう。仕方なく、私とノエル、アヴリルで旅の支度を整える。
「図書の国に行くのはいいんだけど、幻惑の森を抜けなくちゃ駄目なんだよねー。あたし、あそこ苦手でさー」
「幻惑の森?」
「そ。瘴気が自分の大事な人に化けて出てくるってやつ」
大事な人――言われて一番に頭に浮かんだのは父の顔だった。モンスターから村を守るために数人を引き連れて敵地に出向き、帰らなかった人――。私は、きっと父の姿を見るのだろう。
「じゃあ、俺にはこの三人が化けて出てくるんだろうな」
ノエルは薄いタオルを畳みながら、苦笑いをする。
「え? それって、あたしも入ってんの?」
「勿論」
「よっしゃぁ!」
アヴリルはガッツポーズを決め込む。ノエルに認めてもらえたことが、相当嬉しいらしい。
そこへ、ようやくリックスが近付いてきた。ノエルが彼を見つけると、そっと声を掛ける。
「大丈夫か?」
「うん。まあ、俺も悪かったし」
どうやら、いつものリックスに戻れたようだ。ほっと胸を撫で下ろし、私もリックスの元へと駆け寄った。
「リックス、次の目的地は――」
「これ、オフィーリアの」
私の言葉を遮ったリックスの手には、水筒が握られていた。ただ頭を冷やしていただけかと思いきや、きちんと旅のことも考えてくれていたらしい。
私がそれを受け取ると、リックスはにこっと笑ってくれた。
ノエルとアヴリルの分もあるらしく、リックスは二人に水筒を手渡していく。
「ノエル」
「ああ」
「それとちっこいの」
「はぁー!? まだ言うの!?」
また一触即発になるかと思われたけれど、アヴリルは完全に怒ってはいないようだった。怒鳴った後で、口角が僅かに上がる。
「……行こう」
四人で昨日と同じ隊列を組み、道を進む。この先に真実があると信じて。
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