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第2話 / 全4話
十五歳。
この世界では、その日が人生を決める。
剣士になる者。
魔法使いになる者。
鍛冶師になる者。
そして、ごく稀に勇者のような特別な職業を授かる者もいる。
今日、俺――レオン・アークライトも、その運命の日を迎えた。
前世では神谷湊という名前で日本に生まれ、ガチャが大好きな高校生だった。
人生最後のガチャを引き、その結果を見ることなく死んだ。
そして神様に「転生します」と言われ、この世界にやって来た。
最初は戸惑った。
本当に異世界なんてあるのかと何度も思った。
でも十五年も暮らせば、それが現実だと嫌でも分かる。
今では、ここが俺の世界だ。
「レオン、準備できたか?」
玄関から父さんの声が聞こえた。
「うん、今行く。」
鏡の前で深呼吸を一つ。
緊張していないと言えば嘘になる。
人生が決まる日だ。
落ち着いている方がおかしい。
部屋を出ると、母さんが優しく微笑んだ。
「朝ご飯、ちゃんと食べた?」
「食べたよ。」
「緊張するとお腹が空くからね。」
「母さん、それは逆じゃない?」
思わず笑うと、母さんもつられて笑った。
「お兄ちゃん!」
妹のエマが勢いよく抱きついてくる。
「勇者になってね!」
「それは期待しすぎ。」
「じゃあ、大勇者!」
「それも期待しすぎ。」
「じゃあじゃあ、すっごく強い人!」
「それなら頑張る。」
頭を撫でると、エマは嬉しそうに笑った。
「レオン。」
父さんが俺の肩に手を置く。
「どんな職業でも、お前はお前だ。」
「……うん。」
「だから胸を張って行ってこい。」
その一言だけで、不思議と肩の力が抜けた。
父さんらしい励まし方だ。
◇ ◇ ◇
ベルン村の神殿前は、お祭りのような賑わいだった。
色とりどりの屋台が並び、大人たちは酒を飲みながら談笑している。
子どもたちは神殿の前を走り回り、自分たちも十五歳になったらどんな職業になるのかと話し合っていた。
「レオン!」
聞き慣れた声に振り向く。
幼なじみのリリアだった。
淡い金色の髪を揺らしながら、小走りで近づいてくる。
「おはよう。」
「おはよう! 昨日ちゃんと眠れた?」
「一応ね。」
「私は全然眠れなかったよ。」
苦笑しながら胸を押さえる。
「もし農民だったらどうしようとか、商人だったらどうしようとか、ずっと考えちゃって。」
「俺も似たようなものかな。」
「でも、一緒に冒険者になれたらいいね!」
そう言って笑うリリアにつられて、俺も笑った。
その時だった。
「静粛に。」
神官の声が神殿中へ響き渡る。
ざわついていた人々が、一斉に口を閉じた。
天命の儀が、始まる。
一人、また一人と祭壇へ上がっていく。
神官から名前を呼ばれ、水晶へ手を添える。
すると淡い光が全身を包み込み、その人に与えられた職業が空中へ浮かび上がる。
「R《剣士》」
「おぉ!」
家族から歓声が上がる。
剣士は冒険者としても人気の高い職業だ。
続いて。
「N《農民》」
「あちゃあ……。」
本人は苦笑いし、周囲からは励ましの声が飛ぶ。
職業に優劣はない。
……とは言うものの、この世界では戦える職業ほど評価されるのが現実だった。
そんな中、神官が次の名前を呼ぶ。
「リリア。」
リリアは小さく息を吸うと、ゆっくりと祭壇へ歩いた。
水晶へ手を添える。
次の瞬間。
黄金の光が神殿いっぱいに広がった。
「おぉ……!」
村人たちが思わず声を漏らす。
光が収まると、一枚のカードがゆっくりと現れた。
『SR《聖魔導士》』
一瞬の静寂。
そして――。
「すごい!」
「SRだ!」
「ベルン村始まって以来じゃないか!?」
神殿中が歓声に包まれた。
リリアは驚いたように両手で口を押さえ、信じられないという表情でこちらを見る。
目が合う。
俺は笑って親指を立てた。
するとリリアは、少し照れながら笑顔を返してくれた。
「次。」
神官が静かに告げる。
「アレス。」
会場の空気が変わる。
村一番の秀才。
剣も魔法も誰より優秀。
誰もが期待する少年だった。
アレスは落ち着いた足取りで祭壇へ上がる。
水晶へ触れた、その瞬間だった。
眩い光が神殿を包み込む。
金色ではない。
白銀にも近い、神々しい輝き。
思わず目を細めた。
そして空中へ浮かび上がった文字を見た瞬間――
『SSR《勇者》』
誰も声を出せなかった。
数秒後。
「勇者だぁぁぁぁ!」
神殿が揺れるほどの歓声が響き渡った。
「本当に勇者が現れた!」
「ベルン村の英雄だ!」
「王都へ報告しろ!」
村長まで興奮している。
アレスは少し困ったように笑いながら、一礼した。
さすがだな。
そう思うしかなかった。
そして。
神官が最後の名前を呼ぶ。
「レオン・アークライト。」
神殿中の視線が、一斉に俺へ集まった。
大きく息を吸う。
父さんの言葉を思い出す。
『どんな職業でも、お前はお前だ。』
……よし。
祭壇へ一歩踏み出した。
祭壇の中央に立ち、ゆっくりと右手を水晶へ重ねる。
ひんやりとした感触が掌へ伝わった。
神官が静かに祈りを捧げる。
「汝に神々の導きがあらんことを――。」
次の瞬間。
水晶が淡く輝き始めた。
光は俺の身体を包み込み、ゆっくりと一枚のカードを形作っていく。
固唾を呑んで見守る村人たち。
俺も思わず息を止めた。
カードに文字が刻まれていく。
R――。
少しだけ胸を撫で下ろす。
Rなら冒険者としてやっていける職業も多い。
だが、その下に浮かび上がった文字を見た瞬間。
『ガチャ師』
「……え?」
思わず声が漏れた。
聞いたことがない。
俺だけじゃない。
神殿中が静まり返っていた。
さっきまで勇者の誕生に沸いていた空気が、嘘のように消えている。
「ガチャ師……?」
「そんな職業あったか?」
「初めて聞いたぞ。」
ざわざわと戸惑いの声が広がる。
すると、一人の老人がぽつりと呟いた。
「ああ……思い出した。」
全員の視線が老人へ集まる。
「わしが若い頃、一人だけおった。」
老人は懐かしむように目を細める。
「じゃが、あやつは何もできんかった。」
「冒険へ出ても魔物に勝てず、すぐ村へ戻ってきた。」
「結局、一度も名を上げることなく姿を消したよ。」
老人は小さく首を振る。
「ガチャ師は……最弱職じゃ。」
その一言で、空気が決まった。
「かわいそうに……。」
「せっかくアークライト家に生まれたのに。」
「父親は元Aランク冒険者だろ?」
「幼い頃から剣も教わってたし、期待してたんだけどな……。」
そんな声があちこちから聞こえてくる。
父さんは若い頃、この辺りでは名の知れた冒険者だった。
現役は引退した今でも、その実力と人柄から村で慕われている。
だから村の人たちは、俺も父さんのように立派な冒険者になるものだと思っていた。
その期待を打ち砕いたのが――《ガチャ師》という職業だった。
誰も悪気はない。
本気で俺の将来を心配しているからこその言葉だった。
俺はカードを見つめたまま動けなかった。
ガチャ師。
本当にそんな職業があるのか。
名前だけ聞けば、前世の俺なら飛びついて喜びそうな職業なのに。
その時。
ポン、と肩に大きな手が乗った。
父さんだった。
「帰るか。」
それだけだった。
励ましもしない。
慰めもしない。
職業について何も聞かない。
ただ、いつも通りの父さんだった。
「……うん。」
その一言だけで、不思議と胸のつかえが少し軽くなった。
俺は父さんの隣を歩き始める。
神殿のざわめきが、少しずつ遠ざかっていった。
村への帰り道。
父さんも俺も、しばらく何も話さなかった。
聞こえてくるのは鳥のさえずりと、草を揺らす風の音だけ。
俺は何度も手の中の職業カードを見つめる。
R《ガチャ師》
見れば見るほど、前世のゲームを思い出す名前だった。
ガチャ師か……。
ゲーム好きとしては、ちょっと気になる職業なんだけどな。
そんなことを考えていると、不意に視界の端で小さな光が瞬いた。
――ピコン。
「……ん?」
思わず立ち止まる。
「どうした?」
父さんが振り返る。
「いや……なんでもない。」
父さんには見えていない。
俺の目の前にだけ、半透明の画面が浮かび上がっていた。
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職業を確認しました。
専用システムを起動します。
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「専用……システム?」
画面が静かに切り替わる。
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ガチャ図鑑
初回起動中……
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次の瞬間。
まるで本棚のように、無数のページが目の前へ広がった。
「うわっ……。」
思わず声が漏れる。
ページには細かな文字が並び、次々と項目が表示されていく。
武器図鑑。
防具図鑑。
魔物図鑑。
スキル図鑑。
称号図鑑。
料理図鑑。
地域図鑑。
まだある。
素材図鑑。
道具図鑑。
さらにページは続いていく。
「多っ……!」
前世でも図鑑を埋めるのが好きだった。
ゲームを始めると、まず図鑑を開いて、空欄を全部埋めたくなる。
その癖は、この世界でも変わらないらしい。
最後のページへ辿り着く。
━━━━━━━━━━━━━━
図鑑達成率
0%
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一瞬、時間が止まった。
「……コンプリート、できるのか?」
自然と頬が緩む。
さっきまで周りが絶望していたことなんて、もう頭から消えていた。
全部集めたい。
その一心だけが胸の中でどんどん大きくなっていく。
その時だった。
新しい画面が、静かに表示された。
━━━━━━━━━━━━━━
無料10連
READY
━━━━━━━━━━━━━━
「…………え。」
思考が止まる。
そして次の瞬間。
思わず笑ってしまった。
「異世界でも……ガチャかよ。」
指先が、ゆっくりと『無料10連』へ伸びていく――。
――その瞬間、視界が青い光に包まれた。
(第3話へ続く)
────────
第2話を読んでいただき、ありがとうございました!
ついにレオンが《ガチャ師》となり、物語が本格的に動き始めました。
次回は、いよいよレオンが異世界で初めてガチャを引きます。
「続きが気になる!」と思っていただけたら、ブックマークや評価、感想で応援していただけると励みになります!
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