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第一章 火の魔法 FER(フェル) / 第7話
カイエは花束を手に、屋敷の中をうろうろしていた。
アミナスにお礼を渡しに行きたいのに、何を渡せばいいのか分からなくて困っていた。
花束には白黒の蝶が止まり、のんびり蜜を吸っている。
「うーん……アミナス、お菓子とか好きかな?」
厨房を覗くと、休憩中だった料理長クラウスと目が合った。
「おやつには、まだ早いですよ?」
「違うよ! アミナスにお礼を渡したくて……」
そう言いながら、カイエはキョロキョロと厨房を物色する。
クラウスはすぐに事情を察してニヤリと笑った。
「なるほど。では豪華にいきましょう! デザート用のケーキを少し包みますよ」
「うん!!ありがとう!!」
ケーキを切り分けてもらう横で、カイエはコンロの上の鍋に目を奪われた。
グラグラと煮立つお湯。
プツプツと生まれる白い泡。
「白いブクブク……」
「ふふ、やはり気になりますか?」
クラウスが笑いながら言った。
「水は温めると泡が出て、どんどん湯気になってなくなってしまうんですよ。不思議でしょう?」
「ゆげ?」
「そうです。これです」
クラウスは煮立った鍋を持って、窓辺に近づける。
湯気が窓ガラスに当たってゆらゆらと曇るのを見て、カイエの目がキラキラと輝いた。
気化。
「きか!」
よくわからない単語が、なぜかストンと腑に落ちた。
さっそくノートに書きたい!!
ノート!ノート!!
ノートどこ!?
「……ノート……無い」
カイエは項垂れた。
クラウスは笑いながらケーキの包みを渡した。
「大丈夫ですか? ケーキできましたよ」
「うん……ありがとう、クラウス」
カイエはトボトボと魔導士棟へ向かった。
◆◆◆
『
フェルティア
火がとぶ
水にあたるときえる
火はどこへいった?
→ あとでしらべること!!
』
アミナスはベッドの上で、カイエのノートをめくっていた。
魔導士の備品と同じものだったので、アミナスのノートだと思われたようだ。
お見舞いの品と一緒に、誤って届けられていた。
(お嬢様は……火属性魔法を根本から調べているのか)
フェル
フェルティア
フェルガンティア
初級、中級、上級。
とっくの昔に体系化された魔法だ。
なぜ、今さら……
『魔法が使える理由』
『火は水にあたると消える』
当たり前を疑問視する視点と、観察と検証を繰り返す執拗さ。
子どもだから?
ただ気になっているだけ?
拙い文字と本気度のちぐはぐさに、アミナスは頭を抱えたくなった。
コンコンコンコン
「アーミーナースー!」
カイエの元気な声が廊下から聞こえてくる。
「えっ、お嬢様!?」
ガチャガチャとドアノブが回される。
「あっ、鍵かかってるー」
「もー、調べてから来てよ。 カイエのバカ」
慌てて鍵を開けると、カイエが花束とケーキの包みを持って立っていた。
「あっ! アミナス、ごめんね!」
「いえ、それはいいのですが。 こんなところまで、なぜ……」
アミナスが言いかけて、ピタリと止まった。
白と黒。
花束に止まる蝶の色に、あの日見た獣が重なる。
「あの……ときの……っ」
アミナスが固まっている間に、エコーはヒラヒラと部屋に入り、リスの姿に変わってお菓子に突撃した。
「ごめんね、アミナス。 エコー、食いしん坊だから……」
「えっ、いえ……」
「あ! こら、エコー! アミナスにちょうだいって言わないと、食べたらダメだよ!」
お菓子を貪る白黒リスと、それを叱るカイエ。
ポカンと見つめていたアミナスに、カイエはケーキと花束を押し付けて、明るく笑った。
「助けてくれて、本当にありがとう!」
ニコッと笑うカイエに、アミナスは曖昧に頷いた。
「あっ、私のノート!」
カイエはベッドの上のノートに気づいて飛びつき、ペラペラとページをめくり始める。
「アミナス、ペン貸してね!」
「えっ、あっ、はい……」
カイエは勢いよく新しいページを開き、書き始めた。
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『
みず
↓
あつくなる
↓
しろいブクブク(ゆげ)
きか、している?
』
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「……?」
アミナスは首を傾げた。
何がそんなに嬉しいのか分からない。
だが、ノートを抱きしめるカイエだけは、宝物を見つけたみたいに目を輝かせていた。
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