読み込み中...
読み込み中...
第一章 火の魔法 FER(フェル) / 第6話
伸びた爪に、ささくれた指先。
光る画面。
乱雑に積み上がった本と書類。
空になった瓶。
ひどく退屈だった。
何かを知り、何かを作りたかったのに。
何をしていたのかも、思い出せない。
『ねえ。 まだできてないの?』
突き刺すような、冷たい声。
(急いでやらないと……)
……何を?
カイエは記憶を追いかける。
仕様は……納期は……検証は⸻
「だめ」
額の柔らかい感触に、カイエの意識は微睡んでいく。
「……でも」
「こわれるよ」
「……でも」
「もー。 ほら、ねちゃえ」
肉球が額をぽんと叩く。
あたたかい。
安心する。
カイエの意識は深く深く、ゆるやかに沈んでいった。
◆◆◆
ぼんやりと、見慣れた天井が見えた。
どうやら、助かったらしい。
「……火、燃えてなかった」
ポツリと呟く。
「あら、起きたの?」
優しい声。
「かあさま……」
母のユリアがベッドの傍らに座り、穏やかに微笑んでいた。
「心配したわ。 この一週間で“二度“も倒れたと聞いて……隣国から急いで帰ってきたの」
頬に手を当てて、ふぅと息を吐く。
「ねぇ、グレン?」
部屋の隅でビクッと影が跳ね上がる。
カイエがゆっくり身を起こすと、大きな身体を縮こまらせた父が気配を殺して立っていた。
「不思議ね。 私が帰省するからとカイエをお願いしたのに、なぜ“二度“も目を離したのかしら?」
グレンがしおしおと、その場にへたり込む。
正座。
(せいざ?)
またよくわからない単語が浮かんだが、何となくくだらないことのような気がした。
ユリアはカイエの頭を優しく撫でながら、諭すように言った。
「カイエ。 あなたのその好奇心や探究心は、アシュクロフト家の血だから止められないのは理解している。 でもね……」
ふと、撫でる手が止まる。
「一人で実験をするのはダメ。」
声を振るわせたユリアの目に涙が滲んでいるのを見て、カイエも胸が苦しくなった。
「……ごめんなさい」
申し訳なさと安堵が混じり合い、ポロポロと涙が溢れた。
ユリアはカイエを抱きしめ、ぽんぽんと背を優しく叩く。
「アミナスという子に助けてもらったのよ。 後でちゃんとお礼を言っておきなさいね」
「……はい」
グレンもそっと近づき、二人を抱きしめた。
親子三人で、しばらく泣きながら抱き合った。
カイエは母の胸に顔を埋めながら、あの瞬間のことを思い出していた。
(あれは火じゃなかった)
水の中で見た、あの白い光。
あれが何だったのか。
ちゃんと知りたくなっていた。
この話はいかがでしたか?
この作品を評価する